7 胡乱-3-

「クジラ様の恩恵ってのは最後は必ず処分できるんですわ。処分ってのは捨てる、って意味じゃありませんぜ。

どんな物でも、探せば欲しがっている人はいるってことなんで。値段がつかないような物はあまり出入りしない依頼主にタダで渡すんだ。

そうすりゃ相手はタダでもらった負い目から、いずれ美味しい依頼をよこしてくれるって寸法さ」

「なるほど。しかし欲しがっている人を探すといっても、どうやって見当をつけるんだ?」

「そりゃあここ、ここの使い方ですわな」

 ダージは自分の頭を指差した。

「調達屋ってのもいろいろだ。オレみたいに金属や宝石専門の奴もいれば、植物の種に強い奴もいる。得意分野はそれぞれなんで。

で、そいつらと情報交換してるんですわ。あの町のあいつはこれを欲しがってるぞ、ってな具合さ。だから顔は広けりゃ広いほどいい。

中にはそういう情報を専門に扱ってる調達屋もいるんですぜ? まあ値は張りますがね……」

 うまくできているな、とカイロウは感心した。

「ってなワケで拾うことはあっても、捨てに行くってことは考えらんねえ。捨てるくらいならそもそも拾わない。それが鉄則だ。

割れたガラス瓶だって溶かしゃ原料になるってんで引き取り手があるくらいなんだ。ましてやその銅板ならオレのところか――」

 需要のあるところに持って行くハズだ、と彼は言った。

「だから不思議なんでさあ。それがなんでクジラ様から降ってきたのか。ダンナなら何か分かると思いましてね」

「うむ……」

 カイロウは金属板を並べて見比べてみた。

 しばらく眺めているとあることに気付き、

「もうひとつ。これは同じ場所にあったのかい?」

 刻まれた記号をメモ用紙に書き写しながら問う。

「全部さっき言った聖地で拾ったものですわ。範囲は数十メートルってところですかね。どれも浅いところにあったから確かなことは言えませんが、

一度に降ってきたものと考えていいでしょうな」

「他にもありそうか?」

「行ってみないことにはどうにも。タードナイトのついでに拾ってきたものなんで」

 それ以上のことは分からないと、ダージも首をかしげるばかりだった。

「うん……」

「あの、ダンナ。それってのは、やっぱりダンナが作ったものなんで?」

 彼は曖昧に頷いた。

「多分そうだ。どれも記号と番号が2列ずつ刻まれているだろう? 上の文字は私が彫ったものだ」

「サインみたいなもんですかい? じゃあ下の列にある長ったらしいのは?」

「私じゃないが、だいたいは分かる」

 彼の中ではある程度考えがまとまってきているが確信は持てない。

 これを明らかにするには協力者が必要だ。

「もらってもいいか? 代金ならちゃんと――」

 銀貨を取り出した彼をダージは制した。

「それがダンナの作った部品なら、二重に金を受け取ることになっちまいます」

 小さな銅板が数枚では、タードナイト1個にも及ばない。

 この程度で大口の固定客との結びつきが強まるなら安いものだ。

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