7 胡乱-1-

 帰宅したカイロウは倉庫から取り出した材料を作業台に並べた。

 レキシベルに納入する部品の製造のためだ。

 剪断加工は既に終わっている。

 今日の作業はそれらをつなぎ合わせ、ネジで留めるだけの簡単なものだ。

 ただしこなすべき数が多い。

 ウォーレスから受け取った資料によれば、規格ごとのカラーリング指定もかなり細かくなっている。

 そのあたりのセンスに乏しいカイロウでは着色まで手は回らない。

 他にやるべきこともあるから組み立てのみに注力し、仕上げ作業はレキシベルに任せることにした。

(私も人手が欲しいところだな)

 延々とネジ留め作業をこなしながら、ふとそんなことを考える。

 金のためとはいえ、時間を取られるのは惜しい。

 本命は別のところにあるから、できることならそちらに没頭したかった。

「ダンナ、捜しましたぜ」

 細身の男がドアを開けて入ってきた。

「ダージ、ノックを忘れるなと言っているだろう」

 ネジを落としてしまったカイロウは舌打ちした。

「おっと、つい……でも勘弁してくだせえよ。その代わりに上物を持って来たんですから」

 彼は樽のように膨らんだ大袋を3つ、部屋に運び込んだ。

「ああ、そこに置いておいてくれ」

 カイロウは目の前の作業に集中していた。

 ネジを留める際にわずかでも歪みが生じれば規格の強度を得られなくなる。

「タードナイトですぜ?」

 ぼそり、とダージが言う。

 手元が狂い、飛び跳ねたネジが作業台の下に落ちてしまった。

 彼はそれには目もくれず、袋の中を覗き見た。

 薄紫色の宝石がびっしりと詰め込まれている。

 そのひとつをそっと取り出す。

 拳大のそれはずしりと重い。

「たしかに……」

 この石はどういう仕組みか、手に持つとわずかに発熱する。

 カイロウは掌から伝わる温かさに目的の品であると確信した。

「それにしてもこんなに大量に?」

「前回はヘマしちまったんで、やり方を変えたんですわ」

 ダージは慎重に慎重を重ね、ここに来る際にもボディガードを雇ったという。

「そうだったのか。仕事とはいえ苦労をかけてしまったな」

 調達屋という仕事はなかなか難しい。

 依頼者の望むものを見つけ出し、届ける。

 ただそれだけなのだが、多くの障害がつきまとう。

 まずは落下物。

 恵みの雨に目当ての物を見つけるのが常套だが、功を焦るあまり迂闊に飛び込めば落下物で怪我をしかねない。

 死傷した同業者を何人も見ているダージは、よほどの理由がなければ雨の中には飛び込まない。

 無事に目標物を手に入れても、依頼者の手に渡るまで仕事は完了しない。

 そこで脅威となるのが賊だ。

 彼らは複数で行動し、主に調達屋の帰りを狙う。

 貴重な植物の種や金銀珠玉を見つけたら、彼らは野獣のごとく奪いにかかる。

 実は賊にもポリシーがあり、抵抗せず持ち物を差し出せばけして危害は加えてこない。

 だが抵抗する素振りを見せれば、連中はその命もろとも金品を奪い取ってしまうのである。

 ダージが長くこの仕事を続けられるのも、こうした障害を巧みにかわす術を身に付けているからだ。

 命を賭してまで一攫千金は狙わない。

 細く長く、そして時に貪欲に、が彼のモットーだった。

「この道を選んだのはオレですからね。ダンナみたいな腕がありゃあ別の仕事をしてたかもしれませんがね」

 機械いじりは苦手だ、と彼は笑った。

「これだけ集めてくれたんだ。報酬は上乗せさせてもらうよ」

 カイロウはあらかじめ用意しておいた金に、生活費としてよけておいた硬貨を継ぎ足してダージに渡した。

「こりゃあ……ありがてえんですが、こんなにもらっちまっていいんで?」

「ボディガードも雇ったのだろう? これくらいは払わなければ次から仕事を頼みにくい」

「なんとまあ気前のいい」

 他にも固定の取引相手はいるが、カイロウほど金払いのいい依頼主はそうはいない。

 特にあの宝石に関しては多少値段を吊り上げても現金で買い取ってくれる。

「じゃあ、ダンナの気が変わらねえうちにいただいときます」

 唯一の難点は振り込みにしてくれないことだ。

 おかげで帰り道にもボディガードのお世話になることになる。

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