3 調達屋-2-

「着いたぞ」

 目の前に丘陵が広がっている。

 闇夜の中では分からないが、昼間に来ればここがどのようであるかはすぐに分かる。

 この丘はクジラの恩恵が堆積してできたものだった。

 様々な落下物が風に吹かれ、砂に埋もれ、雨に濡れ――。

 それを繰り返すうちに地形の一部となってしまったものだ。

 だからその辺りを適当に掘るだけで、いろいろな物が見つかる。

 鉄くずやガラス片くらいならば、10分も歩き回れば満足できる量が手に入るだろう。

 植物の生命力は凄まじく、そうした雑品をかき分けるように名も知らない木々があちこちから生えている。

 クジラは今でもこの場所に恵みの雨を降らせるから、丘はさらに大きく広くなっていく。

 もう何百年かすれば、この辺りは立派な山になるだろう。

「ここから右手に向かって歩く。小さな木の棒が3本並んで立っている場所を探してくれ」

 ダージたちは手分けしてそれを探した。

 金属製のパイプや木片が突き出している場所もあり、見つけるのは容易ではなかったが、

「おい! これじゃねえのか!?」

 夜目が利くクイがランプを掲げて激しく振る。

「あんな活き活きした人魂は見たことがないぞ……」

 呆れながらダージが駆け寄る。

「ああ、間違いない。これだ、これだ」

 よくやった、と彼は褒めた。

「目印か?」

「そうだ。でも目的の場所はここじゃない」

 ダージは最も長い棒の傍に立ち、並んだ木の棒の延長線上を歩いた。

「18……19……20。この下だ。道具を貸してくれ」

 荷物一式は力自慢の2人に持たせてあった。

「それくらいならあたしたちも手伝うさ」

「ああ、でも慎重に頼む。傷がついたら値が下がっちまう」

「分かった。あんたも気を付けなよ?」

 ネメアに言われ、クイはそっぽを向いた。

 各々、作業道具を手にする。

 小石を払いのけ、砂をかき分けるように掘っていくとランプの明かりを照らし返す宝石が大量に出てきた。

「これは何だ?」

「タードナイトっていう石だ。何に使うのか知らないが、うちのダンナが高値で買い取ってくれるんだ」

「へえ、こんな石っころがねえ……」

 わずかな明かりの元では黒とも白ともつかない、ただの塊にしか見えない。

「太陽の下だとけっこう目立つんだ。この前は白昼に運んでてならず者に奪われてしまったからな」

「それでこの時間に、ってワケか」

「ああ。この前のお恵みの時に隠しておいたんだ。昼間には宝石だが、夜ではただの石ころさ。埋めておきゃまず見つからないと思ってな」

 恩恵を賜るにも知恵がいるんだ、とダージは得意気に言った。

 その時、遠くから音が聞こえた。

 風を斬るような、甲高く、鋭い音だ。

 だが3人は気にも留めずに宝石を袋に詰め込んでいく。

 いっぱいまで詰めて口の部分を結ぶと、ずしりと重い。

 並みの男ではたった一袋を抱えるのでも精一杯だろう。

 こういう時、精悍なボディガードは役に立つ。

「持てるだけ持ち帰りたい。袋はまだあるからどんどん入れてくれ」

 小分けにして往復すれば、その分だけ2人に賃金を払わなければならない。

 かかる時間やリスクを考えれば多少無理をしてでも一度ですませるほうがいい。

「んん……?」

 ダージは金属板を見つけた。

 大したものではない。

 この仕事をしていれば飽きるほど目にするものだし、さして値打ちのないものだともすぐ分かる。

 だが彼は魅了されたようにそれを手に取っていた。

 20センチ四方の、わずかに湾曲した板だ。

 よくよく目を凝らしてみれば、同じようなものがあちこちに落ちていた。

「どこかで――」

 見たような気がする、と無意識に呟く。

 明らかに加工した痕跡がある。

 たとえば側面に走る細い溝や、それに沿うように等間隔に開けられたネジ穴は人為的なものとしか考えられない。

 ためしにと裏返してみると、記号のようなものが彫られてあった。

 規格を表すものなのか、それとも誰かの署名なのか。

 その意味は彼には分からない。

 ただ、このまま投げ捨ててはいけないような気がした。

 長年、この仕事をしてきた彼の勘だ。

 もしかしたら値打ちのあるものかもしれない。

 これは売らずにしばらくとっておこう。

 ダージは金属板を腰袋に押し込んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る