5.糸杉

墓場の煙が鼻につく。

午後2時に家を出る。


政府からの配給食糧はない。



どくろに刻まれた先住民族の模様。

クジラは明日やってくる。

必ず明日やってくる。


繰り返すが、食料はもうない。


ベルリア軍政府は隣国の傀儡である。

そして軍部は隣国の大統領から略奪許可の期間を与えられた。


空爆に次ぐ空爆の中。

アルモール奴隷軍はついに飢餓に耐え新政府の樹立を成し遂げた。


この国は、とある過去の記録から生まれた。


12世紀に向達という中国人がベルリア本土に向かったが、最後にはバミューダ海域へ墜落してしまった。

残された彼の航空機録画記録がもとになり開かれた国だ。


航空機録画もとになっているため、

彼らの主張も非常に航空記録的だ。


月ラクダが狩りに出ると聞いた時、新政府は怒りをあらわにした。


対処のために月ラクダ泳法という新しい法律が出た。


旋回して海を泳ぐ民族であるボストラル人は、『春の一番最初に野焼きの煙を上げる人』として誇り高く彼らのやり方に従って怒りをあらわにした。


あらゆる民族が英気をあげて突撃していく。

国の半ばにあるジャングルでは、あちこちで野営の煙が上がっているのが見られた。


火にくべられた糧食のほとんどは、ローストしたドスタミゴの肉。

他の国では絶滅危惧種だが、この国ではただの畑あらしの害獣であり、駆除に苦労していたため戦時中の配給としてこいつの肉が割り当てられていた。

それからクダウツボの煮込み。逆さにとげが付いてるから、急いで食べることができないのに、なぜかよく配給される。

この国が戦争に負け続けた理由は、この配給を見ればわかるさ、あまりに愚鈍なのだと新政府軍の大将が笑ってテレビで言っていたのが記憶に新しい。

彼にいつも寄り添っていた美女軍団の衣服も、あのころはちゃんとしたつぎあてのないシルクだった。



宇宙クラゲたちが産卵の時期を終え、戦争国の国境をわざわざ侵してまで見物に来る迷惑な観光客たちがいなくなったタヒダン峠への道の途中に

糸杉畑があった。



糸杉は誰かが作り出したてんぐ綴りのつまらない一枝が伸びたものに過ぎなかった。


けれどそれらの杉玉は時を超えて宇宙めがけてゆっくり伸びるものだった。

かってベルリア人たちは5月の祭りをその杉玉で祝ったのだ。

飾り立てられた娘が糸玉の女王に扮し、家々を貢物を求めて訪問した。


今はそんなことを語るのは90を超えた老婆だけ。

(この国には90を超えた男は居ない)


糸杉は生を寿ぎ、死を鎮めるものだった。


生を寿ぐ面は忘れ去られ、不吉の象徴となった糸杉畑に近づく者はもういない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る