第6話 ユニークスキル 『白雪』


 魔物が活発になる22時まであまり時間もないので、俺は倒れている賢猿に近づき、毛皮をまさぐる。



「おっ、あったぞユキ」



 そして元々お目当てのものであったラマの実を見つけ、ユキに見せる。



「良かった…。かなり激しく動いてたから、途中で落としてなくて良かったよ」


「あぁ、あとは…、この火をどうにかしないとな」



 安心したように言うユキの言葉に軽く同意し、俺は依然として轟々と燃え続ける森を見る。



「だいぶ燃え広がっちゃったね、怒られなければいいけど…」


「その為にも早く消さないとな、もう大分騒ぎにはなってるだろうし…」


「だよね〜。やっぱり消すとしたらアレ?」


「まぁこれだけ広範囲じゃそれしかないだろ。それとも水球の分散極小で消せるか?」


「ううん、無理だね。結局分散は元の魔法を分けてるに過ぎないから、これだけ広範囲になったらそれこそ上級とか最上級の水魔法じゃないと」



 俺たちの扱える水属性の技や魔法は、精々中級止まりだ。


 その程度の技や魔法では、ユキの言うとおりここまで燃え広がってしまっては焼け石に水でしかないだろう。



「それじゃ、やるしかないな」


「賢猿と戦ってる時は使わないで後処理で使うっていうのも謎だけどね」



 そう言ってユキが苦笑する。



「けどギリギリの戦いも楽しかっただろ?」


「まぁね〜。それじゃさっさとやろっか。『換装』」



 ユキの持っていた木の杖が消え、代わりに真っ白で豪華な形の杖が現れる。



「『換装』」



 ユキに続き俺も、剣を鉄剣から真っ白で神秘的なものに変える。


 これはそれぞれ、ユキの持つ杖を【雪杖】そして俺の持つ剣を【雪剣】と言い、例のX Worldクロスワールドのイベント優勝商品であり、このゲーム唯一の雪属性武器だ。


 今着ている戦闘時の服とセットで、合わせると良く映える。

 ちなみにこの服もその武器と同じ雪属性だ。


 戦いが終わったのにわざわざ武器を入れ替えたのには、もちろん火を消すために、あるスキルを使う為だ。


 そのスキルは、X Worldのイベント優勝の最後の景品であり、俺とユキの為だけに用意されたユニークスキルだ。


 それは俺とユキが二人して雪属性装備をフル装備したときにだけ使える。俺とユキ、二人でいないと使えないスキルだ。


 俺はスキルを発動するためにユキの手を握る。


 そして声を揃えてユニークスキルを発動する。



「「『白雪』」」



 発動すると俺とユキの装備が白く輝き、雪の結晶模様が浮かぶ。



 更に、どこからともなく雲が現れ、空を覆い尽くしたかと思うと、雪が降り出した。


 これが白雪のな効果だ。


 ユニークスキル『白雪』は、簡単に言えば覚醒系のスキルに分類される。

 一定時間ステータスが向上し、特殊なスキルや能力が使えるようになる。



「よし、でもこんなちらちらした雪じゃ火事は収まらねぇ」


「うん、任せて。雪魔法『豪雪』『吹雪』」



 ユキが杖を天に掲げると、さっきまではしんしんと静かに降っていた雪が急に激しくなり、風も出て一瞬で猛吹雪となった。


 普通の人はもう一寸先も見えないような有様だが、そんな中でも俺とユキの視界は白雪の効果のよってクリアだ。



「『雪操作』」



 ユキが魔法によって雪の勢いをどんどん強めていく中俺は、燃える森を中心に渦を巻くように操作、制御する。



「これだけの雪があれば火も消えるだろ」



 そう、俺たちの考えは、白雪の能力の中でも降る雪を操る力を使って火を消す、と言うものだ。


 雪も溶ければ水だしな。


 俺は火が消えていくのを確認しつつ、徐々に雪の渦を狭める。



「よし、もう大丈夫だろ」



 そうして火を消し切ると、後には雪による白銀の世界が残った。


 もうそこに火は残っていない。


 それらを確認した俺たちは換装で元のザ村人の格好に戻る。



「ふぅ、うまく行ってよかったな」


「うん、けど森は結構燃えちゃったね。怒られそう…」



 ユキの言う通り森は奥に向かってかなり燃えてしまっている。

 確かにこれはキリヤ達トッププレイヤー共に怒られそうだ。



「よし、逃げるか」


「えっ」



 そうと決めた俺は、ユキの手を取ってセンターシティに向けて走る。



「ちょ、ちょっとシロ!?白雪使っちゃったからどのみちバレるよ!」


「今バレて怒られてたらナタおばさんのクエスト間に合わないだろ。怒られるのは後だ!」


「えぇ〜!」



 森が燃えたり雪が降ったりという騒ぎを聞きつけた野次馬をすり抜けてナタおばさんの元を目指す。


 白雪のスキルは切れ、反動で倦怠感が凄い。


 しかしそれでも走り続け、22時直前で森を抜けた。



「はぁ、はぁ、ちょっとシロ、速すぎ…。今反動でステータスがた落ちしてるんだから」


「すまん、だがあと少しだ、行くぞ」


「えっ、ちょっとシロ?何しようとしてるの?」



 しんどい身体を動かし、ユキを抱き上げる。



「我慢してくれ、行くぞ」


「ッ〜〜〜〜!!アホ〜〜〜!!!」




 それからユキにバカだのアホだの言われながら走り、ナタおばさんの家に着いた。



「まったく、シロ!なんてことするのさ!」



 下ろした瞬間ふんすっ、といったように怒り出すユキ。



「でもお前なんか嬉しそうじゃなかったか?」


「嬉しくない!」


「いや、でもーー」


「嬉しくない」


「あ、はい。さいですか」


「そうです!」


「わかったからこれ、ナタおばさんに渡してこいよ」



 話が平行線にしかならないと思った俺は、怒っているユキにラマの実を投げ渡す。


 まだ言い足りなそうであったが、ラマの実を受け取ったユキは渋々ナタおばさんを呼び、家の中に入っていった。



「うわ、キリヤからメッセージ来てる…」



 ようやく落ち着けたところでメニューウィンドウを開くと、案の定、俺たちのユニークスキルを知る人にはバレたようで問い詰める内容のメッセが来ていた。



「明日でいいか…」



 疲れている俺はそのメニューをそっと閉じた。


 その時タイミング良くユキが家から出てくる。



「シロ!じゃーん!クエスト達成だよ!」



 恐らく報酬のスイーツだろう。

 ユキは小さな箱を掲げて嬉しそうにしている。


 さっきまでの怒りはスイーツを前にどっか行ったみたいだな。



「良かったな、それじゃ、ホーム帰るか」


「は〜い」



 そうして俺たちは遂に、長い長いクエストを終えてホームまで帰った。


 南の森まで戻って来ると、野次馬で凄いことになっていた。

 しかし、俺たちのホームは普通の森の入り口とはかなり離れたところにあるので、誰にも見つからずに帰って来ることができた。



「はぁ〜、疲れた〜」


「もう今日はログアウトしちまおう、ユキも報酬のスイーツは明日にしとけ。ゲームのなかでは腐らないんだから」


「は〜い、でも本当にシロの分も貰って良いの?」


「あぁ、良いよ」


「でもシロあんなに頑張ったのに」


「そうだな…、それなら俺のいる前で食べてくれないか?」


「え?そのくらい良いけど、そんな事で良いの?」


「いいんだよ」



 俺はお前が幸せそうに食べる姿が好きなんだからな。


 なんて言えば、またからかわれることになるから言わないけどな。



「んじゃユキ、俺は先にログアウトするぞ」


「は〜い、お疲れ〜」


「おう」



 俺は軽く言葉を交わして寝室へ行く。


 そこにはダブルサイズのベットが一つだけ置かれていた。

 お互いがお互いをからかい、意地を張った結果だ。


 そこに横になり、俺はメニューからログアウトのボタンを押した。



〜〜〜



 そして、現実世界の自室で俺は起きる。



「ふぅ、今日も疲れたな」



 俺は学校から帰ってきてすぐにIwにログインしていたので、空腹を感じた為、自室を出て台所に向かう。


 するとそこには妹の詩乃がいた。



「あっ、兄さん。今から夕飯ですか?」


「あぁ、詩乃。いたのか」


「はい、兄さんのこと待っていようと思って」


「そうだったのか、遅くなってすまない。ログアウトするタイミングが無かったんだ」


「大丈夫ですよ、今ご飯温めますね」



 そう言うと詩乃はてきぱきと夕飯を準備をし始めた。


 詩乃は俺の二個下の妹で、仕事柄家を空ける事の多い両親に変わって普段から家の家事をしてくれている。


 俺も洗濯や掃除等の出来ることは手伝うが、料理だけは壊滅的なので毎日詩乃の担当となっている。


 ユキが家族に対しても丁寧な言葉使いは、昔、作法なんかを学んでいた頃に癖になってしまい、無理に直そうとすると逆に変な言葉使いになるので、それならこのままで良いだろうと言うことになった。


 まぁ家族や親しい人には多少砕けた話し方で、それはそれでかわいいなと思ってしまうのは、俺が兄故の贔屓目があるからだろうか。



「はい、兄さんどうぞ」


「ありがとう詩乃」



 それから俺は詩乃の用意してくれた夕飯を食べながら、今日あったことを話した。


 詩乃は昔から俺のゲームの話しを聞くのが好きらしく、楽しそうに聞いてくれる。


 そうこうしているうちに日を跨ぐ頃になり、話を聞いていた詩乃が寝てしまったので、抱き上げて部屋へ連れて行く。


 そして俺も食器を洗い、風呂に入って自室へと戻った。



「まさか詩乃が待ってるとは、これからはなるべく食事時はちゃんとログアウトしないとな…」



 いくらゲームが楽しいからと言っても、それは大切な家族を蔑ろにする理由にはならない。


 そう自分に言い、布団に潜る。



 それはそうと、明日森への放火とかいろいろ聞かれるだろうな、めんどくさい。


 なんて説明しようか、まぁそれはそのときの俺に任せるとしよう。


 ゲームの疲れからか横になってすぐに意識が沈んで行くのを感じた


俺はその感覚に身を任せ、意識を手放した。

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