第2話 指名定期クエスト

 〖指名定期クエスト〗

幻の実 ラマの実を採取しよう!

・制限時間:本日中

・クエスト範囲:フルワールド

・達成条件:ラマの実の納品

・達成報酬:5万E

     ナタおばさんの新作スイーツ 

・クエストヒント:なし




「う〜ん、今回手がかり無さ過ぎない?」


 隣を歩くユキがクエストの内容を眺めながら、悩んでいるのかうんうんと呻く。


 俺とユキは、ナタおばさんから出されたクエストを、クエストの情報確認の出来る【クエストロール】という機能で確認していた。


 あの後すぐにナタおばさんと別れた俺たちは、情報集め兼移動の利便性を考えてセンターシティまでやってきたのだが、いかんせんラマの実についての情報が少なすぎて動くに動けないという状況だ。


 とりあえずネットでの情報収集をユキに任せ、俺はラマの実を探すにあたって、【Irreversible Worldイリバーシブル ワールド】の立地を思い返す。


 まず、現在俺たちのいるセンターシティ。ここがこのゲームの始まりの土地であり、つい最近2週間前まで魔物の進行から、当時の全プレイヤー1万人で守り抜いた人類最後の街。


 そして、魔物達のボスを倒し、センターシティを守り抜いたことで解放されたエリアが、このセンターシティを中心に東西南北い広がる4つの自然エリアだ。


 それぞれのエリアを簡単に説明するとするなら、東が草原、西が荒野、南が森で、北が山。といったところだろう。


 もちろん俺とユキは、今回のようなクエストだったり興味本位の探索で、どのエリアにも一度は足を踏み入れている。


 ちなみに余談だが、俺たちのホームは南エリアの森を少し入った所に建ててあり、ナタおばさんの家はセンターシティの東エリア方面にある。


閑話休題。


 さて、単純に考えれば探しているのは幻とは付くものの、実であり、スイーツにも使うことから森か草原辺りにありそうな気もする。

 しかし問題は、幻と付くことからもしかしたら山の頂上や、荒野の果てにある可能性も考えられてしまう。



「ユキ、何か情報はあったか?」


「ううん、やっぱりネットにも情報は無いね」


「そうか…」


「今回のクエスト手がかり無さ過ぎない?今まではクエストヒントもあったのに」



 そう、今まで俺たちが受けてきたクエストはほとんどにヒントがあった。無いものといえばそれこそメインストーリーに関わるクエストのときだった。

 かといって、言ってしまえばただの定期クエストがメインストーリーに関わりがあるとは到底思えない。


 ヒントはクエストによって千差万別であり、ことナタおばさんのクエストに限って言えば、材料の生息地だったり、材料をドロップする魔物の名前だったりだ。



「だがまぁ、この情報の少なさが逆にヒントにはなるな」


「うん、シロの考えてることはわかるよ。これほどまでに情報が無いなら、現状で攻略が進んでて、エリアの大半が探索済みの東エリアと西エリアにはラマの実は無いって思って良いってことだよね」


「そうだ。昨日、東エリアを探索してるキリヤと西エリアを探索してるセナが、もうすぐエリアボスにたどり着きそうだって言ってたからな。あの二人の担当エリアなら情報制限もしないだろ」



 キリヤとセナはこのゲームIWにおいてトップ10に入る実力者で、メインクエストを最前線で指揮し攻略を目指しているプレイヤーだ。

 俺とユキとはゲームの中での昔からの知り合いであり、時々こうして前線の情報を貰うことがある。



「それなら残るは北か南か、だね…」



 そう、問題はここからだ。


 別にここからどちらか一方に絞る考えが無いわけではないが、いかんせん運や当てっずぽうの要素が多すぎる。


 こんな時はあれだな。



「ユキ。勘でどっちがいいか言ってみろ」


「うっ…勘ね、勘、ま、任せてよ…う〜ん、なんとなく、北…」


「よし、南に行こう」


「うぅ…やっぱり…!シロのイジワル!そんなに私のことが信用ならないの!?」


 ここで長年の相棒ユキについて一つ説明しよう。

 ユキにはそれはもう絶望的なまでに勘が当たらないのだ。今までの人生でユキの勘が当たっているところなんて見たことがない。と言ってしまえるほどには…。


「いや、信用してるよ。絶対に外すってな」


「そんな信頼やだよ!」


「まぁいいじゃないか、お前自身自覚してるだろ?」


「そ、それはそうだけど…」


「ほら、ふてくされてないで、時間も無いんだから早いとこ南向かうぞ〜」


 俺は、拗ねてその場から動かなくなったユキを引っ張り、センターシティを後にした。




 センターシティの南門から出ると、直ぐに木々が鬱蒼と生い茂る森が立ちはばかる。

 ただ、門から直線上の所だけ軽く木々が刈られ、土は多くのプレイヤーに踏みしめられ道が出来ている。


 さっき南エリアにあると言った俺たちのホームは、その道から敢えて逸れた、森の中でも更にだれも近寄らないようなところに建ててある。

 自力で木を切り倒して森の中にそれなりに開けた空間を作ったのだ。喧噪とは無縁で、ゲームとは言え自然に囲まれているその場所を俺とユキはかなり気に入っている。


 まぁ今回はラマの実探しなので、正規ルートの正面の道から入っていく。



「なぁユキ、いい加減機嫌直してくれないか?」


「ふんっ。意地悪なシロなんてしらないもん」



 『ふんっ』だったり『もん』とか、はたから聞くとあざとさの固まりのようなもんだが、ユキのこれは狙って言っている訳ではない。

 昔からユキは、拗ねると言葉使いが少し幼児後退する節があるのだ。

 まぁ、それを指摘すると顔を真っ赤にして更に怒るから黙っているのだが。

 それに、これはこれでかわいいしな。



「わかったわかった。もしこの森でラマの実が見つかったら報酬のスイーツは全部ユキに上げるよ。だからそれで勘弁してくれ」


「ほんとっ!?ほんとにくれるの!?」



 いや、食いつき凄いな。



「あぁ、本当だよ、だから機嫌直してくれないか?」


「まったく〜シロったらしょうがないなぁ、そんなに私と仲直りしたいなんて、私は心が広いからね、許して上げよう!」


「はいはい、優しい優しい」


「あ〜。心こもってな〜い」



 そこからはもうユキのテンションは戻り、いつも通りふざけつつ、かつラマの実を見落とさないように周りを良く観察しながら進んでいった。


 森の中は、最初こそ一本道であったが、徐々に分かれ道が増え、入り組んだ道へとなっていった。

 おそらく、探索に入ったプレイヤー達が好きに木を切って道を作ったのだろう。



「ん〜結構進んだ気もするけどないね。やっぱりこっちじゃ無いんじゃない?」



 二時間ほど道を進んでも手がかり一つ無く、遂にユキが弱音を吐く。


 俺もユキも暗視スキルを付けてはいるが、もう19時半を過ぎており、辺りは真っ暗になっている。



「いや、一応ユキの勘以外にも森にした理由はあるんだ」


「えっ?そうなの?」


「あぁ、ただその考えが合っている保証がないからな、ユキの勘に頼らせて貰ったって訳だ」


「なになに?どんな推理?気になるんだけど」



 この考えはあくまで予想でしかなく、自信もあまりなかったので黙っていたが、下がり始めたユキのモチベーションを上げる為に、話すことにした。



「それなら進みながら話そう。そうだな、既存の道を歩いていても見つからないだろうから、ここからは道になってない完全な森の中に行こうか」


「了解。話しながらでもちゃんと探索はするから、安心して」



 そうして俺たちは今まで歩いていた道から横にずれ、木々の隙間を縫うようにして進んでいく。

 しっかりと道を作るのは、木を切るのが大変でそんな時間もないので割愛する。



「よし、それじゃ順を追って説明するぞ?まずこのクエストの制限時間、これは今までのナタおばさんのクエストとの違いはなく、本日中だった。ここで思い出して欲しいんだが、今までのナタおばさんのクエスト、俺らは失敗したことあったか?」



「ううん、ないよ。絶対に制限時間内に納品できた」


「そう。ナタおばさんのに限らず全てのクエストにおいて絶対に、制限時間ってのは達成が不可能なタイムには設定されてないんだよ」



 ここまで言えばユキは自力で俺の考えに追いつくだろう。



「あっ、そっか。だから森なんだね。北の山は岩山だから、もしそういう地形で幻とか付く珍しいものがあるとしたら山頂付近」


「もしも本当に山頂に生えてたとしたら、あのクエストを受けた時間からだと、ナタおばさんの家から直で北に向かっても往復は出来ないだろうな。なんたって最前線組ですらまだ山頂に届いてねぇんだから」



 現在東西南北でもっとも攻略が遅いのが北エリアだ。道のりが険しいことと、魔物のレベルが高いのがその要因だろう。



「なるほど、そうなるともう残りはこの南エリアだけだね。森ならただ草木が鬱蒼としてるせいで見つけにくいから幻、って可能性があるからね」


「そういうことだ。あとはラマの実の外見が分からないのがネック、なん、だ、が…」



 話している途中だったが、木々を抜けた先に少し開けた空間があり、そこで予想外の光景を見てしまったことで、思わず声が尻すぼみになってしまった。



「ねぇ、シロ?あれじゃない?ラマの実」


「あぁ、ユキ、間違いないな」



 俺ら二人が目にしたのは、広場の真ん中にたった一つだけ成った、小さな、しかし圧倒的な存在感を感じされる綺麗な実と、それを今まさに採ろうとする大猿の姿だった。



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