第26話 神の一手。ただし付喪神
「へむん」
私は幽玄さんの事務所の中で、新聞を広げて目の前の記事を信じられない気持ちで眺めていた。
新聞によれば、ヴィレッジガーデン、つまりあの村田一家が経営するスーパーマーケットが食中毒を起こしたのでは? との内容が、衝撃的文言と共に綴られている。
村田一家には一応、座敷童子ちゃんの加護が辛うじてまだ働いており、ハードラックとはダンスっちまうことなんて皆無のはずだ。
それすらも越えて届く不幸とか半端ない力が働かなければあり得ないはずなのだが……。
「幽玄さんマジチート」
いつもの椅子に座り、デスクに肘をついてうたた寝している美青年(最終決戦仕様)へと視線を向ける。
なんとも平和な寝顔をさらしているが、この男の人――幽玄さんがこの騒動を引き起こした張本人であった。
とはいえ、直接食中毒の菌を仕込んだわけではない。
よく分からないのだが、座敷童子ちゃんと社長の浩一郎氏との縁を切ったのだそうだ。
そうなることで、座敷童子ちゃんが出て行ったときと同じ不幸が村田一家に降り注ぐことになったらしい。
剣の付喪神だからそんなものまで切れるとか異世界に転生して世界を救ってきたらいいんじゃないだろうか。
っていうわけで今日の起こすネタは決定!
私はソファから立ち上がると、新聞紙を丸めながら幽玄さんの前に行く。
「起きなさい、幽玄よ。ちょっと間違えて殺しちゃったから異世界に行ってこの剣を持って暴れてきなさい」
名付けて新聞剣・ニュースペーパー!
効果は世相を斬る事が出来る!
「……日本語って異世界に行っても通じるんでしょうか?」
「あ、アニメだと通じるから多分大丈夫ですしおすし……」
くっ、予想以上のなまくらだったか。
新聞剣は筒になってるから中身がないとかこれ如何に……。
ついでに新聞も中身がなく……これ以上は敵を増やすからやめとこ。
「ところで幽玄さんって何でも斬れるんですね。斬れないものとかあるんですか?」
丸まった新聞紙を手渡しながらふと気になった事を尋ねてみる。
「ん、そうですねぇ。昔蛇の尻尾から出て来た剣は斬れませんでしたが、それ以外なら大概のものは斬って来ましたし……それくらいでしょうか」
「は?」
何でもない事の様に、そんな衝撃的告白をされてしまい、私は思わず顎が落ちて床と激突してしまった。
私の好きなものは妖怪だが、そういうのはどうしても神話の類に行きついてしまう。
いや、神話に興味が無くてもその話は有名過ぎるので、日本人なら誰でも知っているのではないだろうか。
「み、苗字の
更に、日本神話に出て来る有名な蛇と言えば、八つの首を持ち、八つの峰と谷を跨ぐほど巨大なオロチが真っ先に上げられるだろう。
尻尾から剣が出て来たとなれば、蛇骨石を額から取り出して竜になったお話の蛇か、先のヤマタノオロチしか居ない。
幽玄さんの3000歳以上というお歳の事を考えれば……。
うっわ、大抵のものを斬れて当たり前だわ。
「妖香くん?」
「…………」
今更ながらに目の前で不思議そうに小首をかしげている人物? がどれだけのお人だったかに気付き………………ま、幽玄さんだしいっか。
なんか凄いってこと分かった途端に態度変えるのも私らしくないし。
やっぱり気にしない事にしよっ。
「幽玄さんって凄かったんですね~。やっぱり「俺ってよぉ。ビッグな相手と知り合いなんだぜ」って女の子ナンパしたことあるんですか?」
「私の元身を知って一番最初の言葉がそれですか……さすが妖香くんですね」
「いやぁ、褒めないでくださいよ。照れるじゃないですか」
否定しないところを見ると、本気で褒めているつもりだったのだろう。
なら、ちょっとだけ気分よく胸を張っておこうっと。
どやぁ。
「そういう破天荒なところは少し――」
「ついーっす、静城の姉御! 幽玄の親分! 呼ばれたもんで飛んで来やしたぜ」
せっかく幽玄さんとフラグを積み上げていた所だったのに、大声を張り上げながら邪魔ものが事務所内に入って来てしまった。
まあ、邪魔が入るのもお約束かもしんないけどさぁ……。
「はいはい、呼びましたよ~」
私はちょっともったいなかったなぁなんて思いながら、
「火車さん」
ネコの頭部と人間の体を持ち、黒いライダースーツに身を包み、火の欠片を振りまいている。
彼は以前、ゴースト〇イダーの真似をして、ねずみの国に著作権で訴えられそうになった過去を持っている、ちょっとお調子者なあやかしさんだ。
「頼み事があったんですけど、きちんと直しました?」
「もちろんっすよ。普通の単車にしてるっす!」
そう言って体を退かし、乗って来たであろうバイクを見せつけてくる。
タイヤこそ火を纏っていたが、バイクの形が以前とはだいぶ異なっていたため、ネズミーランドに訴えられる可能性は無さそうだった。
「うん、大丈夫そう。じゃあして欲しいことがあるのでいいっすか?」
「もちろんっすよ」
「なら説明するので入って下さいっす」
っすっす。
なんか語尾が感染しちゃった。
「うっす」
火車さんそのまま一礼しながら入って来ると、私が言う前にソファへと腰を下ろし、ヘルメッツをその隣に置く。
「って、そのヘルメッツ!」
「これっすか? 使いやすくて気に入ってるんすよね」
そう言って嬉しそうにヘルメッツを持ち上げ、特徴的なネコミミ部分を見せつけて来る。
確かに火車さんは猫の顔をしているので、耳が自由になるそのデザインはお気に入りになるだろうけど……」
「火車さん…………」
私は細く長く息を吸い込みながら、両手をゆっくりと頭の上に上げていき――。
「アウトーー!!」
思いっきり大声をあげて宣言した。
「えぇっ、なんでっすか!?」
「おうおうおうおう。デュラララララララララって言いながら無駄無駄ラッシュしてやろうかい、あんちゃんよぉ!」
今後ホントに出てきそうな掛け声だよね。
私に脅された火車さんは、両耳をぺたんと伏せてしまっているのだが、どうやら本当に分かっていないらしかった。
「おもっきしパクリになっちゃってんのよぉ」
「えぇっ、またっすかぁ?」
どうやら今度は意図せずになってしまったらしい。
確かに生きにくい世の中かも……。
デザインって結構被る事あるみたいだしねぇ。
「とにかくそのヘルメッツは代えなさい」
「……ういっす」
せっかく使いやすかったのにこれはちょっと可哀そうかなぁ。
耳も私の胸よりぺったんこになってるし。私の胸より!
「仕方ないんで牛車の上にバイク置いて走らせるっす……」
「特撮の撮影か」
確かにそれならヘルメッツ要らないけど。
「普通のバイクとヘルメッツにすれば大丈夫でしょ」
「そうですよ」
うんうんと頷きながら幽玄さんが会話に参加してくる。
だいたいここでそんな変な事をされたら私達が困るのだ。
だって……。
「火車さんにはきちんとバイクで走ってもらって、誠一様を煽ってもらわなければいけませんからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます