第21話 次のステップへ

 声高に宣言したはいいが、結局ぺいっと家の外に叩き出されてしまった私……と幽玄さん。


 幽玄さんは憎たらしいくらい余裕があったけれど、私はそうもいかなかった。


 ふぇぇぇんっ、座敷童子ちゃんの意地悪ぅぅっ。


 でも、転んだらダダをこねまくる私だもんね!


 そう決心した私は扉に縋りついて表面をカリカリと引っ掻く。


「違うのよ、座敷童子ちゃんっ。この人とは一夜限りの過ちだったの! 本当に愛しているのはあなただけだったのぉぉ!」


「人聞きの悪い嘘を平気でつかないでくださいっ」


 むぅ、そういえばここ住宅地だったや。


 ドンマイドンマイ。めちゃくちゃカッコイイ間男と女子高生が叩き出されてたとか噂になったら諦めてって……あれ?


「幽玄さん。何か人が近づかなくなる都合のいい結界とか張ってます?」


 叩き出される時や、今なんかも結構騒いでるのに、この座敷童子ちゃんが取り憑いてる家からは人っ子一人出て来ないのだ。


 それ以前に、人の気配がまったく感じられなかった。


「いえ、そういう術は力を多く使うので使っていません」


 使えるんだ……。


 結構冗談だったのに。


「私達を気付きにくくする程度のものなら使っていますが、ずいぶんうるさ……騒いでしまったので気付かれてもおかしくないはずですが……」


 うーみゅ。わざわざ言い直してくれたところに愛を感じる。


 実際うるさいから言ってくれてもいいのよ?


「幽玄くん。それはつまり、ここに住んでいる人は居ないということですよ。……これは、調べてみる必要がありそうですねぇ」


「そうですね。覚さんに頼んでみましょうか」


 …………ツッコミが来にゃい。


 くっ、ネタ性が低くって分かり辛かったか、不覚。


 一人敗北を噛み締めている私を置いて、幽玄さんがスーツの胸ポケットから取り出したスマホをいじってさとりん先輩へと電話をかけた。


 私が会話に入れる様にか、スピーカーフォンにしてくれたため、プルルルっと軽快な音が聞こえて来る。


 そのコールが大体5回くらい続いたところでガチャッと音がして、スマホはさとりん先輩の鈴虫の様にきれいな声で話し始めた。


『はい、もしもし。今回はなにを調べればよいのですか、幽玄さん』


 私は幽玄さんが何か言うよりも早く、彼の手に飛びつくと、スマホに向けて挨拶をぶちかます。


「こちらスネ〇ク。幽玄さんの寝室に侵入した。これより物色に入る、オーバー」


『あらあら』


 さとりん先輩は私の声を聞いて楽しそうにコロコロと笑う。


 幽玄さんかと思った? 残念、私でした、みたいな!


 驚いたかな? 楽しんでくれたかな?


 その結果をさとりん先輩が話してくれるよりも先に、幽玄さんは私をスマホから引きはがすと、大急ぎで弁解を始める。


「今は妖香くんは外に居ますからっ。寝室なんかじゃありませんよっ!」


『分かっていますから大丈夫ですよ。ふふふっ、妖香ちゃんはいつも通り元気が有り余っているみたいですね』


「あざま~すっ」


 妖怪印の縮退炉を積んでますからねっ。


 それだけが取りえでっす!


『それで、今日はどのような事を調べればいいんですか?』


「……ええ、そうですね――」


 幽玄さんは、すぐに気を取り直し、この座敷童子ちゃんが住まう住居やそれに類することについて問い合わせていった。


「それでは分かったことがありましたらメールで私にまで……」


『持ち主に関してはもう分かりましたよ』


「はやっ、さすがさとりん先輩。どうやって調べたんですか?」


『グ〇グルで検索したらウィキヘ〇ディアに書いてありました』


「がくぅっ!!」


 いけない。


 あまりに意外過ぎてずっこけるところだった……。


 んな事分かるんかい、ウィキヘ〇ディア。万能すぎるでしょっ。


『ふふふっ。検索の仕方にコツがあるだけですよ。座敷童子さん、ということは持ち主は富を持っているはずで、その地域で富豪かそれに類する人であり、近年急成長した、となると……』


 訂正。ウィキヘ〇ディアよりさとりん先輩の推理力とか検索能力が凄いんだこれ。


『大手スーパー、ヴィレッジ・ガーデンの社長さんが村田さんでした』


「裏取りは出来ていますか?」


『もちろんです。ご自宅がその近くだそうですから住所を送りしますね』


 さすがに社長の自宅住所までは載ってないだろうからさとりん先輩独自の情報網で調べたんだろな。


 いやー、絶対敵に回しちゃいけないあやかしさんだ、さとりん先輩は。


 私が感心しているうちに、さとりん先輩からぽんぽろりんとメールが送られて来て、幽玄さんは住所をゲットしてしまった。


「ありがとうございます。それで今度の報酬ですが、よい時間を言ってもらえれば……」


『しばらくは必要ありませんよ。妖香ちゃんが十分支払ってくれましたから』


「え~、じゃあさとりん先輩に会えないじゃん~。ぶーぶー」


 さとりん先輩とお話したい~。


 ついでに一緒にお出かけとかしたい~。


『ありがとう、妖香ちゃん。それじゃあまた今度妖香ちゃんを貸してくださいね、幽玄さん』


「妖香くんは私の所有物ではありませんので……」


 ちらりと幽玄さんから視線を貰い、それが好きな時に遊んできてくださいという意味だと理解した私は……。


「じゃあ三人でカフェとか行きませんか?」


 なんて提案した。


「……私は構いませんが」


『いいわね。あら、でも幽玄さんは大丈夫かしら』


 何を心配しているのかはまるっと想像がつく。


 ラフレシアにハエがたかる様に、タコ焼きに大阪府民が群がる様に、幽玄さんには女性が惹かれてやって来ることが運命として決まっているのだ。


「でぇじょうぶでごぜえますよ、さとりん先輩。幽玄さんの魅力を封印するための秘密兵器は先日完成しておりますから」


『あらあら』


 ひくっと幽玄さんの頬肉が吊り上がる。


 あの銀河級クソダサファッションを思い出しているのだろう。


 でもアレ着ないと街中歩けないですよ?


 あ、でもさとりん先輩もめがっさ美女さんだから雄どもが誘蛾灯に引かれる虫の如く集まって来るかも。


 じゃあさとりん先輩にも同じようなクソダサファッションを考えておかなきゃ……。


『妖香ちゃん、何か変な事考えてなぁい?』


「ありませんですはいっ!」


 さとりん先輩の事だから色々と対処も考えてらっしゃるでごじゃりそうですな、うん。


 それから幽玄さんとさとりん先輩が2、3やり取りをして、通話は終了した。


 幽玄さんはスマホを元の位置に仕舞ってから私を見て大きく頷く。


「そりでは?」


「行きましょう」


 仲良くなるための第1段階、顔見せが終わったのだから……。


 次は相手を知る事から始めましょう。


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