第19話 依頼、確認しました。これから爆撃に入る!

 通された部屋は、座敷童子ちゃんが着ている様な服やファンシーな人形が沢山飾られた、子ども部屋の様な場所だった。


 あまりにも少女趣味すぎて、私は何処に座っていいのか分からずまごついていると、座敷童子ちゃんはピンクのフリルがついたベッドにぽすんと腰を下ろしてしまう。


「適当に床に座りなさい」


「はい……」


 落ち着かない……。もっとこう、血の池地獄マットとか床に敷かない? それからベッドには針の山シーツとかさ。


「昔はこういう風に使う人のいない子どもの部屋を作り、おもちゃやお菓子を備えて祀る風習があったのですよ」


「へー、さすが幽玄さん物知りですね」


 年の功とか幽玄さんが気にしそうな言い方はしないように気を付けておく。


「ここはそういうのと関係なしに、おばあちゃんが私の為に用意してくれた部屋だけどね」


「…………そうですか」


 あぁ~、幽玄さんが撃沈されたー!! べ、べつに幽玄さんの知識が間違ってたとかそういうわけじゃなくって偶々ここはそういう理由で作られたってだけですからね~っ。


 私は別に幽玄さんが嘘ついたとか思ってませんからぁ。


「あ~えっと、そうですそうです。おばあちゃんって事は、この家のお孫さんだったんですか?」


 よく見てなかったけど、確か表札には村田とか書いてあった気が……?


「ち、違うわよっ。私はただ、ここのおばあちゃんと生前に知り合いだっただけ」


「生前……」


 座敷童子はもともと間引かれた子どもの霊がなると言われている。


 現代においては間引くなんて事しないだろうから、何か理由があって幼い時に亡くなってしまったとかそういう事なのだろう。


 あまり想像しても失礼かもしれないので、私は思考を中断すると、さっそく本題に入った。


「それで、依頼内容を確認したいんですけどよろしいですか?」


「…………」


 返って来たのは、沈黙だった。


 しかもどことなく恥ずかしそうな感じで、言いたくないのか唇を尖らせている。


 私は助けを求めて幽玄さんに視線をパスしてみたのだが、その幽玄さんも首を横に振った。


 どうやら依頼内容は幽玄さんも聞いていない様だ。


「こちらに伺ってからとの事でしたが……」


「分かってるわよ!」


 依頼、つまり誰かに頼るということは、自分では解決できなくなってしまった悩みとも言える。


 悩みを他人に言うのが恥ずかしいというのはよく理解できた。


「大丈夫ですっ。話せるようになるまで待ちます。私だって、引っ込み思案でキャラが薄い常識人な事を悩んでて、でもそれを誰にも相談できなくて……」


「妖香くんが引っ込み思案? キャラが薄い!?」


 常識人なのは否定しなかったけど、つまりはそういう目で見ているわけね。


 なるほろ、これはちょっとOHANASHIしないといけないかなぁ……。


「…………幽玄さ~ん」


 ビクッと幽玄さんの肩が踊る。


 更にはヤバァって感じで顔には青いカーテンが下りてきて、視線はせわしなく反復横跳びをしていた。


「私に対してなにか言いたいことが山ほどあるみたいですねぇ」


「いえっ。妖香くんが悩んでいる事に気付けなかった私は不甲斐ないなぁなんて思っていましてね? 決して妖香くんのどこが引っ込み思案なんだとかキャラが濃すぎて押され気味になっているとかは思っていなくてですね?」


 それ言ってる! めっちゃ言いまくってる!


「ふぇぇぇんっ。座敷童子ちゃん、幽玄さんがいじめるぅ~。聞いたでしょ、今の!」


「あなた私の依頼を聞きに来たんでしょ! っていうか抱き着かないでよっ」


 ちっ、どさくさに紛れて座敷童子ちゃんを思うさまクンカクンカしたいなぁって計画が事前に察知されてしまったか。


 いいもんね、最後に長くてきれいな金髪とかもふもふしてやるもん。


「ちょっ、いつまで抱き着いてるのよ! こらっ、頭ナデナデしないでっ。私あなたよりも年上なのよ? 礼儀を守りなさいっ」


「はっ、ごめんなさい。つい座敷童子ちゃんの魔力に抗えなくて……」


 うぅ……それもこれも最近罹ってしまった、べとべとさん欠乏症のせいなの。


 私の腕の中に、ちょうどよくフィットするあやかしを求めて体が暴走してしまうようになってしまったのよ……。


「そんな病気無いわよっ。頭おかしいんじゃないの!?」


「はっ、私の心を読まれてしまった? もしやさとりん先輩みたいな特殊能力を持った、革命的な座敷童子……」


「あんた自身の口から全部ダダ洩れだったのよ!」


「なるほど。つまり真実を語らせてしまう特殊能力が……」


「あるわけないでしょっ。あなたの口が軽すぎるだけよっ」


「違うのっ。座敷童子ちゃんが可愛すぎるのがいけないのよ。まったく罪な娘ね……」


 さあ、お姉さまと呼んでいいのよ? むしろ呼んで? 呼ぶべきだと思うの。


 はぁはぁはぁ……。


「顎触らないでよっ。なにいきなり真顔になって迫って来るのよ! 私はそういう趣味ないんだからっ」


 ちぇ~。まあ私にもない……わけでもないかも。


 あやかしさんなら守備範囲。


 だがあんまりうざったく絡み続けると嫌われちゃうのでここは退くぜ、アディオスっ。


 少しだけ理性ゲージが回復した私は、ベッドから降りると幽玄さんの隣に舞い戻った。


「……ふぅ、まったく。なんなのよその女は」


「なんなんでしょうね」


「自分で言わないでください、妖香くん」


 あ、幽玄さんどうしました? 私の腕を握り締めて。


 モーションかけてるとかそういうことですか?


「こうして私が責任を持って捕獲しておきますので」


「そう、ありがとう」


 ぶーぶー、捕獲ってなんですかー。


「もー……じゃあ幽玄さんでもいいや」


「でもいいと言いながら私に抱き着かないでください」


 うぅっ……抱きしめたいな、べとべとさん! ……って幽玄さんの腕意外と筋肉ついててごつごつしてるのね。細身だからもっとスラっとしてると思ってた。


「はぁ、なんだかその娘を見ていたらなんだかどうでも良くなってきたわね……」


「妖香くんは自分に正直ですから……」


 なんて言いながら、座敷童子ちゃんと幽玄さんが見つめ合って苦笑する。


 私をダシにして仲良くなるなんてっ。


 きぃぃぃっ、幽玄さんめ。ずりゅいっ!


 私のお陰で(重要!)座敷童子ちゃんはずいぶんと気を許してくれた様で、最初のツンケンさはだいぶ鳴りを潜めていた。


「その……私って日本人離れした見た目をしてるでしょ?」


「……失礼を承知で言わせていただきますと、そう見えます。顔の細かいパーツは日本人特有のものも見受けられますが、一目見た時の印象で日本人と見抜ける方は少ないでしょうね」


 私もシルキーっていう、家事手伝いをする妖精さんだと思っちゃったしね。


「はぁ……。そうよね……」


 物憂げな様子でため息をつくと、座敷童子ちゃんはベッドの上で体育座りをする。


 最初、私が間違えた時にあれだけ怒ったこと。そして今の言葉から類推すると、もう依頼を聞かなくとも大体察しはついた。ただ……少し、軽い気がして……。


「私ね、色々あったけれど、この国の事好きよ。というか、私日本語以外喋れないし、他の国を見たこともないもの」


「うん」


「だから、私の事をもっと日本人だって見て欲しいなと思っているの……」


 うむむむむ、それはすっごい難しいお悩み。


 日本人は、ほぼ大和民族が占めている。一部の違う民族だって、元を辿れば同じような血脈に行きつくくらい血が近い。


 黒髪黒目がデフォルトでだいぶ容姿の傾向だって同じだ。他所の血が混じっていると、かなりその容姿からかけ離れてしまう為、明らかに異質な存在となってしまうのだ。


「へむん。つまりそれが依頼内容ですね?」


「そうなるわね」


 ならばとっても簡単だ。


 私は幽玄さんに手を離してもらうと、片足をあげて両手を斜め下にびしっと伸ばし、命みたいなポーズを取ると……。


「お断りしますっ!」

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