第18話 金髪ロリきょにう座敷童子って属性盛りすぎじゃない?
土曜日。それは学校という苦行から解放される素晴らしき日だ。
そして同時に、丸一日幽玄さんの事務所に入り浸って、あやかしの皆さんと一緒に居られる日でもある。でへへへへ。
私はついついあふれ出して来た、人に見られたら女の子として終わってしまうお汁をズズッとすすって飲み下すと、元気よく格子戸を開けた。
あ、ノック忘れた。
「お義父さんっ。べとべとさんを私に下さいっ」
「おはようございます、妖香くん。それで抱き枕にするんですね?」
あなたのおはようからおやすみまでずっと一緒に居たいの。
あなたの全ては私のものよ。うふふふふふ……。
「目が明後日に旅立っていて怖いですよ。帰ってきてください」
「いいじゃないですかー、幽玄さんのけちー」
くれないなら床に寝っ転がってドン引きするぐらい駄々こねちゃうぞ。
「べとべとさんの人権? を私がどうこうすることはできません。べとべとさんだって、
「むぐぅ……」
反論できない。
フラれちゃったから幽玄さんにお願いしたのにぃ。
べとべとさんの抱き心地……べとべとしててひんやり気持ち良かったのになぁ。くすん。
この悲しみを癒してくれる存在なんて、この世とあの世を合わせてもあるはずないんだ。
私の心にはぽっかりブラックホールが大穴を開けて、シュゴゴッと全てを吸い込んでしまっている。
この虚無感は何ものにも決して埋めることはでき――。
「これから依頼主さんのご自宅に向かいますので用意してくださいね」
「ふぁーいっ! 妖怪さんですか!? ひゃっほう!」
朝からだなんてうっれし~!
よぉーし、やる気がメメタァと湧いて来たぞぉ。
今なら正座した状態で垂直飛び3メートルくらいやってみせるもんね!
「妖怪……と幽霊の合いの子ですね」
正確な事を言わないのは私の期待を煽りまくるためだろう。
この意地悪さんめ。
まあ、今のヒントでちょっと予想が出来るけど。
「にゃるほろ。じゃあ行きまっしょい!」
「一息つかなくて大丈夫ですか?」
「もぉ~、私はそんなにもやしっ子じゃないですよぉ。幽玄さんってば相変わらず、い・け・だ・や」
「私は新選組には参加していませんよ」
そこで参加してないとか言えちゃう幽玄さんマジご長寿。
「早く妖怪さんに会いたくて仕方ないんですよぉ」
目の前にも一応付喪神が居るけど……幽玄さんは相変わらず世のアイドルが霞んで見えるほどかっこよくて、スーツ姿もキメキメで、最終兵器彼氏って感じなのだが、人間的すぎてちょっと物足りないのだ。
こう、頭から傘が生えてたり体が戸棚だったりするともっと私の好みなのに。
「相変わらずですね、妖香くんは」
苦笑しつつも幽玄さんは準備を終わらせたのか、ビジネスバッグを片手に私が立っている入り口にまで歩いて来る。
そのまま一緒に事務所を出て、私達は歩き出した。
いつもの様に、切れ目もない塀の続く道を歩き、瞬く間に目的地へと到着した。
辺りには古い日本家屋が建ち並ぶ中、建て替えられたと思しき新築の家がぽつぽつと建っている住宅街で、あやかしが住んでいる場所としてはずいぶんと人の気配に溢れる場所だった。
古い二階建て一軒家の前に立った幽玄さんが手招きをする。
なるほど、そこがそのあやかしのハウスね。
「妖香くん。出来る限り私のそばを離れないでくださいね」
「幽玄さん。そういう時は、俺の背中を守ってくれ、相棒。って言うもんですぜ」
「なにと戦うんですか」
何かしら理由があるんだろうと判断した私は、律儀に突っ込んでくる幽玄さんの背中に一歩近づいておく。
後一歩踏み込めば、私の顔と幽玄さんの背中がくっついてしまうぐらいまで私が近づいたことを確認した幽玄さんが、門扉をコンコンコンッと叩く。
「インターホンは使わないんですか?」
「ええ、家の方には気付かれたくありませんから」
不法侵入かぁ……。
つまりこれから獲物一本で開始されるバーチャンミッションを行うんですな?
「幽玄さん、段ボール持ってませんか? 隠れる為の必須アイテムなんです」
「風呂敷とほっかむりと青髭では駄目ですか?」
「古いっ!」
ねずみ小僧次郎吉かいっ。
っていうかそれ泥棒さんですよね。
「そうですか……」
「あ、幽玄さん落ち込まないで~」
私に古いと突っ込まれた事がよほどショックだったのか、幽玄さんはがっくりと肩を落として気落ちする。
年齢に関してはもはやどうでも良くなるぐらいだけれど、感性が古いって言われるのはやっぱり来るものがあるのだろう。
「人の家の前で何をやってるのよ、あなた達は」
そんな私と幽玄さんの間に、ちょっとキツそうな感じのする声が割って入る。
家の人に見つかっちゃいけないって言われた傍から見つかってしまったかと、ドキッとしながら顔をあげると……。
家の扉が開き、お人形さんが着ている様な白と黒のゴシックロリータの服を身に纏った、金髪で愛らしい感じのする10代初めくらいの少女が、仁王立ちしてこちらを睨みつけていた。
いかにも日本風の家とは明らかにそぐわない雰囲気である。
……むっ。なんで私よりも少し大きいのっ!?
「あなたが依頼をくださった方ですね? 初めまして、十束幽玄です。こちらは……一応弟子の静城妖香くんです」
「一応ってなんですか、本物の弟子ですよ。……初めまして~」
って、この子が依頼主さんなのか。
この容姿で家に憑いてるってことは……。
「シルキーさんですか?」
「私はれっきとした座敷童子よっ!」
「ごめんなさい」
爆弾が爆発したのかと思うくらい、もの凄い剣幕で怒鳴りつけられてしまい、思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。
だが座敷童子ちゃんは一向に気が収まらない様で、肩をいからせて幽玄さんに食ってかかった。
「ちょっと、あなた。弟子にどういう教育をしているの?」
「妖香くんは何分弟子入りしたばかりですので至らないところもあります。お気に触ってしまった様でしたら、私の責任です。謝罪させていただきます、申し訳ありませんでした」
そう言って幽玄さんは深々と頭を下げる。
っていうか私が悪いのにっ。
「すみませんでしたっ」
私も慌てて幽玄さんに倣い、気を付けの姿勢から90度頭を下げる。
見間違えたことがどうしてそこまで気に障ったのかは分からないが、傷つけてしまったのならこちらが1000%悪い。
私に出来ることは、許してもらえるよう努力をすることだけだ。
「……今度から気を付けてよね」
「はいっ」
真摯に謝った事が評価されたのか、いくぶん声のトーンが軟化する。
いきなり依頼失敗なんて事にならずに済んで、私は心底ほっと胸を撫でおろした。
まあ、私の胸はすっとんとんで手が乗っかる起伏はないんだけどね!
やっべー、安心しかしねーぜ!
「入って」
座敷童子は短くそう告げると、ふんわりとスカートを舞わせながら家の奥へと引っ込んでいった。
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