第11話 ○○性の違いで解散します
いつもの如く、コンコンっとノックをして一拍待ってからガラリと格子戸を開ける。
「お届け物デース! 女子高生いっちょー!」
「つまり
ソファに座った幽玄さんが、目が潰れそうな笑顔で私を出迎えてくれる。
私が妖怪好きじゃなかったら惚れている所だったぜ……。
「は~い……っと」
元気よく返事をしてから事務所の中に足を踏み入れたところで、ソファにうな垂れて座っている人影を見つけた。
頭髪から顔や体、見える範囲の全てが真っ白で、顔が何となく見えにくいけどたぶん男の人だ。
間違いなく依頼主だろう。
「こんにちは、初めまして! 私、静城妖香って言います! 妖怪まな板です!」
「自分からネタにしていくんですね……」
自分でネタにするのは全然オッケーです! 他人から弄られるとちょっとマジ顔になっちゃうけどね……。
私がせっかく身を削って自己紹介したというのに、真っ白シロ助はちょっと私の顔を確認しただけで、再び俯いてはぁ~っと深いため息をついてしまった。
様子からして私の可愛い可愛いキュートすぎるバストを蔑んだわけではないと思う。
なんというか、燃え尽きたぜ……って感じなのだ。
色的にも真っ白だし。
「幽玄さん、こちらの方はどちらさまでせう」
真っ白な人間タイプというと、私の中に思い浮かぶ妖怪は居ない。
「都市伝説のくねくねさんです」
「ああっ」
そういえば白くてずっとくねくねして……。
「はぁ~……どうせ俺なんか……」
ないどころか、部屋の隅でうずくまってカビでも生やしてる方がお似合いなくらいに湿っぽくいじけていた。
「どういうお悩みですか?」
「それはご本人から聞くのがいいでしょう。現在、くねくねさんは調査結果待ちなので時間もありますし」
「わっかりました」
私は幽玄さんにびしっと両手の拳を握り締めて右頬に集めるポーズを決めてから、くねくねさんの隣に座った。
「ドキドキ☆密着24時の時間が参りました。みなさんこんにちは、リポーターの妖香です。今日はくねくねさんのお悩みに密着していきたいと思います」
「んあ?」
ちょっと怪訝な顔をしているくねくねさんに、私は手でエアマイクを握って突きつける。
「と、いうわけでインタビューよろしいでしょうか!?」
「……所長。コイツは人間だよな?」
「そうなのですが、一応私の弟子……のようなものです」
「いやん、弟子って初めて紹介されちゃった。幽玄さんの、い・け・づ・く・り」
「私は刺身ですかっ」
「まな板がここにありますから」
私の胸元に超合金製のヤツが。
「そのネタまだ引きずるんですね」
「無論です。私の胸が成長しちゃうまでしか使えませんからね。時事ネタは早いうちに使わないと」
……おい、それいつまで経っても使えるなとか思ったヤツ表に出ろ。
おや? 幽玄さん。どうして寒そうに震えてるんですかな?
「……アンタ、底抜けに明るそうだな」
「いやぁ、それほどでもないですよ」
この世で一番シャイニングなのは幽玄さんの笑顔だと思います!
もう絶対女性がぼったぼっただよ。
お父さんの為にも絶対お母さんに見せられないっ。
「まあいい。聞いてくれるなら誰でもいいさ」
「おっしゃ、バッチコイ!」
「俺は昔、くねくねトルネーズっていうグループに居たんだ」
ん? いきなり知らない固有名詞が出て来たぞ?
これなんのグループって聞いてもいいの?
というか話を遮ったら怒られそうな雰囲気なんだけど。
「そこで俺は10年以上下積みを続け、来る日も来る日も奴らの為に…………」
そこからの話は長いの一言だった。
自分がどれだけ苦労したか、先輩が云々かんぬん。同期はやめていくから云々かんぬん。女なんかにわき目もふらずになんちゃらかんちゃら。
それはそれは壮大な自叙伝的な話がずっと語られ、掃除機でぶいーんな話、どうでもいいから早く本題入って! って感じだったがそんな事言うと殴られそうだったので真剣な顔を作って、なるほどとかそうですかぁとか適当な相槌を続けていた。
「そしてようやく俺の初舞台がやってきたのさ! 俺は必死になってくねくねしたね。観客共の視線は俺に釘付け。当たり前だ。俺のくねくねは他の連中よりくねくねしていたからな」
どーいうくねくねなの? マイケルみたいに超くねくねしたの?
っていうかくねくねさんのくねくねにこだわりのくねくねがあってくねくねを見に来た観客がくねくねさんのくねくねにってあーー!! もう、ゲシュタルト崩壊すりゅうー!!
「俺は確信したね。これこそが新時代のくねくねを切り開けると。そうしたらどうなったと思う?」
「……どうなったんですか?」
待ってましたと言わんばかりにくねくねさんはくねくねポーズをとる。
たぶん、かっこつけてるつもりなんだと思う。
ちょっとよく分かんな……いや、わからいでか。私は妖怪や都市伝説が大好きで、幽玄さんの弟子なんだから!
というかようやく本題キター!?
「奴ら、芸術性の違いとかで俺をクビにしやがったんだ!」
「おぉっ。大人の事情を覆い隠す言い訳の常套手段第一位! 第二位は性格の不一致!」
くねくねはよく分かんないけど感情だけは理解できるっ。私も妖怪ブームが来るってずっと言ってたけど誰にも理解されなかったもん。
「そうだっ。奴らは俺のくねくねに嫉妬したんだ! 俺のくねくねに恐れを抱いたんだっ!! 自分たちのくねくねが潰されると!!」
「世の中の革新者はいつだって理解されない! だから孤独に生きるしかないのっ!!」
「その通りだ、分かってくれるか!」
「あたりめぇだぜぇチキショーメ! ベートーベンじゃなくてくねくねをぶっとばせ!」
なんかノってきちゃったぞ。
幽玄さんも一緒に肩組もうぜぇ!
「そうだ! 俺の秘伝のくねくね中のくねくねでくねくねトルネーズのくねくねをぶっ飛ばしてやる!」
「おー!」
なんか間違えてお酒飲んじゃった時みたいに視界がグルグルしてきた気がする!
もう一緒にくねくねくねく――。
「妖香くんっ」
凛とした幽玄さんの声が頭の中を跳ねまわり、異常な高ぶりにあった私の思考を一気に引きずりおろしていく。
「りゃ……りゃ?」
私、何してたんだっけ?
「気を付けてくださいね。くねくねは感染するタイプの都市伝説ですから、下手すると妖香くんもくねくねになってしまっていましたよ。まあ、妖香くんは陽の力が強いのでちょっと……いえ、かなりのハイテンションになるだけ……いつもでしたっけ?」
「なんですかそれー」
確かに私はいっつもテンション高いですけどー。
いやしかしそれはあぶにゃい……。
そういえばくねくねの感染経路って、顔を見て誰なのかをしっかりと理解する事だったっけ。
もっと注意するべきだったなぁ。
反省しつつ、くねくねさんと組んでいた肩を離してソファに座り直した。
「あなたも。簡単に仲間を増やしてはいけませんよ。あなたの感染力はつよいんですから、暴走すれば新しいゾンビさんみたいに世界を滅ぼしかねませんからね」
「す、すまん。理解してもらえたのが嬉しくて……コンビになればやれることも増えるし、つい仲間にしようとしちまった」
「つい、でタブーを破っていたらいくら世界があっても足りませんよ」
「すまん」
幽玄さんは、怒っているというよりはホッとしたという感じで息をつくと、自分の隣をポンポンと叩く。
どうもこちらに座りなさいって言いたいらしい。
断る理由もないため、私は素直に幽玄さんの隣に移動した。
「妖香くん。もっと早くにこうしておくべきでしたね、すみません」
「え、なんで幽玄さんが謝ってくれるんですか?」
というか、こうしてって……どうするの?
「それはもちろん、私が妖香くんを危険にさらしてしまったからですよ」
「そんな事……」
って、あれ? 幽玄さんなんかどんどん顔近づけて来てません?
しかもなんかめちゃくちゃ真剣な顔で……。
「え? ちょっ、ち、ちかっ!?」
こ、このままだと顔と顔がぶつかって、いわゆるあのその的な、お父さんが黙ってチャンネル変えちゃうあの気まずいアレになっちゃいますよ?
ゆーげんさ~ん!? そそそそそーいうのはもっと分かり合ってからというか、お互いの気持ちを伝えた後に、魔王城の前で、この戦いが終わったら結婚してくれ的な言葉と一緒にした後にトラックに轢かれて異世界転生しちゃう感じのお約束ががが――。
「まままままま、待って待って! にゃにしゅる気――」
頭が瞬間湯沸かし器みたいに煙を吹き出しそうになったのだが、幽玄さんの顔はそこから突然急降下。
いつの間にか持ち上げられていた私の右手の甲に、口を寄せて何事か呟いた後に、
「すみません、少し痛いですが我慢してください」
そう断られた後、手の甲にごく僅かな痛みが走った。
見てみれば、剃刀で切った様な長さ1センチ位の傷跡が付いている。
「これで妖香くんには私の氏子になったので、ちょっとやそっとのことでは影響を受けなくなりましたよ」
本来ならば、こんな超常的なマジものの現象を体験したのだから、私の脳みそが熱暴走起こしてもおかしくはないんだけど……。
……接吻じゃないんだ。
なんか、そのレベルで緊張しちゃったから肩透かし喰らっちゃったって感じ?
嬉し恥ずかしいはずなのに、何故か妙に頭が冷静になってしまった。
「……ありがとうございます」
都市伝説の影響を受けなくなるって、それはそれでなんか寂しいものがあるなぁ。
でもまあ、これで話の続きが冷静に聞けるからいっかも?
なんだか釈然としないものを抱えつつ、私はくねくねさんとの会話に戻ったのだった。
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