第3話 悩み事はなんですか

 私は結局デバガメしている事に変わりはない。


 本当ならこんな風に興味本位で首を突っ込むことは良くないのだろうけど……。


 ううん、私は興味本位じゃなくて人生かけてるからいいはずだもんねっ。


「口裂け女さん、いかがですか? 依頼内容を教えてもよろしいですか?」


「お願い口裂け女さん私貴女の事ならどんなことでも知りたい……じゃなかった口裂け女さんの為ならどんなことでもしてあげたいの!」


「思いっきり心の声がダダ洩れてたわよっ」


「自分に正直に生きてまっす!」


 てへぺろっ☆


「なにそれ、不○家のヘ○コちゃん?」


 くっ……ジェネレゥェイションズギャップゥ! (巻き舌なり)


 まあ、微妙にこのネタも古いんだけどね。


「とにかくお願いします! 力になりたいのはホントなんです!」


「顔掴まないで! ちょっ、首! しめ……ちょっと入って……ぐふっ」


 口裂け女さんは私に膝枕されている事を忘れていた様ね。


 この体勢で渾身の力を籠めて必死にお願いすれば、どんなことでも通って来たの!


 今回だって……。


「お願いします!」


「それきょうは、ぐっ……」


「お願いしますったらお願いします」


「ほ、本気で……やば……」


 あれ? 頼むために必死に抱き着いてるだけだったのにいつの間にか口裂け女さんの意識が宇宙の彼方に解脱された!?


 私の腕の中でちょっとヤバい感じにでろんってなってる!


「そうか。口裂け女さんも呼吸をしているという事を身をもって教えてくれたわけね……」


「どうしてそう都合よく解釈できるのよ!」


 あ、帰って来た。


「まったく……」


 とりあえず口裂け女さんは私の体を押しのけ、ソファに座り直した。


 心なしかぐったりしてるのは、本気で悩んでるからなんだろうな。


 なんとかして力になってあげないと……!


「握りこぶしを力いっぱい握り締めてたら何考えてるかバレバレだからね」


「はい、力になりたいって考えてました!」


「…………」


「……随分とパワフルな方ですねぇ」


 いやぁ、それほどでも。


 いつもはこんなんじゃないんですよ?


 こういう私の大好物な都市伝説とか妖怪とかの話の時だけですっ。


「まったく……」


 私の熱意に押されたのか、口裂け女さんはため息をひとつつくと、


「分かった、分かったわよ……」


 なんて諦め――じゃなくて受け入れてくれたのだった。


 ぼそっと、何されるかわかったもんじゃないわよとか聞こえた気がするけど気にしなーい。


「で、ではご説明しますね」


「は~い」


「まず、口裂け女さんのような存在が生きていくためには人間の恐怖が必要なのです」


 ふむふむ。妖怪的な存在ではありがちな設定ね。


「あ、って事は怖がらせることが目的なら、殺害とかは……?」


「はい、基本的にはタブーになります。怪我もさせないように、襲う場所や方法にも気を使っています」


「私の持ってる包丁、実は竹光なのよ」


「卵の白身を使ってアルミホイルを貼ると本物っぽく見せられるのですよ」


 マジか……それはちょっと知りたくなかった……。


 竹製の切れない包丁を振り回してがおーって襲い掛かる口裂け女……これは怖くない。


「話を戻しますが、口裂け女さんは対策などを知られ過ぎてしまったあまり、いくら襲い掛かっても子ども達から恐れられなくなってしまったのです」


 結局逃げ切れちゃって、危険な目に会ってないから慣れちゃったのか。


「あー……それは深刻ですねぇ。ご飯食べられない様なものですもんね」


「その一番先頭をぶっちぎりで突っ走ってるのがあなただって自覚はあるのかしら?」


 わ、私はどんな都市伝説も怖がらないのでノーカンでお願いしますっ。


「なので怖がられるにはどうすればよいか、というのが依頼内容であったわけです」


「そのために何十年も潜伏して噂が治まるのを待っていたのよ……」


 なるほど、でもそれ完全に無駄でしたね――なんて事はさすがにむごいので言えない。


 えっと、別の事別の事…………って何も思い浮かばねー!


「と、とにかく人間に怖い思いをさせられる様になればいいってことですね!?」


「それが簡単に出来ないからこうして悩んでいるのよ……」


「とりあえず何人かを襲ってみようという作戦は失敗しましたからね」


 作戦雑ぅ!


 え、もしかして幽玄さんって意外とぽんこ……まさかねぇ~。


 こんな完璧超人みたいな雰囲気と顔をしてる人? なのに?


「なにかいい方法はないものかしら……」


「そうですねぇ……」


 そういうと、2人は揃ってどでかいため息を吐き出した。


 もう思いつかないの? とか思わないでもないが、私が知らない理由があるのかもしれない。


「襲い方を工夫するとかはダメなんですか?」


「そうねぇ。口裂け女と理解されない襲い方じゃあ、やっぱり意味がないわね」


 などほど。


 全身に生肉ぶら下げていあ~いあ~とクトルゥフ的な呪文をスマホで流しながら、あなたは宇宙の真理を知っていますか~。なんて迫っていったら確かに(別の意味で)怖いかもしれないけどそれは口裂け女さんとして怖がらせているわけじゃないからだめなのか。


「つまるところ、わたし、きれい? っていうやり取りをしないとダメってことですね」


「そういう事。じゃないと口裂け女が怖がらせたってことにならないでしょ。私の存在が揺らいじゃうじゃない」


 そっかそっか、ん~……なら一番簡単なのはやっぱり――。


「口裂け女さんの事を知らない人がいる場所へ行くとかですよね」


「日本全国津々浦々を縦断旅行して、北海道から沖縄まで怖がらせたのよね……。ああ、あの栄光の日々」


「そんな事してたんですか!?」


「バレないようにヒッチハイクするのはなかなかスリルがあったわ」


「口裂け女さんがスリル味わってどうすんですか」


 というか移動方法ヒッチハイクなんかい。


 ツッコミどころ間違えた。


「そうそう、何度かトラックのお兄さんに迫られたりしてね」


「ほうほう」


「口の事バレちゃったのに、それでも愛してやるよって言われた時はきゅんってしちゃったわ」


 そこで乙女になるなー!


 なんかその場面想像するだけで微妙にいい話なのかシュールな話なのか分かんなくなっちゃうゾ。


「まあとにかく場所はもう残ってないから却下ね」


 むむむ、日本はダメ。となると……。


「なら、海外とか?」


 えっと、あむあいびゅーりふぉー? って言えればいいんじゃない?


「海外……ちょっとそこまで走ってくれるトラックって居るのかしら」


「ヒッチハイクで行くつもりなの!?」


 まずは空を飛べる車の開発の方が先ぃ。


 デ○リアン持ってくるかM○B呼んできてー!


「妖怪や都市伝説は人間のように働いてお金を稼ぐことが基本的にはできませんからね」


「そうでしたね! 口裂け女さん都市伝説だから戸籍とか持ってませんもんね!」


 はい却下ぁ!


 ならやっぱり襲う対象とか方法を考えるしかないのかぁ。


 そう思った私は、むむむ……と頭を捻ってひたすらに知恵を絞り出そうと懊悩する。


 一応、興味本位ではなく本気で悩みを解決してあげたいという事に嘘偽りはないのだ。


 本気でこういう存在に興味を持っているのが静城妖香なのだから。


「じゃあ、ですね……」

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