三冊目:ラムネと読心術
きゅぽんと、フタを取ったラムネ瓶から空気が弾ける音が鳴る。シュワシュワと炭酸の泡が生き生きと上がっていき、瓶を傾ければカランと透明な玉が軽快な音を立てた。
セミの大合唱を聞いて夏を感じながら、
ふむ、とわざとらしく声をもらすと、また前を向く。右手にはまだ半分ほど残ったラムネ。左手には、まだフタを開けていない新品のラムネ。
待っていた信号が青になり歩き始める。向かうのは待ち人がいる公園だ。
公園ではやはり小さな子供たちがはしゃぎ、遊びまわっている。楽しそうな雰囲気を前に感化された司は、二つのラムネをしっかりと抱え込み、遊具のエリアを一直線に駆け抜けた。
抜けた先には散策エリアがあり、ベンチがずらっと並べられている。そのうちの一つに一人で腰をかけている青年の目の前まで行くと、にかっと笑み言う。
「よっ! おまたせ」
「待ってないが?」
ぴしゃりと司のことを見ずに淡々と言い放つ青年、
「なんだよ、裕也が飲みたいだろうと思ってラムネ買ってきたんだが」
そう言うと裕也はやっと本を膝の上に置き、司の顔を見上げる。
「ホントだ、よく分かったな」
ようやく自分の方を向いた、得意気な表情をしてみながら、持っていた新品の方のラムネを手渡す。
「まぁ、読心術ってやつかな!」
司がまだ冗談を言い終わらないまま、裕也はきゅぽっとラムネのフタを取って飲み始める。ごくごくとのどが鳴る音は、今さっき水分補給をしたばかりの司の喉を乾いている気にさせた。
ツンとした態度もいつも通りなので、どかっと隣に座ると飲みかけのラムネを一気に飲み干す。
「なぁ」
瓶に残ったビー玉をカラカラと鳴らして遊んでいた司に、裕也はおもむろに問いかける。
「髪切ったんだな」
パッと裕也の方へ顔を向けると、ぎりぎり肩にかからない位の長さの髪がさらりと揺れる。
「まぁ、見た通り」
裕也みたいな返事をしてしまったな、と司は思った。真似っこで口をとがらせ、しかめっ面をしてみる。
「似合うね」
らしくもない柔らかい口調でそういう裕也はにかっと笑う。
相変わらずセミの合唱は鳴りやまないし、空は雲一つない青だ。暑さで前髪はじっとりと引っ付いてしまっていて、のどの奥が相も変わらずカラカラと水分を欲しがっている。
「その髪型好きだわ」
「し……、知ってる」
焦って視線を右往左往させている司の様子を裕也は楽し気に見つめた。
「読心術?」
「そう! 読心術!」
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