ところで、異世界でもなにかお知らせがあるんだって?

ちびまるフォイ

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「君は……ここで10年も水晶の中に閉じ込められていたのか……!」


「勇者様、助けてくれてありがとうございます。

 これから私はこの命にかえてあなたの剣となります

 

 

 

 

 

 

 

 ……剣といえば、実は私が出演するドラマ

 『伝説の剣を刺した人が最強なんじゃね』が放送されるんです」


「……はい?」


「そのドラマでは私が水晶にとらわれている間に身に着けた――」


「ちょ、ちょっとストップ! どうどうどう!

 なんで宣伝しているの!?」


「あ、いっけなーい。偶然です、偶然。ごめんなさい」


「なんかムード台無しだよ……。

 せっかくこの異世界で王様ハーレム気分味わうために

 必死に勉強してきたんだからね」


「あ! 勉強といえば、実は私がCMを務めさせていただいている

 両面で焼けるフライパンが……」


「あ゛ーーーー! お前反省してないだろーー!」


これ以上ヒロインに無駄口を叩かせまいと、

口にテープを貼って、撮ろうとする手を結んだところ

通りがかった行商に奴隷密売人と勘違いされて街に連行された。


「……なんだ勇者だったのかい。どうみても野盗だったよ」


「お騒がせしました。まあ、でもケガの功名というか

 この街に来たかったので送ってもらえて助かりました」


「もうあんな人さらいみたいな悪魔の所業はしないでくださいね」

「お前の宣伝しだいだよ!」

「ひどいっ






 あ、ひどいといえば……」


「勇者さま落ち着いて! 伝説の剣をここで抜いてはなりませぬっ!」


「ええい離せ! 俺は相手の都合も考えずにしゃべるやつが嫌いなんだ!

 家に来る新聞の勧誘くらいに!!!」


かくして勇者とヒロインは行商の必死の弁護により離婚調停は和解へと帰着。

ヒロインの「私を失ったらこの先ずっと独り身で冒険よ?」の殺し文句に勇者は根負けした。


「あ、勇者様! 見てください! 街でバザーがやっていますよ!」


「本当だ。すごく賑わっているね」


「あ、賑わっているといえばーー」

「バ ザ ー だ よ ね !!!!」


「むぅ……」


勇者もさすがに宣伝の潰し方をこころえはじめていた。


「いらっしゃい。おやカップルかい?」


「やだカップルだなんてそんな……///。

 あ、カップルといえば、私が今度出る番組のーー」


「お、おじさん! ここでは何が売っているの!?」


「日常品だよ。フライパンとかランチョンマットとか」


「……見てわからない? 俺勇者なんだけど。

 もう少し冒険に役立てる商品はないの?」


「だからこそ勧めているんじゃないか。

 この世界にいる魔王は特殊な闇の衣に包まれていて、

 両面をカリッと揚げるにはこの両面フライパンじゃないとダメなんだ」


「……はい?」


「しかも、今なら2つつけても値段は変わらないんだ!

 この先の冒険での必需品だ。この小説が終わってから30分以内に転生した人には

 さらに! もう1個プレゼントするぞ!!!」


「あ! フライパンといえば、私がCMに務めさせていただいている……」


「CMといえば、このフライパンはなんとあの有名なCMでも話題でーー」



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! うるせぇよお前らーー!!!!」



「お買い上げ、ありがとうございましたーー」


これがないと魔王を倒せないということで勇者はしぶしぶ購入へと至った。


「もう疲れた……さっさと魔王を倒そう」


「あ、勇者様。倒すといえば、実は私の出ているアプリのCMで

 目的地まで案内してくれる魔法があるんですよ!

 目的地といえば、実はこないだ私が水晶出演で吹き替えに挑戦した映画があって、

 あ! 映画といえば私が来週1日王様を務める場所で映画が――」


「もういいよ! 早くいくぞ!!」


なにか一言喋ればそこから紆余曲折を経て宣伝へと結びつける。

俺をダシに宣伝したいだけじゃないか。

まるで自分が宣伝を引き出すためだけのロボットのような気さえする。


俺の言葉も通じない。

会話は宣伝されるだけでなりたたない。


こんな冒険はもうまっぴらだった。


「フハハハハ。勇者よ、よくぞここまでたどり着いたな」


「お前がこの世界を闇で包んでいる魔王アンコークだな!

 この剣でお前を倒してやる!」


「なるほどなるほど……ところで勇者よ、剣といえば私が出演している番組がーー」



「う゛あ゛あ゛ーーーー!!!!」


勇者はもう条件反射で魔王を切り裂いた。

その剣先は世界を平和にするためでも、魔王への憎しみからでもなく。

これ以上の宣伝文句を聞くに耐えられなかった。


かくして、世界は平和に包まれて勇者は1日王様のもとへと招集された。


「勇者よ、この度の活躍本当によくやった」


「お前はそばで見ていたけどな」


「あ、そばといえばーー」

「あーあーあーあーあーー!」


「……なんてね、これまでいろいろ宣伝してごめんなさい。

 実は魔王によって宣伝しないと死んでしまう魔法をかけられていたの」


「そうだったのか。俺はてっきり……」


「ううん。もういいの。

 それに結果的には宣伝への嫌悪感で魔王を倒すことができたんだもん」


「そうか……そうかもしれない。案外悪いことばかりじゃなかったのかもな」


「私の1日王様の任が終わったら次はあなたが王様よ。

 この世界をどうしたい? 民たちをどう支配したい?

 これからこの世界はすべてあなたのものよ」


「うおおお! 夢が広がる――!!」


「勇者様、さあなんでもおっしゃってください!」


国だけでなく世界の王様となった俺は理想のハーレム生活をはじめ、

友達もたくさん増えて最高の未来が待っていた!!






「さあ君も、今年の冬休みに真剣ゼミ『勇者講座』をはじめて

 友達と剣技差をつけて最高の異世界スタートダッシュをしよう!」

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