12月7日
目を覚ますと、いつの間にかソファで居眠りをしていたようでした。
突然の睡魔に襲われて床に突っ伏したような気がするのですが、ひょっとして頑張ってソファまで移動したのでしょうか?
ふかふかのソファから身を起こそうとして、頭の方に違和感を覚えました。
頭の方だけ妙に硬いし、何故か高い位置にあります。
頭の下に枕のようなものが存在しているらしいのですが、こんなものうちにありましたっけ?
ぼやける頭で考えます、覚えがありませんが一体これはなんでしょうか?
「おい」
自分の上の方、それもすぐ近くから聞きなれた声が聞こえてきました。
まだぼけーとする頭をずらして声が聞こえてきた方向を見ると、すっかり見慣れたあの人の不機嫌顔がありました。
未だ不明瞭な頭で状況を確認します。
どうやら私は膝枕をされているようでした。
誰に?
あの人に、つまりは私の夫に。
……………あの人に?
異常事態に一瞬でお脳みそが覚醒しました。
一体何事でしょうか今夜は小惑星でも降ってくるのでしょうかそれとも夢オチでしょうか夢オチですねこれだってありえないですこんな状況。
二度寝しましょうか。
現実逃避におそるおそる目を閉じると、思い切りデコピンされました。
「いっ……!」
「いつまで寝るつもりだ。さっさと起きろこのダメ女」
「……すみません」
だらしない私には当然の罵倒を甘んじて受けつつゆっくりと起き上がりました。
変な姿勢で寝てたのか、身体中の関節がバキバキでしたが動けないこともないので頑張って起き上がってあの人の膝から退きました。
いつからこうなってたのでしょうか? 何時間もこうなっていたのなら申し訳ないですし、自分の駄目さっぷりに割と落ち込みます。
「……ぼさっとしてないでさっさと飯の準備しろ」
「はい……」
苛立ったような声に心臓が冷えていきます。
こんなどうしようもないのを必要ないのにあんなところから助け出してそばに置いてくれているのだから、せめてやれる範囲内ではできるお嫁さんでいたいのに……
このままだといつか燃えないゴミみたいに捨てられてしまう、この人が私の事を本気で邪魔だと思って捨てるのであればそれは一向に構わないのですが、そうなってしまうのならそれはやっぱり辛いのです。
なので早急に夕ご飯の準備をしなければと思いつつあることに気付いて絶望しました。
洗濯物を取り込んだ覚えがありません。
どうしましょう、今日って確か夕方から豪雨の予定だったのでは?
無能でも最低限家事ができるから置いてもらっているというのに、寝落ちてそれすらできていないとか、無能にもほどがあります。
慌ててベランダに出る窓まで駆け寄って、カーテンを引きました。
何故か竿には洗濯物が一枚もかかっていませんでした。
そして、何故か吹雪いていました。
真っ白でした。
「…………あれ?」
おかしいですね、今日って確か7月30日……
真夏だったはずなのですが、何故雪が?
「おい、何やってる」
「……すみません。今日って、7月ですよね?」
不機嫌を極めたような声のあの人を振り返って問いかけると、あの人は本当に機嫌が悪そうな顔でこう言いました。
「はぁ? 何言ってる? もう12月だぞ」
「じゅうにがつ……?」
そんなはずはと思って一つの可能性に気付いた。
先ほどまでは確かに7月の真夏日でした。
しかし今は真冬真っ只中、ということは答えは一つだけ。
「……私、また死んでいたのですか?」
「……ああそうだよ。これでもう五回目だ。滅茶苦茶金がかかった上に滅茶苦茶面倒臭かった」
この人が不機嫌な理由がようやくわかりました。
自分はまたあの奇病で眠りこけていたようです、それも4、5ヶ月くらい。
むしろこの程度で済んでいることに驚いていました、だってこの前の時は目が覚めた瞬間罵倒されたのに。
一回目の時なんか目覚めた瞬間半殺しにされましたっけ、あの時のあの人の顔、ものすごくひどかったんですよね。
それなのに今回は大して怒っていなさそうで、しかも何故か膝枕付きというおまけ付きでした。
一体どういう風の吹きまわしだったのでしょうか。
わかりませんでしたが、それでも言うべきことはわかっていました。
「ごめんなさい。それからありがとうござ」
「五月蝿い。さっさと働け」
言っている途中で遮るようにあの人が素っ気なくそう言い放ちました。
……そうですね、言葉で示すよりも行動で示した方が良いでしょう。
「わかりました」
なら善は急げということで、さっさと家事に取り掛かりましょうか。
まずは食事の準備を、冷蔵庫に何が入っているかを確認することから始めましょうか。
妻の寝顔は死人に似ている 朝霧 @asagiri
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