今の実力

「あの男の子普通に上手くない? やっぱり経験者だよ」

「そうだよね。ボール捌きとか絶対初心者じゃないよ」


 ノックが終わって次の指示を待っていると、一年生のヒソヒソ声が聞こえてくる。

 多少声のトーンは落としているがこっちにも丸聞こえだ。



 まあそういう反応になるよな。

 俺は普通にやってるだけだけど、守備だけならおそらく3年生にも負けてないだろう。

 それも内野でも外野でもどのポジションでもだ。

 おそらくほとんどのポジションはこなせるはずだ。

 流石に地肩がモノを言うキャッチャーは無理だけど。


 単純な肩の強さや敏捷力の不足は事前動作でいくらでもカバーできる。

 それにこのくらいのレベルの守備力なら他にも少しはいるだろう。

 俺は天才でもなんでも無いからな。



 ちなみに野球の世界の天才は本当にえげつない。

 小学校でエースで4番。

 中学校でエースで4番。

 高校でエースで4番。

 プロでいきなり一軍レギュラーで、3年目くらいで4番。


 レベルが上がっていくと高校の強豪校あたりで、すでにみんなが『エースで4番』の選手しか存在しなくなる。

 そしてどこかのレベルで化け物とぶつかった結果、スタイル変更を余儀なくされることが普通だ。

 しかしプロになっても『子供の頃からエースで4番』を継続して、4番を任される選手がいるのもまた事実だ。


 もちろん伊織も準化け物クラスと言えるが、プロの世界で本当の化け物を見ているのでとても自分を天才とは思えない。

 本物の天才は子供の頃からエースで4番で、プロでもそのままエースなり4番になってしまうのだ。

 そんな化け物を間近で見ると天狗の鼻もポッキリ折れるよ。

 だってプロの世界だと野球センス抜群以外の存在っていないから……。


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