守備適正
最後の方は周りと同じようなレベルまで行けたかな?
でもやっぱり人とやるキャッチボールはいいな。
壁先生は裏切らないけど、単調なボールしか返してくれないから……。
そんな事を考えていると、いつの間にか隣りにいた唯奈さんに興奮気味に声を掛けられた。
「ちょっと伊織君! 全然普通にキャッチボールできるじゃん! え? 経験者だったの?」
「いや実は人とはキャッチボールしたことはなかったんです。でも海岸の堤防で延々と壁相手にキャッチボールしてました。だから人とやるのは実は初めてだったんですよ」
一応考えといた言い訳だけどどうかな?
正直苦しい言い訳だけど、そういう設定にでもしとかないと後々突っ込まれた時にボロが出そうだし……。
これならゴロの処理がうまいことの理由にもなる。
大切なことは全部壁が教えてくれたってことにしておけばいいだろう。
「そ、そうだったんだ。壁相手かぁ。でも伊織くんと今キャッチボールした限りだと、動きも問題ないよ。というよりも普通にワンバンしたボールの処理も上手かったよ」
「ありがとうございます。壁相手だとゴロしか返してくれないから、上手くなったのかもしれないです。あ、後良ければ伊織って呼んでください」
「うんわかったよ。じゃあ次はボール回しだよ」
そう言うと唯奈さんは一塁ベースの方に歩いていく。
やはり名前で読んでもらったほうが仲間感が出るしね。
唯奈さんがそう呼んでくれれば、他の人もそう呼んでくれるかもしれないし早く溶け込まないと。
唯奈さんに付いて女子グループに入っていくと、みんな思ったよりにこやかに迎え入れてくれた。
「伊織くん普通にキャッチボールできるんだね!」
「気がついたら唯奈が普通に相手してたからびっくりしたよ」
一度に話しかけられ若干テンパると、必殺の曖昧な笑いで、「ありがとうございます」と返しておく。
そうこうしているとすぐに塁間でのボール回しが始まる。
ここも無難にこなすと、どうやら周囲にもそれなりにプレーができることが認識されたらしい。
まあ話題に入れなくても全然かまわなかった。
ただ普通に野球がプレーしていられるだけで俺は十分に幸せなのだ。
~~~
駿河南の練習は先程のボール回しまでの一連の流れは、毎日変更なく行われる。
ここから先は日によって違うのだが、今日は一年生の守備を見るために一箇所に集めてノックを行うようだ。
上級生はその間、ティーバッティングをするらしく、穴あきネットとボールを用意している。
一年生が三塁ベース付近に集まると、監督が声をかけてくる。
「ではある程度の適性を見たいので、ノックしたボールをバックホームしてくれ。代われと言われたら次の選手と変わるように」
ようするに監督が打ったボールを、捕球したらホームに返せと言うことだ。
そして何球かノックするから代われと言われたら次の人と交代する。
特に悩むこともない。
一年生は列を組んで、一人ずつ監督のノックに対応する。
それほど強い打球ではなく、あくまで捕球から送球までの動作を見ているらしい。
大体みんな10球ほどノックを受けると交代している。
他の一年生のプレーを見ているとようやく俺の番が来た。
監督は最初はゆるい正面のゴロを打ってきた。
前に見ていた他の生徒より明らかに打球が弱い。
うーん。さっきの唯奈さんと同じ流れになりそうだな。
そう考えると俺は、捕球してから素早くバックホームする。
もう一度正面に来る打球。
これも特に問題なく捌く。
次は左右。間に合う限り正面に回り込んでボールを捌く。
5球くらい捌いたところで右方向に強い当たりが来る。
やばっ。ギリギリか。
なんとか逆シングルでボールをキャッチすると、踏ん張って体重移動をして力を乗せてワンバウンドで送球する。
「前の世界」ならノーバウンドで送球するけど、今はこっちのほうが確実だからな。
やっぱり壁先生で練習しといてよかったよ。
その後も卒なく守備をこなす。
「よし。代われ!」
監督に交代と言われて俺は、ノックをしてもらったお礼を言う。
「ありがとうございました!」
ノックはもうそんなに問題ないかな。違和感も少なくなったし。
やっぱり打球の反応とか処理は「前の世界」の経験が活かせるな。
周りと比べるとちょっと目立ったかもしれないけど、みんな一年生だしな。
どちらにしろ手を抜くとかはありえないしこれでいいだろう。
さてさて、次はなんだろな。
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