キャッチボール

 グラウンドのホームベース付近に集まって横3人の隊列を組む。

 そして掛け声をかけながらグラウンドの外周を走る。


 うーん、全員で揃ってランニングっていうのは久しぶりだなぁ。

 プロになってからは、個人アップが中心だったから逆に新鮮に感じるな。


 ランニングを終えると次はストレッチだ。

 特に問題もなくメニューをこなしていく。


 そしてキャッチボールだ。

 キャッチボールはそれこそ誰でも知っている練習だろう。


 なぜ野球選手が毎日この練習を行うかというと、野球の基本動作である『送球』と『捕球』の練習になるからだ。

 野球ではどんな状況であれ、この技術は必須となる。

 俺の経験だと上のレベルに上がっていくほど丁寧にキャッチボールを行っている。


 準備運動として漫然とキャッチボールを行うと、得られるものはほとんど何もなくただ肩が暖まるだけだ。

 しかし毎日真剣に行っていると、その日の自分の状態がわかってくる。


 指先からボールが離れる感覚

 肩の重さ

 ボールの回転

 コントロールの精度


 挙げればキリが無いが、意識しようとすればいくらでも練習はできるのだ。

 最近はずっと壁に向かって投げるだけだったので、そろそろ人恋しくなっていた。


「じゃああっちの方でキャッチボールしようか」

「了解です」


 唯奈さんがそう声をかけてくると、塁間の半分くらいの距離を開ける。


「じゃあゆっくりでいいからね。いくよー」


 ふわっと山なりに投げられるボール。

 俺はそれをキャッチして同じようにゆっくりと唯奈さんに返す。

 またふわっとしたボール。

 しばらくやり取りされるボール。



 ……。

 うーん。

 やっぱり気を使ってくれてるんだな……。

 周りを見てみるともっと速い球でキャッチボールをしてるしな。



 キャッチボールを実戦的に考えると山なりのボールは投げてはいけない。

 なぜなら山なりのボールを投げた瞬間に、ボールが相手に届くまで誰もカットできなくなってしまう。

 そうなるとランナーがいる場合は次の塁に進まれる可能性が出るので、相手の手の届く範囲に速い球を返さなければいけないのだ。


 徐々に距離が離れて塁間ほど距離ができた。

 よし!

 俺は『心のキャッチボール』を試みる。

 唯奈さんから来たボールを俺はワンハンドでキャッチした後、素早くワンステップで投げる。


 俺の想い届け!!


 今までよりスピードがあるボールを唯奈さんに投げる。

 受け取った唯奈さんはまたふわっとしたボールを投げる。

 俺は再度キャッチしたボールを素早く返球する。

 唯奈さんはまたふわっとしたボールを投げる。

 俺はさらにキャッチしたボールを素早く返球する。



 友奈さんは少し間を開けると俺の方をチラッと見た。

 俺の意図を感じてくれたのか、先程よりも少し速いスピードで投げ返してきた。

 当然難なくキャッチして先ほどと同じようにワンステップで返す。

 唯奈さんもボールを受け取ると先程より更に速いボールを返してくる。


 捕った後に素早く返す。

 しばらくこのやり取りを続けていると、周りのキャッチボールのスピードと変わらなくなってきた。

 唯奈さんはもう普通に送球していると思う。



 うんうん。

 キャッチボールは特に話をしなくても意思が伝わるのはいいな。

 これならキャッチボールくらいはできると唯奈さんにはわかってもらえたはずだ。



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