第95話 覚悟


「誰っすかね、アイツ」

「さぁ・・・」

池崎くんの性格上、普段なら駆け寄って行くところだが、

まだ足の捻挫が完治していなかった。

男はこちらに背を向けてグラウンド整備を続けている。


僕たちは徐々に男に近づいて行った。

そして男に数メートルまで近づいたとき、男は手を止め、こちらを向いた。


「上山!」

真っ先に声を上げたのは普段なら最も冷静な松島くんだった。

男の正体は、長かった髪をバッサリと切り、坊主頭にした上山くんだった。


上山くんは僕たち全員を一通り見渡すと、グラウンドに膝を付き、

グラウンドに頭を付けて、土下座をした。

「すまなかった!」

僕たちは驚きのあまり、しばらく黙ってその場に立ち尽くし、上山くんを見つめていた。


「もし許してもらえるのなら、もう一度、野球部に戻らせて欲しい。

頼む!この通りだ!」

僕にはその言葉が上山くんの魂の叫びのように聞こえた。

やはり上山くんは野球が好きなんだ。野球がやりたいんだ。


「上山、お前・・・」

松島くんは戸惑いながらも、どこか嬉しそうに上山くんを見つめていた。


僕はみんなの方を向いて言った。

「みんな、僕からも頼むよ。

 上山くんが今、野球部に戻るって自分から言ってくれた覚悟、わかるだろ?」

上山くんはあれだけみんなを振り回した。

そんな中に戻るってことはどういうことか。

恐らく、上山くんが一番理解をしているはずだし、その覚悟は相当なものなはずだ。

僕はその覚悟がわかったし、みんなにもわかって欲しかった。

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