第88話 上山と金子


上山は去って行く連れ達の後ろ姿を見つめていた。

金子は更に拳を強く握りしめ、

「くそ・・・どいつもこいつも・・・俺をバカにしやがって・・・」

「金子・・・」

上山は金子の姿をじっと見つめている。

オレはゆっくりと上山と金子に近づいた。


「くっそーーーー!」

金子は突然、上山に突進していった。

上山は金子のタックルを受けて倒された。

「上山!」

オレは上山と金子の元へ走った。


金子は上山に馬乗りになって、右、左、右、左と上山の頬を殴り付けた。

上山は反撃もせず、防御もせず、黙って殴られ続けていた。

「やめろ!」

オレは金子を後ろから羽交い絞めにし、何とか金子を制止した。

「放せ、放せよ!」

金子は完全に冷静さを失っており、オレを振りほどこうと暴れている。

上山は口元から血を流し、ただ黙って真っ直ぐに金子を見ていた。


「すまない」

上山の言葉に、金子は驚いた様子で、暴れるのを止め、上山を見た。

「俺がお前を巻き込んだせいで、お前にも嫌な想いをさせたな。

 本当にすまなかった」

上山は真っ直ぐに金子を見つめたまま言った。

金子もじっと上山を見ている。

少しの間、2人はお互いをじっと見ていた。


「チッ。放せよ!」

金子はオレの手を振りほどき、立ち上がった。

「なんでやり返さねぇんだよ!なんで謝るんだよ!クソがっ!」

そう言うと、金子は去って行った。

上山は起き上がりもせず、黙って空を見つめていた。

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