第10話

 少年が寝泊まりする部屋に夕陽が差す。普段は暗くて見えないが、光に当たると床の色は血が滲んだように見えた。穴があり歩くたびにギシギシと軋む。少女がたくさん泣いた日以降、少女が許嫁や恋人の話をすることはなかった。泣いていたのが嘘のように明るく少年に接してくれた。それでも時々隠し切れない少女の悲しみが少年の心を濡らす。

「おっと」

 少年が何気なく足を置いた床板が抜け落ちた。危うく下に叩き落されるところであった。雨漏りが酷いため木が腐っている。キノコが生えて埃と虫と垢だらけのこの部屋も、何日か暮らせば愛着が湧く。少年はベッドに横になり、全身でぐらぐらと夕陽を感じていた。冷えた肌が少し温くなる。目を閉じても眩しいくらいだ。まぶたの裏の血管に血がトクトクと流れる。少年が訪れる前にも誰かが寝泊まりしたのだろうか。同じベッドで横になり悪夢に苛まれただろうか。それよりももっと前、この家の壁紙がまだ剥がれ落ちていない頃、その頃からこのベッドと夕陽は変わらずに人間を包んだのか。少年は自分の思考が流れるままに任せた。夕陽は集めている硝子の欠片によく似た色をしていた。それは幸福の色だ。幸福は優しく燃える炎なのだ。遠すぎず近すぎず、このように少し皮膚の表面だけ温まればそれでよい。汗が吹き出るほどの幸福は望まない。ふと、少年の睫毛が濡れた。この美しい夕陽を少女に見せたいと思った。自分の目を、少女の目にしたっていいと思った。少女の行けない場所や知らないことをこの目で彼女に見せてあげよう。何度も幸福の夕陽を浴びよう。たとえ僕に何も見えなくとも少女が喜んでくれるなら構わない。少年は少女と会っていない時間もずっと少女の幸福を願い続けた。フクロウが少年を見下ろして鳴いた。

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