第2話
夜の帳が下りるころ、少年は体を震わせて街を歩いていた。泥だらけで穴が開いたシャツにどぶの匂いが取れないズボンを履いて、薄茶色のリュックを背負っている。もうすぐ雪が降る季節だ。太陽が暮れると気温が急激に下がり、凍えるような風が少年の体に容赦なく吹きかかる。どこかで体を温めたいと酒場をうろつく。旅の途中、落馬して死んだ男を見つけて男のバッグから金貨を盗んだ。これがあれば酒が飲める。すぐにでも穴が開きそうな薄っぺらい靴では少年の足を温めるには不十分で、一歩進む度に凍えた足がキリキリと痛む。肩を抱き合いながら酒瓶を片手に闊歩する男たちが少年に唾を吐き、笑う。少年は体についた唾を拭うこともせず俯いたまま歩く。
看板が逆さになっているぼろい酒屋に踏み入れた。入り口の前で麦酒を持って騒ぐ赤ら顔の男に顔を覗き込まれて「汚ねえガキだなあ!」と言われるも少年は無視し、店主に酒を求める。店内では歯も髪も足りないおばさんがシャツを着た青年に怒鳴りつけている。床板は剥がれて虫が走る。銃弾の痕も残っていた。少年が酒の名前を伝え、金を渡そうとしたが、店主は鼻で笑うだけだった。少年はすぐにでも酒を飲みたかったため、金を多めに握ったが反応は変わらない。少年は三度、店主に声をかけた。すると店主は酒を注いだかと思うと少年に見せつけるように自分で飲み干した。少年は店主を黒い目で見つめた。
「子どもに飲ませる酒なんてねえよ」と、店主は言うと、客のおばさんが大口開けて笑う。
少年は酒を諦めて帰ろうとするも、道で少年に唾を吐いた男たちがちょうど店に入ってきて、少年の首根っこを掴んだ。足が宙に浮く。首が閉まって藻掻く。びゃーびゃーと鼠のように騒ぐ少年を男たちは殴りいたぶる。何度も顔や腹を痛めつけられ、口の中に嫌な鉄の味が広がり眩暈がする。男たちの腕を噛みついて怯んでいる一瞬の間に少年はリュックを抱きかかえて小動物のごとく逃げ出した。「臭いガキが酒場に来るな!」「家でママのおっぱいでも吸ってな!」という男たちの声が少年の頭に響く。少年の足は限界を迎えていたが、屈辱を忘れるために全速で走った。
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