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予期せぬ接点ができてからというもの、校内のあちこちで、佐野誠の姿が目に留まるようになった。
佐野は、いつも一人でいた。孤独を愛するタイプなのか、単に友達ができないのか。あたしは後者だと確信している。だって、かなり変な人だった。メガネの奥にきらめく目の印象が、強く残っている。佐野誠は、話している相手の目をまっすぐ見る人だった。
「うわ、こっち見てきた。キモイ」
教室の隅で顔を突き合わせながら、小さな声で何かしゃべってる男子たちを見て、ニナが顔をしかめる。
いわゆる、オタクと呼ばれる人たち。スクールカーストの最下層。陰キャラだと、クラスメイトに嫌煙される。時折大きくなる声に反応して、あたしたちは彼らに気付く。
ニナの悪口に笑いながら、あたしは心の隅で彼らをうらやむ。趣味の合う仲間に囲まれて、いいな。楽しそう。遠慮もなにも、ないんだろうな。
西棟の廊下の壁から、あたしの絵が消えてすぐ、佐野誠はあたしの前に現れた。
委員会で帰りが遅くなったこの日、駄箱の前で、佐野はあたしを待っていた。
教室に突撃されなくてよかったと、心からほっとした。だって、クラスメイトに、この人と知り合いだと思われたくない。特に、ニナに。
「交渉に来ました」
「あー、絵でしょ。いいよ、あげる」
一刻も早く、佐野誠との会話を切り上げたくて、あたしは鞄に折り曲げて入れていた絵を渡した。
「えっ、いいんですか」
「いいって。じゃ、そういうことだから」
靴を履いて、外に出る。佐野の反応を、確かめる気なんてなかった。それなのに、本当に何の気なく、あたしは振り返って、見てしまった。佐野はあたしの絵を広げて見ながら、幸せそうに笑ってた。
───なんで、あたしの絵なんて欲しがったんだろう。
それからずっと考えてた。あたしの絵が手に入って、佐野は嬉しそうだった。
絵を描くのは昔から好きで、得意なことでもあった。小学生のとき、夏休みの課題で描いた絵が表彰されたことも、一度だけある。
絵を欲しいと言ってもらえて、あげれば喜んでもらえて、正直、少しだけ嬉しかった。久しぶりに味わう、自己肯定感。お風呂のお湯に浸かってるときみたいなじんわりとした心地よさが胸に広がって。佐野を変な人だなぁ、と思いながらも、たぶん、あたしは浮かれてたんだ。
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