第4話 地下探索

 藤吉郎の臨時メンテが終了した後、俺はミサキに用意させた弁当を持って外出した。


 昨夜の荒天が嘘のように晴れ渡っていた。ハイキングに最適なぽかぽか陽気だった。


 藤吉郎は俺の足元を寄り添い歩いている。黒子は猫用のキャリーバックに突っ込んで連れて出た。

 マンションの裏手にちょっとした丘陵があり、その脇に例のトンネルへと入れそうな出入口がある事を確認していた。


 大昔の治水用放水路。

 その管理用出入り口を見つける。


 コンクリートに固められた通路をさび付いた鉄の扉が塞いでいた。

 しかし、その鉄の扉は下側が腐食しており猫一匹が通れそうな穴が開いていた。


「みゃ~ん」


 バックの中の黒子が鳴き始めた。

 ここが怪しいと思い黒子を出してみる。黒子はこちらを振り向きながら、その穴に入っていく。


「やはりここだったか。しかし、どうやって中に入るかな? 藤吉郎、どうする?」


「にゃ~ん」


 藤吉郎は当然とばかりに黒子の後を追い、ドア下部の穴から中へと入っていく。俺はしゃがんでその穴を確認したが、どう考えても人が通れるサイズではない。


 俺は立ち上がり、どうしたものかとしばし考える。


 もしかしたら施錠してないかも? と甘い期待を抱きながらドアノブに手を掛けて動かしてみる。


 ドアの周囲が腐食していたのだろう。鉄のドアはヒンジ部分が破損して外れ、俺の方へと倒れてきた。大音響が響き、凄まじい埃が舞う。


「みゃ~ん」

「にゃ~ん」


 黒子と藤吉郎が通路の中から俺を呼んでいる。

 破損したドアの事が気になるが仕方がない。俺はハンドライトを握り、通路の中へと入っていった。


 黒子は真っ暗な通路の奥へと進んでいく。突き当りに階段がありそこを下って行った。それに藤吉郎が続き、俺が後を追う。


 階段の先には鉄のドアがあったが、そこは開いたままとなっていた。黒子はその隙間を抜けてさらに奥へと向かう。


 だだっ広いトンネル。

 しかし、周囲はぼんやりと発光していた。トンネルの天井や壁に、発光するコケのような物がびっしりと生えていたからだ。


 そしてその中央に流線形をした物体が鎮座していた。


 大型バス程度のサイズだろうか。しかし、見た事が無い形状だった。

 咄嗟に浮かんだ言葉が「UFO」だった。


「緊急事態を認識しました。当機は愛玩動物モードから緊急避難モードへと移行します。人の生命尊重を第一に行動します事、ご了承願います」


 藤吉郎の瞳が赤く三度点滅した。


「やれやれ。窮屈な愛玩動物モードからやっと解放されたぜ」


 大あくびをしながら藤吉郎が話し始めた。この猫ロボは、緊急時に避難誘導の為に人語を話すよう設定してある。


「みゃ~ん?」


 突然人語をしゃべり始めた藤吉郎に対して一瞬たじろいだ黒子だったが、すぐにじゃれてきた。そしてそのUFOらしき物体へと歩いていく。

 流線形の胴体の脇に、ぽっかりと出入口らしきものがあり、階段状のタラップも設置してあった。


 黒子は迷わずにそのUFOの中へと入っていく。俺と藤吉郎もその後を追う。


「これは宇宙船なのか?」

「多分な」

「どうしてこんな地下に?」

「故障したとかでここに逃げ込んだんだろう」

「逃げる? 何の目的があったんだろうか?」

「さあ?」


 キョロキョロと辺りを見回す藤吉郎だったが、何かつかんだようだ。


「ふーん。下半分が動力関係。上半分が居住空間。前方が操縦系、後方に個室かな?」


 冷静に宇宙船を分析する藤吉郎。黒子は左側の奥へと入っていき、俺と藤吉郎もそれに続いた。


 個室らしき部屋には光るコケが適度に配置されており、ベッドの上には若い白人女性が横たわっていた。黒子はピョンと跳ねてベッドの上に上がり、その女性の顔を舐める。


 しかし、反応は無かった。


「その人は人間……いや地球人なのか? まるっきり白人女性みたいだが」

「わからない。確認してみよう」


 藤吉郎もベッドの上に上がり、その女性を観察する。


「これは……俺と同系の機械生命だな。機能停止しているようだ」

「機械生命?」

「驚く事は無いだろう」

「ああ。そうだな。何故、白人の姿なんだろうか」

「それは、地球に入り込むための擬態じゃないかな。もしくは元々そういう姿だったからか……」

「地球人にそっくりな異星人がいるのか?」

「知らなかったのか? お前達の感覚で言う地球型人間は結構多いぞ」

「初めて聞いたよ」

「言って無かったな。それよりもコクピットへ行ってみよう。何かわかるかもしれない」


 藤吉郎はそう言ってベッドから降りた。そして個室を出て反対側、恐らく船首側へと走って行く。黒子もそれに続いた。俺も黒子を追いかけていく。


 藤吉郎はコクピットらしき場所を念入りに調べていた。


「こいつは驚いた。言語体系が俺たちの物と酷似している」

「それは?」

「古いが俺達のものと同じって事さ。こいつは……今から数百年前の言語じゃないかな」

「そんなに古いものが……宇宙を彷徨って最後にここへたどり着いたって事かな」

「さあ。それは詳しく調査をしてみないと何とも言えないね。お、起動するぞ」


 コクピット周りのパネルをいじくっていた藤吉郎が不意に叫ぶ。


 正面のモニターが点灯し、何やら記号の羅列……いや、アル・ファールド達の言語なのだろう……が表示された。

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