27/20 近原友治の話⑥

「僕は……少し、きわどい話題に触れてしまって」


(――いま、聞こえた? 僕が何て言ったか、認識できた?)


 男は黙って近原の話に耳を傾けている。

 近原は唇を湿らせて、慎重に言葉を選びつつ紡いだ。


「笹貫さんの表層意識が知ることを望んだとしても。記憶をなくしてしまうほどショックを受けた出来事を、そう簡単に脳は……笹貫さんの深層意識は開示しない。笹貫さんに限らず、誰もがそうなんだよ。防衛本能だから。開かない箱は鍵を見つけるか、――壊してでも開けるしかない」

「……笹貫透は壊したのか」


 近原は緩慢に首を振った。否、の意をこめて。


「また例え話をしてもいいかい?」

「ったく、いいぜ。付き合ってやンよ」

「ありがとう。君は、うん、そう、例えば、子どもの頃、親の外出中に食器を割ってしまったとする。君の家では猫を飼っていて、猫が悪戯いたずらをすることもままある。帰宅した親が割れた食器を発見したとき、そして君は自分にかかる叱責をなるべく減らしたいとき、なんて言い訳をする?」

「なんだそりゃ」


 男は目を丸くした。


「相ッ変わらず読めねえ奴だな……要するにしでかしたことを隠して自分のせいじゃねェって主張したいんだろ」

「うん、そういうこと」


 男は数秒口を閉ざして一点を見つめ、そののち、「ニャンコのせいにする」と答えた。


「割れちまったモンはどうしようもねえ。割れた食器そのものを見られてるンなら尚更だ。事実は変えられねえ。ならなすりつけるしかないわな。ニャンコにゃ悪いがソイツが悪戯したって言うな。そうすりゃお叱りも半分くらいになンだろ」

「そう、そうだね。そして親は、ではなくと認識する」

「……これ、笹貫透の話だろ?」

「そうだよ。いま僕と君の間で交わされているこれはほかでもない、笹貫透さんの話だ」


(――今日は、あなたの話をしようか? 笹貫透さん、あなたの話を)

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