16. 今日が文化祭本番ですか?

 文化祭当日。競プロ部の部室には私と早希と玲奈の3人が集まっていた。枝刈先輩はゲーム研究部の方が忙しいらしく、こちらには来ていない。つまり、私たち3人で文化祭を乗り切らなくてはならない。


 今、部室にはパソコン室から借りてきた4台のパソコンと、パソコン部からもらったデスクトップパソコンを加えて合計5台のパソコンが並べてある。同時に5人まで競プロができるということだ。


 時刻は8時50分。あと10分で文化祭が始まる。始まってしまう。


「いよいよだな」


 早希が言った。


「うん」


 玲奈が無表情のまま頷く。


「一人も来なかったらどうしよう」


 私は少し不安になっていた。競プロ部の部室は部室棟の一番端っこにある。通りかかるような場所ではない。一応学校のいたるところにチラシは貼っておいたが、どのくらい効果があるのか。


 しかし、早希は笑って言った。


「誰も来なくてもさ、それはそれでおもしろいじゃん。そうしたら3人で競プロしようぜ」


 本気で言っているようである。さすが早希だ。彼女はどんな状況でも強気なのだ。


「でも、せっかく準備したんだし、一人くらいは来てほしいよ」


 私は部室を見回しながら言った。昨日手分けしてパソコン室からパソコンを持ってきた。デスクトップだからめちゃくちゃ重かった。部室の中も文化祭用に装飾を施した。一日がかりの大仕事であった。これだけ準備をしておいて一人もこなかったら悪夢だ。


「まあ心配しなくても一人くらい来るだろ」


 早希はそう言って笑うのだった。




■■■■■■




 それから一時間が経った。


「一人も来ないね」


「うん」


「おっかしいなあ、呼び込みでもやりにいくか?」


「呼び込みは禁止だってさ」


「ちょっとくらいやってもバレないだろ」


「ダメだよ、ルールは守らなきゃ。それに呼び込みしたって結果はあまり変わらなそう」


「だな……待ってるだけでもなんだし、競プロでもやる?」


 早希は用意したパソコンの前に座ると、ブラウザソフトを立ち上げ競プロのウェブサイトにアクセスした。たしかに待っているだけでは暇だ。私も競プロをやろう。


 そのとき。


「どう、やってる?」


 開けっ放しになっている部室の入り口に人が現れた。


「いらっしゃいませ! って枝刈先輩か」


 枝刈先輩が遊びに来てくれた。というか、一応枝刈先輩も競プロ部員ではあるのだけれど。


「なんだよ、私で悪かったな。それで人は来てる?」


 私は俯きがちに答える。


「それがまだ一人も来てません……」


「一人も!? ……それは残念だな。まあまだ一時間しか経ってないし、これから来るだろ」


「ホントですかぁ」


「ホントホント、私を信じろ。ということでまあ頑張れよ。私ちょっと見に来ただけだからもう行くわ」


 そう言って枝刈先輩は早々と部室を出ていった。また部室には3人だけが取り残された。


「行っちゃったね」


「ゲーム研究部は人気らしいからな。うちと違って」


「そんなこと言わないで、悲しくなっちゃう」




■■■■■■




 再び一時間が経過した。


 部室内には競プロに励む三人だけしかいない。


「本当に一人も来ないね」


「このまま誰も来ないかもな。もうそれでもいい気がしてきた」


「ね」


 私たちは競プロをやりながらのんびりしている。まるでいつも通りだ。学校内が文化祭で賑わっているなんて信じられないくらいだ。ちょっと学校内を見て回ってこようかしら。


 そのとき。


「やってます?」


「い、いらっしゃいませ! 競プロ部です!」


 部室の入り口に一人の女性が現れた。眼鏡をかけていて長い黒髪の綺麗な女性。見たことはない。お客さんだ。いきなり来るものだから驚いてしまった。


「入っても大丈夫かしら?」


「はい! どうぞ、こちらへ」


 私はその女性を椅子へと案内する。初めてのお客さんだからとても緊張するのだ。


 女性は緩やかな仕草で椅子に座った。美しい。


「ありがとう。競プロ部は3人だけ?」


「いえ、もう一人先輩がいるんですけど、今は他の部活へ行ってます」


「そう。それにしても懐かしいわね、ここ」


 その女性は部室内を見回しながらそう言った。


 懐かしい? どういうことだ。あっ、もしかして……。


 私が口を開く前に早希が言った。


「もしかしてここの卒業生の方ですか?」


 すると女性は笑って答えた。


「ええ、そうよ。私も競プロ部だったの」


「ホントですか!?」


「ええ、本当よ。もう十年も前の話になっちゃうけど。競プロ部が活動再開したって山口先生から聞いてね。今日は来てみたの」


「そうだったんですね。ありがとうございます!」


 山口先生もたまにはいいことをする。競プロ部OGの方に連絡してくれるなんて。これで来場者0人は免れた。しかも競プロ部OGの方が来たということは競プロバトルもできるということだ。


「それでパンフレットには競プロで対決ができると書いているけど、できるの?」


「もちろん、できますよ」


「それじゃあ勝負しましょうか。こう見えて私結構強いのよ」


 そう言って女性は肩を回し始めた。


 強キャラ感が半端じゃない!




■■■つづく■■■

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