17. 競技プログラマー集合ですか?
文化祭当日の競プロ部の部室、もうすぐお昼ごはん時というところで、一人の女性が現れた。眼鏡をかけた黒髪ロングの女性。
その女性は岸田と名乗った。岸田さんは元競プロ部で、しかも現役の競技プログラマーらしい。つまり、私たちの大先輩だ。競プロ部の先輩に会うのはこれが初めてである。
「ちなみに岸田さんは何色ですか?」
私は肩を回して準備を始めた岸田さんに質問する。振り返った岸田さんが答えた。
「黄色です。君たちは?」
「まだ灰色です。コンテストにはまだ3回しか出れてなくて」
「そうなの。じゃあ私が圧勝しちゃうかもね」
そう言って岸田さんはニヤリと笑う。美しい女性の笑う姿というのはどうしてこうも眼福ものなのか。ずっと見ていたい。
「まだ灰色だけど、いずれはレッドコーダーになるからさ。そう簡単には負けないぜ」
岸田さんの圧勝発言に対して早希が噛みつく。そうだったのか。私たちはレッドコーダーを目指していたのか。もちろん目標は高い方が良い。レッドコーダーがどのくらい凄いのかはよく分からないが、高みは目指しておいて損はないだろう。
「威勢が良いわね。楽しい勝負になりそう。それで勝負の内容は?」
「30分でコンテストの過去問をたくさん解けた人が勝ちです」
「分かりやすくていいわね。それじゃあ始めましょうか」
岸田さんがパソコンのキーボードに手を置く。いつでもかかってこいということだろう。
私たち3人も同じように席につく。パソコンの画面にはコンテストの過去問のページが開かれている。すぐにバトルを始められるようにすでに用意しておいたのだ。
そのとき。
「こんにちは、競プロ部はここで合ってます?」
一人の男性が競プロ部の部室の入り口に立っていた。にこやかな笑顔。どこかで見たことがある気はするが知り合いではない。誰だろうか?
「う、噓でしょ!?」
岸田さんが勢いよく立ち上がった。岸田さんはこの男性のことを知っているらしい。そしてこの反応から察するにおそらく競プロに関わる人だろうか。
「えっと、いらっしゃいませ……競プロバトルの参加希望者の方ですか?」
私がおそるおそるそう尋ねると、男性は笑顔のまま頷いた。
「そうです、田所といいます。新しく競プロ部が発足したと山口先生から聞いてね。遊びに来ました」
また山口先生か。あの人は意外と人脈が広いのだろうか。次から次へと競技プログラマーに連絡を取っているらしい。ありがたいことではあるけど。
「それじゃあ、こちらへどうぞ!」
私は田所さんを席へと案内する。岸田さんの隣だ。岸田さんはさっき勢いよく立ち上がってからそのまま突っ立っていた。そんなにこの田所さんの登場に驚いたのだろうか。
「あ、あの、岸田といいます。後でサイン貰ってもいいですか?」
「もちろん、いいですよ」
岸田さんはそう言うと、田所さんは笑顔で了承した。
サイン? サインを貰うほどの人物なのか。この田所さんという人物は何者だろうか。たしかに見たことはあるのだけど思い出せない。喉元まで出かかっているのだけど。
私たちがポカンと腑抜けた表情を浮かべていると、岸田さんがそれを察して教えてくれた。
「君たちは競プロを始めたばかりだから知らないかもしれないけど、この田所さんは競プロのコンテストを主催している会社の社長さんよ」
「社長!?」
なんとこの田所さんは、私たちがいつも参加しているコンテストを主催している会社のお偉いさんだった。どうりで見たことある顔だと思った。何かの記事で写真が載っていたのだ。
「社長さんがなぜこんなところに?」
「競プロ部ってまだあんまり少ないからね。応援したくなっちゃったんだ。時間もちょうど空いていたし」
社長は満面の笑みでそう言ってくれた。ありがたいことだ。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「それで勝負はどうやるの?」
「あ、えっと、コンテストの過去問を30分の間に多く解けた人が勝ちです」
「なるほど。シンプルでいいね。それじゃあ始めようか」
田所さんは肩を大きく回し始めた。競技プログラマーは準備運動を欠かさないらしい。岸田さんも田所さんも肩をグルグル回している。
私も真似をして肩を回す。たしかに筋肉がほぐれて良い気がする。
それにしてもなぜか緊張してきた。いつもコンテストを開いている会社の社長さんと勝負をするなんてなかなか無い経験だ。
私と早希、玲奈、岸田さん、そして田所さんがそれぞれパソコンの画面を見つめる。スタートの合図を待っている。
「みなさん、準備はいいですか?」
私は他の4人を見る。みんなが頷き返してくれる。準備は整った。
「それじゃあ、始め!」
みんなが一斉にコンテストの問題を開く。
闘いが始まった。
コンテストの問題は全部で8問。30分間で多くの問題を解いた人が勝ちというシンプルなルール。十中八九私たちは負けるだろうが、格上の人間と闘えるこの機会を存分に楽しみたいと思う。
それから30分はあっという間だった。
■■■つづく■■■
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