競プロ部文化祭編

15. もうすぐ文化祭ですか?

 二分丹女子高等学校ではもうすぐ文化祭が開催される。


 そして本番の一週間前からそれぞれのクラスや部活では準備が始まっていた。


 放課後、競技プログラミング部、通称競プロ部の部室にはいつものメンバーが集まっていた。私、早希、玲奈、枝刈先輩の4人である。みんなホワイトボードの前に立ってうんうんと唸っている。


「誰も良い案出せないの?」


 枝刈先輩がそう言うが、誰も反応できない。


 今、私たちは文化祭の出し物について考えていた。競プロ部の出し物として何が最適か考えているのである。しかし、これといって誰も出し物の案を持ち合わせていなかった。困った状態である。


「競プロ体験とかでいいんじゃない? 競プロ部らしい出し物ってそれくらいしか思いつかないし」


 早希が頭をかきながら言った。


「なるほど、競プロ体験ね」


 私はとりあえずホワイトボードに「競プロ体験」と書く。ようやく一つの案が出た。もうこれでいいんじゃないかという思いと、競プロ体験が果たしておもしろいのかという思いがせめぎ合う。


「競プロ体験で人が集まるか? それならいっそのことプログラミング体験でよくないか?」


 枝刈先輩がそう言うので、私はホワイトボードに「プログラミング体験」と記入する。たしかに一理ある。競プロ体験だと競技プログラミングの説明から始めないといけない。それに対して「プログラミング体験」ならばそんな説明も必要ないだろう。


「プログラミング体験って何するの?」


 ずっと黙っていた玲奈が口を開く。


 枝刈先輩は少し困った表情を浮かべながら答える。


「うーん、なんだろ? ゲーム作ってみるとか? いや、それだとゲーム研究部っぽくなっちゃうか」


「ゲーム研究部では何やるんですか?」


「自作ゲームの展示。今年はみんなでシューティングゲームを作ったんだよ。それを来場者に遊んでもらう」


「へえ、おもしろそう!」


「遊びに来なよ。対戦もできるよ」


 ゲーム研究部がおもしろそうなことをやるらしいということは分かった。文化祭が少し楽しみになってきたが、そんなことよりもまず競プロ部の出し物を決めなければいけない。あまり時間は残されていないのだ。


「他に案がある人います?」


 私は他の三人を見まわす。しかし、誰も手をあげない。


「あとは先生に聞いてみるとか? 昔どんな出し物をやっていたか先生なら知ってるだろ、だぶん」


「おお、なるほど」


 私はホワイトボードに「先生に聞いてみる」と書き足した。高橋先生か山口先生を見つけて聞いてみることにしよう。


「じゃあさっそく私、聞いてきます!」


 私はそう言うと部室を後にした。




■■■■■■




「ということで山口先生」


「何が『ということ』でなんだ?」


 私は山口先生に話を聞くため職員室までやってきた。山口先生の机には教科書やら資料やらが雑に積まれている。片付けができない人の典型みたいな机だった。私は掃除好きなので代わりに掃除してあげたいくらいだ。むずむずする。


「競プロ部の出し物って何がいいと思いますか?」


「ああ、出し物の話か」


「もしくは昔どういった出し物をやっていたかとか知ってます?」


 山口先生は顎に手を当てて考え始める。いつものポーズだ。山口先生は何か考え込むときはいつも顎に手を当てる。そのポーズがなかなかに決まっているのだ。絵に描きたいくらいである。


「たしか昔は競プロのミニコンテストとか開いてたかな」


「ミニコンテスト?」


「パソコン室を借りて、来場者と競プロで勝負するんだ。あらかじめ問題をいくつか作っておいてな。思い出すと懐かしいなあ」


 山口先生が思い出に浸っている。うっとしい表情だ。しかし、いい話が聞けた。ミニコンテストは難しいかもしれないが、競プロバトルはできるかもしれない。もちろん私たちに作問のスキルはない。それでもパソコン部との一件のように競プロバトルはできるはずだ。


「いい話が聞けました。ありがとうございます、先生」


「うん? もういいのか。まあ頑張れよ」


 私は山口先生に礼を言って職員室を後にした。それから部室に戻って、山口先生から聞いた話をみんなに話した。


「ということで競プロバトルでどうでしょう?」


 私はホワイトボードに大きく「競プロバトル」と書き込む。


「競プロバトルねえ。競プロ体験よりはおもしろそうだけど、ハードル上がってないか? プログラミング経験者でも来ない限り難しいだろ」


 さっそく早希が突っ込んでくる。しかし私はそう言われることを予想していた。ちゃんと考えてある。


「そう、だからプログラミングをやったことがない人には競プロ体験、やったことがある人とは競プロバトルをすればいいと思うんですよ。どうです?」


 私がそう説明すると、枝刈先輩が「なるほど」と頷いた。


「それならいけるかもね。パソコンはパソコン室から何台か借りてくればいいし」


「ですよね」


 私はガッツポーズを決める。ようやく出し物が決まりそうだ。


「じゃあ文句なしだな」


「決まり」


 そしてみんな納得して頷いてくれた。


 私たちの文化祭は「競プロ体験」と「競プロバトル」の二刀流ということになった。




■■■つづく■■■

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