第6話「地底の蝶」
「なんなんだ、お前は?」
「見ての通りよ」
「それが、全く」
寝台に横たわるアルムの上にと乗る少女、その黒髪は光に照らされて淡く光る。
「よくわからないんだって」
「可愛いでしょ?」
「変な事言うなって……」
少女にと自身の身体から除けるように手を振りながら、アルムはこの正体不明の少女。
「どこへ行っていたんだ?」
「どこにも行っていないわ」
「フゥン……」
はぐらかす答えを言う、彼女の顔を軽く睨む。
「ともかく、隊長に報告するか?」
「いやよ、あの人」
「なぜ?」
「私を実験動物として扱う、そんな顔をしている」
その答え、それ事態はアルムには否定する気はないが、だからといって。
「いつまでもお前を隠し通せる訳でもないし、養ってもいられない」
「いいわよ、甘い物があれば」
「それが手に入らないんだって……」
少女にと言った通り、彼女を付近の者の目から隠し通すことは出来ない。そうする義務もない。
「あっ、そうだ?」
「何?」
少女がアルムの身体から離れていくと共に、彼アルムにはその彼女の身体を包む光がややに、増したように見えた。
「お前の名前は?」
「名前なんて、ない」
「名無し、登録されていない人間か……」
「ブルーム」
「ん?」
「そう、呼ばれてはいる」
「名前、あるじゃないか……」
少し少女と話していて頭が痛くなってきたアルム、これは彼女との話の内容云々ではなく、単にこの狭い寝室の空気循環が上手く出来ていないせいもあるが。
「じゃあさ、ブルーム」
「甘い物」
「解った、解ったからブルーム」
いや、彼女ことブルームの話も少しは頭痛に影響しているかもしれない。
「お前は、今何をしたい?」
「んーと……」
少女、ことブルームはその細い指を唇にと付けて、暫しの間考えていたが。
「解らない」
――――――
「で、結局彼女はいたわけね」
新たな任務を伝えにきたレーナの、その呆れたような声にアルムはすぐには答えず、無言で固形食料をナイフで切り分けている。
「それで」
「それでってなんだよ、レーナ?」
「彼女、どうするの?」
「……」
その固形食料、ゼラチン状のその物体を皿に載せて彼女、ブルームへと手渡しながら、アルムはため息混じりに自らの食事を取る。
「これ、不味い……」
「文句を言わないでくれ、ブルーム」
「何か、軟骨を啜っているような感じがする」
どんな感じだよ、とアルムは言いかけたが。
「あんまり、長い間隠し通せるものじゃないわよ」
レーナのその言葉にアルムは言葉を小さく飲み、また一つため息を吐く。
「だったら、さあ……」
固形食料を食べ終えた少女はその指に付いた残りカスをペロリと舐めとると。その身に付けている衣服、それを脱ぎ去る。
「な、なんだよお前……?」
その少女ブルームの突然の行為に驚いた声を上げるアルムを無視し、その淡く膨らんだ乳房を蛍光灯の灯りに照らす彼女。
「こんなのはどう?」
薄い色合いをした少女の乳首がその光を反射する光景に対し、反射的にその視線をそらしたアルムを彼女はイタズラっぽく見つめた後、彼女の背から。
バァ……
燐粉を撒きながら「蛾」とも「蝶」ともとれない翅が伸び、そのまま彼女の身体が。
「こ、これは……!?」
驚きの声を上げるアルム、レーナ達の目の前で縮こまり、そのまま一匹の虫と化す。
「ジェム……」
そのアルムの言葉に反応したのかどうか、少女だった虫はそのままアルムの肩にと止まり。
「どうするよ、レーナ」
「あたしが知るもんですか……」
その翅を微動させる。
――――――
ミッダーム二型、新式のその機体が必要だということは、そのジェムが以前の蟻型ジェムと同程度の驚異であるとの証である。
「あの蟻型だけでも、厄介なのにな」
そうミッダームの中で呟くアルムの肩には例の蝶、結局ケイゴと目撃したレーナだけには伝えたが、他のメンバーには伝えていない。
「情が移っちまったかな?」
しかし、仮に報告してしまえば、彼女は研究所送りになるのは目に見えている。彼女もそれを望んでいないような素振りは前にした。
「まあ、いい……」
あまり「良い」で済まされる話ではないのだが、どうもアルムには彼女が害のある生き物には思えない。甘いのかもしれないが。
「おい、アルム」
「なんだ、ケイゴ?」
「レーダーに反応、ジェムの反応だ」
そのケイゴ機ミッダーム二型からの連絡を受け、アルムも自機のレーダー範囲を大きく拡げる。
「ああ、アルム……」
「なんだ、ケイゴ」
「あの事、言うなよ」
「解っているって……」
もちろんあの事とは、少女ブルームの事である。機体の記録媒体に音声などが記録される事を案じての事を言っているのだ。
「潰されても、しらねぇからな……」
その言葉に「蝶」は僅かに微動した様子ではある、が。
「来たわよ、皆!!」
レーナのその言葉に各員が反応し、ややに後方にいたアルムもまた、その言葉に反応した為に。
スゥ……
その、震える翅が撒き散らした紅い燐光には誰も気がつかない。
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