第41話 side美香、裸の付き合い 




 初めて、私達だけでの旅行。


 喜び、興奮、好奇心、期待、不安。


 今の私の感情表現は沢山に出てくる。


 初めて両親から離れることには寂しさや不安もあるのだけど、それを上回る程に胸がときめき、期待も膨れる。前日の夜は興奮して寝つけなかった程。


 今日、出発した車窓から流れ観る、初めての景色に、私の好奇心は絶えない。

 友達だけで遠くへ遊びに行くだけでも初めての経験。そこに直弥くんが一緒ともなると、私の高揚感は増すばかり。


 凄く嬉しくて、楽しい。


 直弥くんの隣の席はジャンケンで負けて取れなかったのが残念ではあるのだけど、帰りは隣席をキープしている。当然、智樹くんは渋ってはいたけど。


 道中には、トラブルもあった。


 直弥くんを誘惑する大人な女性達。その瞬間を目にした私は駆け出していた。

 誰の意見を聞く余裕も無く、直弥くんの腕を取り女の人達から遠ざけた。


 直弥くんと腕を組む。緊急時では遭ったのだけど、少し前の私では考えられない程の積極的だ。

 これも沙織のお陰。何時も私を支え応援してくれる、大切な親友。


 私は良くも悪くも、直弥くん、沙織、それに智樹くん。

 この3人との空間が私の生活基準であり、自分の生活ペースだと言い切っても良い。


 だから、この3人との行動が主になる。なので、両親以外の他人との接し方が何処となく事務的だ。


 でも、それでも良かった。


 沙織がいてくれて、邪魔ばかりしてくる智樹くんがいる。何より私の大好きな直弥くんが隣にいてくれるなら。


 そんな4人でのバランスが今までの関係を維持して来たのかも知れない。

 直弥くんとの恋の発展がしにくいけど、それでも居心地の良さを実感する。こんな関係が何時までも続けば良いと、甘えた感情の私がいるのも確かだ。


 だけど、この関係が続くのも、――残り、1年。


 そんな折に、この旅行の計画。


 最初はやはり不安や緊張もしたけど、今は心から楽しい。まだ始まったばかりだけど、もっと、もっと楽しみたい。




 そんな気持ちでいる私は今、友達と一緒に、お風呂パーティー。



 パパが、この別荘で特にお気に入りと自慢していたお風呂。そこに、みんなで一緒に入っている。ドアを開け、お風呂を見た瞬間に全員が気に入ってくれたので、私も凄く嬉しい。


 少し寒いかと思ったのだけど、今は全部の窓を開けて半露天風呂の状態でワイワイとみんなで楽しく寛いでいる。


「うぉぉおおおおおお、やばっ! わちきは感無量ですぞい! 沙織様と一緒に裸の付き合いとはっ! これ如何にッ!」


「アイも、かんみゅりょうですぞぉ」


 特に、村雨さんとあいちゃんは、テンションが凄い。


「はい、はい。いやらしい言い方しないの」


 見慣れてきた、この3人とのやり取り。そんな様子を見ているだけでも楽しい。


「もう。村雨さま! 湯船でぶくぶくするのはやめてくださらない? アイさまもマネしないで下さいまし。はしたないですわよ」


「さなえっち、そう言いながら、沙織様のムネ見すぎ」


「やらしぃー」


「――なッ!?」


 確かに脱衣所では、全員が視線が沙織の胸に釘付けになり、湯船に浸かってもチラチラと伊集院さんが見ていたのも知ってる。だけど、その気持ちもわかるかも。

 だって、沙織の胸って大きすぎじゃないかな?

 直弥くんがチラチラと見てしまう罪深き胸だよね。


 それに比べて私は……。


「私なんて大きいだけだよ。美香の胸の形が理想かな。肌も奇麗だし、羨ましいよ」


「えっ……」


 もぅもぅッ! 沙織はなんてこと言うのよっ! 恥ずかしいからッ!

 突然そんなこと言われた私は、恥ずかしさの余り湯船に顔まで浸けて照れてしまった。


「確かに沙織様のスタイルは高校生離れしておりますが、美香様の肌にスタイルも羨ましい限りですわ。あいさまと村雨さまは……、もう少し牛乳でも飲んだ方がいいですわよ? おほほほほっ」


 伊集院さんまでそんな事言わなくても……。は、はずかしいぃ。


「ムキー! さなえっちも、わちきと変わらんでは無いかッ!」


「ぶーぶー」


「わたくしのが大きいですわ」



 女子だけにしか出来ないトークで盛り上がり、学校生活の事や、誰かの噂話に恋バナまで、そんなやり取りが続く。


 村雨さんは同じクラスで一年も一緒だったからよく知ってるけど、あいちゃんと伊集院さんは最近知り合った。村雨さんは呼び方はどうでもいいらしくて、あいちゃんはあいちゃんと呼ばれると嬉しいとの事。伊集院さんは苗字呼びが好むらしいけど、仲の良い人達からは名前呼びされてる。もう諦めたんだって。


 そんな全員が個性有って、本当に面白い。何より、この友人達は直弥くんには色目を使ってこないので安心できるんだよね。


「ところで、さなえっちは沢村っちと一緒の部屋で泊まるって言ってたけど、もう、”えっち”とかしてる仲なの?」


「――なななっ!?」


「――ぶふッ!?!?」 


「あわあわあわわわっ」


「ふえっ?」って……変な声出ちゃったじゃない。で、ででも仕方ないよ。行き成り”えっち”って……、な、ななななんて質問してるのよっ!?


 村雨さんもあいちゃんもビックリしちゃってるし。

 まぁ確かに気にはなったけど、でも流石に誰も聞か無かったことじゃん……。


「さ、沙織様っ! 流石に、そ、そんな、ふしだらな行為は婚姻するまで許されませんわッ! わたくしと、しょーたん……あ、ごほんっ! 沢村とは確かに婚約者でありますが、わたくしの従者でもあるのですッ! 従者がお部屋でわたくしの世話をするのは当たりまえの事ですわ」


「しょーたんって普段は呼んでるのね……」


「いや、絶対それ、逆に沢村っちの世話をしてる方だわさ」


「ぷぷぷっ」


 沙織、村雨さん……、そこは、突っ込まない方がいいんじゃないかな? あいちゃんも笑うの止めてあげてね。凄く恥ずかしそうだし。因みに沢村くんは名前がかける。でも、しょーたんって呼び方って、何処か可愛いね。


 その後も沙織の追及が続き、伊集院さんが必至で説明している。


 まとめると、伊集院さんの中では、付き合いとは婚約と同意らしく、しかも両親公認の仲。更には沢村くんは伊集院さんのパパのお店でバイトをして、将来、店を継ぐ修業をしいるとの事、その為に泊まり込みもあるらしく、家が狭くて一緒の部屋で寝るなんてことは、良くあるんだって。


 そして結婚するまでは一線は超えない約束で、キ、キスすら、まだらしい……。


 一緒の部屋で寝るとか驚愕もするけど、でも、将来のことを其処まで考えてるなんて、凄いなぁ。



「しかし、その恋愛設定……、高梨先生の作品を意識しすぎだわさ」


 沙織と作品の話をする時は、全員が高梨先生になるのが不思議。


「ぐぐッ……ま、まあ良くては有りませんこと? 春の最新刊も素晴らしい内容でしたし、多少の影響が有ったかもしれませんわ」


「多少、なのかえ……」


「正月に思い付いたプロットだったけど、面白かった?」


「モチのロンで御座います。中でも、あの婚姻前日の夜に目撃してしまった王子と護衛騎士との絡みなどは、まさにッ、萌えッ!! 素晴らしき神作画で御座いました! わちきは感無量となり、眠れぬ夜を過ごした次第です」


「アイも楽しく読みましたぁー」


「当然ですわ。わたくし今でも愛読させて頂いておりますのよ」


「あはは、そう言って貰えると嬉しいよ。みんな、ありがと」


 私も沙織の絵は好きなんだけどなぁ……。話の内容が未だに理解が出来ないのよね。



「わたくしの話で思い出しましたが、美香様、沙織様の恋愛状況の進展は如何でしょうか?」


「「――えっ?」」


 進展かぁ……。有る様で無いような……。でも、なぜ沙織までなんだろ?


「美香はわかるけど、何で私まで?」


 だよね?


「「「――へ?」」」


 何故、3人が驚いてるの??? 

 さっきから話が噛み合ってないよね。


「もしかして……、無自覚でしたか……。沙織様……、こう言っては失礼かもしれませんけど……、岩崎様へのラブラブオーラが凄く漏れている、とだけ。お伝えしておきますわ」


「――べぇ!?」


 えっ! そうだったのっ!?

 私は近くにいるからか、気付かなかったよ……。


「そして、美香様も、そろそろ進展しないと楽しい時期が終わってしまいますわよ?」


「そ、そうなのかな……」


「ええ、ええ、そうですとも。もうすぐ新入生の御入学となり、想定外の事が起こりうるやも、知れませんし、お気持ちを固められる事をお勧め致しますわ」


「さなえっち、変なフラグ立てるな、だわさ」


「おほほほっ、そうですわね。要らぬ、お世話だったのかも知れませんわね」


「アイはそれより、のぼせてきたのです……」


「あらあら。ではでは、わたくしの話はここまでとし、上がりましょうか?」


 上せたアイちゃんを脱衣所まで連れて行き、拭いてあげたりと、やはり世話好きの伊集院さん。


 そんな人の話の内容が、今も心に残る。



 高校生活残り1年、そして新たな出会いの始まり、か……。



 その言葉をが私の心の中で復唱してしまう。


 だから、少し気分を変える為に一人、夜風をあたりに部屋を出た。




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