第40話 裸の付き合い




 沙織の意味不明な事を言われてからすぐに美香が戻ってきて、各自の部屋割相談となった。


 部屋は人数分は有るとの事だが、折角の旅行だし友人達は誰かと一緒の部屋がいいとの提案に、管理者コンシェルジェの野々村さんが急いで部屋の調整をしてくれた。


 前田さんと、宮本さんは一部屋ずつの個室となり、美香と沙織が同室。


 問題は沢村君ペア、伊集院さんと同室が良いと言い出し想像を膨らませた全員が反対した。結局は俺と智樹、沢村くんが同室。そして、伊集院さんは村雨さんとあいちゃんの同室となった。


 俺達の部屋はヨーロピアンクラシックな雰囲気と現代的なデザインが見事に調和した感じの洋室で、ベットが3つ。

 シングルルームでも逆に落ち着かない程に広いと、前田さんがが言ってた。やはり凄い別荘だなと思う。


 それからは食事も終えると、次は風呂となるのだが、流石に男女別々のお風呂までは無いらしくて時間割となった。


 先に女子、一時間後に男子だ。


 女子が1時間では短いとブーイングが出てたけど、もう夜の遅い時間だし、仕方がない。しかし、一時間で短いのかぁ……。先に男子にすればゆっくり出来そうなのだけど、レディーファーストってやつだ。


 部屋にはユニットバスも完備はされてはいるけど、野々村さん曰く、風呂が自慢との事なので折角なので湯船につからせて貰うことにした。宮本さんと前田さんは部屋のバスで済ますそうだけど。しかし、各部屋にバストイレ付って、もうホテルでいいじゃん……。


 そして一時間後、俺、智樹、沢村君とでお風呂へと向かった。


 廊下を進むが、女子達とは出会わないので、既に風呂から出て部屋にでもいるのだろう。漫画や小説のような、キャッキャウフフの風呂イベントは無かったのが少し残念。


 バスルームに到着する、と。


「す、すごい、な……」


「……だな」


 もう何度目なのかわからない感想が口から零れた。


 殆どが檜なのかな?10畳はあるだろう空間に6畳間程のお風呂だ。木の雰囲気や香りが凄く落ち着く。圧巻なのが、大きな窓からは太平洋の絶景を眺められ、窓を開けることも出来るみたいで半露天としても楽しめるとのことだ。


「ここが個人の所有する別荘なんだ……。庶民の僕には場違い感がありすぎて、なんだか怖いよ……」


 当然、智樹と沢村君も俺と同じ様な反応になるよね。


「風呂の大きさなら智樹の家もこれぐらいあるよな」


「う、うむ。大きさだけならな……」


 智樹の家にある社員用の大浴場を思い出した。

 そんなことよりも、女子が先に入浴したはずだが、既に清掃済みなのか使った形跡がない。掃除の時間なんて少ししか無かっただろうに、凄すぎ。


 まぁ驚いてばかりでも仕方無いので俺達は風呂へと入った。

 男性同士とはいえ、やはり少し恥ずかしいのか、全員が下半身をタオルで隠す。


 体も洗い終え3人が湯船に浸かる。


「ぷっはぁっー」


 当然こんな声が出るわ。気持ち良すぎ。


 相変わらず智樹の上半身を見るが、やはり凄い。

 胸筋とかヤバ過ぎだし、腹筋のシックスパックの完成度が凄い。

 沢村君は……うん、もう少し鍛えた方がいいかも。


「夏の水泳や身体測定の時にも思ったけど、二人共に高校生にしては筋肉が凄すぎない? 部活動もしてないのにどうやったらそんなになるの?」


「日々、鍛錬だ」


「筋トレはしてるけど、智樹に比べたら俺なんてまだまだかな」


「ふふん!」


 智樹のドヤ顔って久しぶりに見たな。


「な、なるほど……」


 筋肉とトレーニングの話で盛り上がっていく。

 その後は、恋バナに発展し、沢村君の惚気話しへと変わった。


 伊集院さんの何処が好きなのかって聞くと、あの無理やり演じてるツンデレが可愛いくて仕方がないらしい。好きになるポイントって人それぞれだな。


 しかし、この俺が、こんな話に参加出来る日が来ようとは……。


「ところで、西織さんとはまだ付き合って無いんだよね。どうして付き合わないの?」


 胸がいっぱいになる気持ちに浸っていると、沢村君が俺達4人の中ではタブーとされている話題を、気にする事無くぶっこんで来た。


 まあ、智樹への質問だな。


 何故か誰もそんな話には進まないからタブーなのかと思って、俺からは聞けないかった事案だ。まぁこんな機会も滅多にない事だし、何故なのか教えて欲しいものだ。


「…………」


 少し期待の眼差しで智樹に目線を動かすと、無表情で俺には関係無いって感じで、何も答えない。


 あれ?

 

 しかも、どう見ても沢村君の目線が俺に向いてるのだが。


「……もしかして、俺に言ってるの?」


「もちろん」


「ぶっはははッ、俺なんて美香と釣り合う訳ないじゃん。沢村君、冗談やめてよ」


 ああ、おかしぃー。でも、智樹の前でそんな冗談を言っちゃ、ダメ。


「凄くお似合いだと思うし、冗談じゃないよ?」


 んん? 何か勘違いされてるな。

 俺が美香と同じクラスで一緒に何時もいるからそう思ってるのか? でも、甘いね。常に智樹も一緒にいることに気付いて無いのかな。


「ないない。ぷっ……お似合いって。そんな訳ないじゃん。智樹もそう思うよな?」


「…………」


 ほら、智樹が不貞腐れた顔になってるし、怒っちゃったかな?


「ふぅん。なるほどねぇ。……なら、岩崎君に聞くけど、西織さんと付き合わないの?」


 おっと。ここで核心を突いてきたか。俺のは前振りだった訳ね。おけーおけっー、そんな役回りだと理解してるから大丈夫だよ。


「ない」


 あれ? 即答なんだ。もしかして照れ隠しかな?

 それにしては、顔がこわばったままだし、どうしたんだ?


「それならさ、岩崎君は高梨さんとは、どうなの?」


「……ない」


 少し間があったような……。それに眉がピクって動いたけど。美香も沙織もとは知ってたけど、もしかして沙織の方が一歩リードしてるのか? 


 ほんとっ困った友人だ。この欲張りさんめっ!


「へぇ……、ふぅん。なるほど……。色々と複雑なんだね」


「え? 何が?」


「んー、僕の方からはこれ以上は言えないよ。後は当事者で、って事かな」


「えぇ?」


「…………」


 沙織もそうだったけど、沢村君も訳がわからないや。


 だが、変な話の終わり方をしたせいか、話が盛り上がらなくなってしまった。

 智樹は何か考え込んでる黙ったままだし、沢村君の表情は今までとは変わらないけどあからさまに発言が減った。


 非常に気まずい。もう上がろうかな……。


 そんな時にバスルームの外ドアが開く。誰かが入って来た。


 も、もしかして女子?


 まあ、そんな訳も無くバスルームのドアから、堂々と立派な物をぶら下げ入って来る、漢二人。


「おお! 風呂すごっ! ――ああ、ごめんねぇ。寛いでる処悪いけど、ご一緒させてもらうね」


「兄貴ッ! お邪魔しまッス!! それに、朝比奈とあと……そこの後輩ッ! 邪魔をするッ!」


 相変わらず声が大きい。それに後輩って、沢村君だから……。宮本さん、名前覚えてあげて。


「あれ、部屋のバスで済ますんじゃなかったのですか?」


「そうするつもりだったけど、こんな機会も人生でもうないかもだしね、折角だから」


「そんな事より、朝比奈ッ!! よき肉体だなッ! 来年は俺の大学で一緒に世界でも目指そうぞッ! がっははははッ」


「世界って……」


 それより、仁王立ちで言わないで……。少し前を隠してください。


「き、筋肉まみれ……、僕も少し鍛えようかな……」


 3人だと広く感じた風呂場も5人になると流石に狭くは感じる。それでも十分に広いけど。


「兄貴ッ! 御背中流しましょうかッ!?」


「いや、いらん」


「うっすッ! 失礼しやしたッ!」


 宮本さんの智樹へのリスペクトは今更なんだけど、俺達より先輩なのに、どうしてこうなったんだろ……。

 

 全員で雑談しながらゆっくりもしてはいたが、時間も時間なので俺達3人は先にお風呂から上がる事にして、バスルームを後にした。


「因みに、朝比奈君。そのシルクのバスローブをよく着れるよね? いや、似合うからいいんだけどもッ! いや寧ろ、色気有り過ぎ……」


 ん? 色気って……。でもこれ、似合ってるのかな?

 俺達の為に部屋に用意されてたローブだけど、凄く着心地がイイ。


「自分のスウェットでいいかと思ったんだけど、折角に用意して貰ってるやつだし。でも初めて着たけど、これ、アリだよね。沢村君も着たら良かったのに」


「絶対、無理」


 一時は気まずい空気にはなったけど、前田さんと宮本さんの乱入で通常になり、俺達は部屋へと戻る。


 寝る前に筋トレをしたかったけど、お風呂から上がったばかりだったし、流石にやめた。代わりに俺は一人汗をかかない程度の散歩へと行くことにした。


 智樹も付き合うとは言ってたけど、それなら朝のランニングに一緒にってことで、今は一人で部屋を出る。

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