第39話 到着
先の休憩では少しトラブルもあったが、全員揃ったところで出発した。
そして今、車内では沙織と美香に説教されている途中ではある。
俺じゃなくて、智樹が。
何故寝てるのか、何故起きないのか、はたまた寝るなら席を代われとか。
俺って確かにコミュニケーション能力は人より欠けているとは実感しているが、流石に過保護過ぎでは無いのかと……もしかして俺ってまだ子供扱いされてる?
まぁ実際には一人で出歩いただけで美香に迷惑かけちゃうとか、まじで終わってるが。
智樹も珍しくシュンとしてしまって、素直に美香と沙織の説教を受けている。
場所は譲らないらしいけど。どんだけ前席の窓際がお気に入りなんだ。
その最中も車は進む。
更に、進む、進む。
高速道路が終わりぐねぐねした下道を進む。
海が見え始め、車内に賑わいが戻る。辺りは暗くなり景色は観えないが、それでも海ってだけで俺もテンションが上がる。
賑わいが戻ると空腹感が出始め、夕食はどうするのかと思うが、遅くはなるけど美香の別荘で用意しているとの事だ。
実際もう少し早く出発すればよかったのだけど、沙織が仕事の都合で昼出発になってしまった。まぁそれは仕方無い事ではある。
それから間もなくして美香の別荘が有る地へと到着した。
既に辺りは暗い。別荘地なのか疎らに電気が付いてはいるけど、それでも俺達の住んでる場所に比べて断然に暗い。
分譲住宅のように並んでた別荘地から少し離れた高台へと車は進む。
車が減速し、停車する。
長かったドライブも終わり、目的の場所へと到着したからだ。
バスのドアが開き、外に出た俺は地に足を付ける。
潮風の匂い 漂う春の夜風は、闇の色合いや風の感触が柔らかく、少しも寒く感じない。
周りを見渡すと少し距離は有りそうだけど、歩いてでも行けそうな海辺。
顔を上げ確認できる別荘のベランダからは見晴らしも良さそうだ。屋上があるならば地平線までも見渡せる程に眺望ではないだろうか。
更に圧巻なのが、見上げた夜空には、一面に星々がきらめく。
此処までの道中は道路にある無人販売に皆が驚き、街灯の少なさに驚き、何より道中の道路に野生の鹿がいた事に全員が興奮した。
コンビニは歩いては行けないらしい。週末以外は閉まっている店舗も多いとのこと。
そんな場所へと、俺達だけで来たのだ。
――感無量。
「すげー!、すげー!、俺達だけでこんなに遠くまできちゃったよな。まじでやっべーよ」
はしゃいでしまうのは仕方がない。
「うん、まぁそれはそうなんだけど……直弥はさ、この別荘を観てもそっちの方が凄いんだね」
と、沙織が少し呆れ気味。
「確かに凄い豪邸だよな」
実際に全員がバスから降り終わった後は皆一応に顔を上げ口をポカーンと開け、その別荘の大きさや豪華さに驚いている様子。
「美香の家を見慣れて麻痺してたけど、流石に別荘でこれだけ豪華はやばいでしょ。しかも何故に電気が既に点いてホテルマンみたいな人が数名も入り口に控えてるのよ。今更だけど美香がセレブのお嬢さんだと実感するわぁ」
「えへへへっ、パパとママの努力の結果だから。褒めてくれてるなら、ありがと」
「ひめ……パネェ」
「ぱねぇ、ですぅ」
沙織の感想に美香が素直に感謝を込めると、村雨さんとあいちゃんが感想を口から零した。でも姫って言ったら美香が嫌がるから止めてあげてね。
「俺の住んでるアパートの六畳部屋が、そこのゴミ置き場より狭いって……」
「……俺も大学の寮見てきたっすけど、それよりデカいっすわ」
前田さんも宮本さんも驚いている。
「こ、こんな所にモブである僕がお邪魔してもいいのかな……」
おいおい沢村君よ。モブは俺だから。
「あ、あたくしに相応しいぐらいの、お、おお屋敷ですわ」
伊集院さんは、めちゃくちゃ強がっているけど沢村君の腕にしがみ付いてビクビクしてるけど、怖がってない?
「あははっ、みんな大袈裟だよぉ。とりあえずお腹も空いてるだろうし、中に入ろっか」
美香がそう言って、先頭に立っているビシっとしたスーツの男性ホテルマンのところへと進み、軽い挨拶を交わす。その後に俺達へ向けて手招きをする。みんなが恐縮しながら各自の荷物を持ち入口へ進んだところで、他のホテルマンの皆さんが頭を下げて出迎えてくれている。
「この度、西織様より此方の邸の管理を引き受けさせて頂いております野々村と申します。此度の御宿泊は私がコンシェルジェとして案内させて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します」
学生である俺達にも洗練された奇麗なお辞儀と共にスラスラとした敬語で挨拶をしてくれて、控えている人達へとテキパキとした指示を出す。
出来る大人って感じでかっこいいな。
後で聞いた話だけど、野々村さんはこの一帯の別荘や何軒ものホテルを管理しているらしい。美香のおじさんの配慮で俺達の為だけに、野々村さんや他の従業員、更には料理人の派遣まで手配してくれたんだって。
お金持ちって、すっげぇなぁー。
改めて美香のおじさんの凄さを実感して、俺達は別荘の中へと入った。
一度部屋でゆっくりもしたいところではあるが、時間も時間なのですぐにダイニングルームへと案内して貰う。
そこに足を踏み入れると、正に異次元。
高価そうな名画や調度品が設えられた重厚華麗な空間で、どこぞの富豪かってぐらいの豪華な作りになっている。
「わちき……着替えてきた方がいいかえ? ドレスなんぞもってないぞい」
「あわわわぁ……」
「私なんて、ジャージなんだけど……」
「ぼ、僕、外で食べてもいいかな?」
「お、ほほほ、ほほ……」
「「「「…………」」」」
当然こんな反応になるよね。俺も沢村君以外の男性陣と同じで言葉が出ない。
そんなやり取りをしながらに、大きなテーブルが重なり10人全員分の椅子が並べられている席へと着くと、次々に料理が運ばれてきた。
瞬く間に大皿に乗った色々な料理がテーブルいっぱいに並べられる。
一人一人のコース料理では無く、寛げるようにと配慮してくれたとの事だ。
その後は俺達以外は退室してくれて、緊張の糸が解ける。
美香の進めで食事が始まると、空腹から来るのか普段通りにワイワイと賑やかになった。
今回は珍しく智樹は俺の横では無く、宮本さんと前田さんと一緒に一番隅の席に陣取っている。何故か俺は美香と沙織に挟まれる感じだ。
全員が美味しそうに食事を勧めていくと、美香が部屋の確認にと席を外した。
美香がいなくなった事で3人での話題も途切れ、俺は周りを見渡す。
宮本さんと前田さん、それに智樹は豪快に皿に盛った品をこの世の最後かってぐらいに豪快に食べている。
あいちゃんと村雨さんは仲良さそうにスマホで撮り合いながら食事をしている。
沢村君ペアは、小さな子供である沢村君を世話をする母親の伊集院さん、といった感じだ。もちろん二人共に幸せそうな表情で食事中。
みんなが楽しそうにしているのを見ると、俺も楽しくなって頬も緩む。
少しにやけた表情の俺が、食事を再開しようとフォークを手にしたところで――。
「今日、直弥が逆ナンされたことでだけど」
と、沙織が今日の出来事を振り返って来た。
逆ナン? それって都市伝説だろ。
「あれって逆ナンとかじゃないだろ。店とかホストとか言ってたし、何かの店の勧誘とかかじゃないか? 俺みたいなモテないブサメンなんて直ぐに引っかかると思われたかもな。マジで美香が来てくれなかったらヤバかったわ……」
俺みたいなのに声掛けるってそういう事でしょ。
「はぁ……、直弥はさ、そろそろ自分自身を見つめ直さないと駄目だと思うよ」
「見つめ直すってなんなのさ」
何時も見つめ直してるし。主に筋肉の付き具合を。
「美香が可哀そうだよ」
美香が可哀そうって、何の事だ?
「それってどういう意味?」
「直弥の思い込みで、美香の気持ちまで勝手に決めつけないでってこと」
「……は?」
「何時までも4人で一緒とはいかないんだよ? 来年のこの時期には私も智樹もいないんだよ? そろそろ自分を受け入れて素直になりなよ」
素直に受け入れるって何をだよ。話の一貫性が無くてマジで意味がわからん。
「はあ? 何言ってんだよ。意味わかんないし」
「まぁ、後は自分で考えて」
一方的なトークをした沙織は、目線をテーブルへと変え、これ以上は何も言わないとばかりに手に持ったフォークで口に運んでいた。
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