第38話 高速道路
全員が合流してからの俺達のバスは随分と前に高速道路へと移動した。途中の車窓からはに富士山が見えると大はしゃぎする一同。道中、休憩で立ち寄ったパーキングエリアでは名物を食べたりしワイワイと楽しく時間を過ごしていた。
そして更に東名高速道路を西へ西へと、進む。
俺はバスの一番前の席。
そして今、俺の横には気持ちよさげな顔で寝ている人がいる。
「ぐえぇえええ!ぐえぇえええ! ふっがっ!」
智樹だ。美香ではなかったのが少し残念。
席はじゃんけんで決まったらしい。
場所選びのじゃんけんなんて俺はしてないのだが……。俺だけ仲間外れだったら悲しいな。
しかしイビキが凄いわ。だが、まぁこれも漢らしい。
俺の後ろの席には、薄めのセーターに膝上スカートの美香と某有名メーカーのジャージ姿の沙織が同席だ。なぜジャージかと問うと、車の移動は大変だからとの事。
確かに時間も立てば実感する。沙織が羨ましい……。
そして村雨さんとあいちゃんがさらにその後ろで同席に。
運転手の前田さんの横の助手席には”てるちゃん”こと宮本
何でも4年後の大学卒業後には智樹のところで就職が決まってるのだとか。ちょっと就職決まるの早すぎない?
そんな宮本先輩は免許は持ってないので運転は出来ないのだけど前田さんの助っ人に来てくれたらしい。因みにパーキングエリアからフロントガラス越しに2人を見たけど、やくざ映画とかでよく出てくる送迎車みたいだった。
問題は一番後ろの席。沢村君ペア。
彼女の名前は伊集院早苗さん。同級生で俺と沢村君とは違うクラス。美術部にお邪魔した時に一度見た事あるインパクト大な人だ。
大和撫子って顔で金髪縦巻きロール。
ぶっちゃけカツラかと思ってしまうぐらいに違和感が凄い。
まぁここまでなら容姿の問題なので気にはしないのだけど、世話焼きのツンデレってどうなのって感じなのよね。しかも二人がラブラブなのが凄くわかる。
思い出したので、少し後ろを覗いて見る。
通路側なので一番後ろも良く見える。俺の目に入ってくるのは伊集院さんの肩に頭を預け、寝ている沢村君。
女の子の肩に頭預けるとか……相変わらず凄いな。
しかも伊集院さんも嫌がるどころか、目は沢村君の顔にくぎ付けで、その片手は常に沢村君の頭をなでなで状態。
最初は伊集院さんと沢村君が付き合ってる事に冷かしなどが飛び交ったけど、もう誰もが好きにして状態で放置されている。
それ程に俺達には刺激が強いからだ。
堂々と手を繋いだりは当然に、自然な感じでいちゃついている。
伊集院さんのツンな言葉使いが仲の良さとのギャップに違和感を呼ぶが、まぁそれでも羨ましい。
俺もしてみたい、と思うのは思春期の俺としては仕方のないことだろう。
そんなこんなで、全員で10名。
結構な人数の旅行になってしまった。
昨年までの俺なら緊張でどうしよう無くなってたし、ぶっちゃけ今の状態は無理だったと思う。
これも全てみんなのおかげだ。
何時もの3人は言うまでもない。
仲良くなった沢村君は聞き上手で俺の噛みまくり会話下手の話にもゆっくり答えてくれるし合わせてくれるので話やすい。そのおかげで沢村君は勿論の事に他の人達とも少しは普通に話せれるようになったと思う。
村雨さんは俺達をリスペクトしてる感は凄いけど嫌味が無い、あいちゃんは色目無しに俺達に接してくれるし、そんな二人のコンビは見ていて本当に面白い。
伊集院さんと宮本さんはまだ話も少ないので何とも言えないけど、モブの俺に対しても普通に接してくれてる感じがするので好感は持てている。
目線を前方へと戻し、自分の腕の時計を見ると時刻は夕方の4時過ぎ。
車で移動してから約4時間が経過したので、はしゃぎ疲れたのか、車の移動に飽きたのか車内は比較的に静かな状態だ。
「名古屋に入ったので一度休憩しましょうか」
運転席から声が掛かかる。
智樹は寝ているので、後ろを向き確認すると聞いていた人達が賛成してそうなので、一番前の自分が前田さんに「はい。お願いします」と答えた。
車が側道へと移動し、減速を始めると少し大きなサービスエリアに到着した。
女性陣の全員が急ぐようにトイレへと向かった。
前田さんと宮本さんもトイレへと行き、俺は少しゴミの片付けをしていたせいで完全に出遅れた感じとなり車から降りた。智樹はまだ寝ているので一人になってしまったけど。
まだ辺りは明るく周りの様子を伺いながら、ポケットに手を入れながらに、歩を進める。シーズンの為か春休みと絡んでいるのかわからないけど、大きなサービスエリアはどこも人でいっぱいだ。
名物っぽい屋台には人が並び、喫煙場所では白い煙がモクモクとしている。バイクでツーリングの人や仕事の恰好をした人。様々な人達がこの場所に集まっている。
俺は余りこういった場所には来ていないので寄るところ全てが何もかも新鮮だ。
凄く、楽しい。
あ、そういえばこの短い時間だけど人混みを一人で歩くなんて初めてかも。
ふふふっと自分の頬が緩み、笑ってしまう。その直後に「ねぇねぇ」との言葉と同時に後ろから肩を叩かれた。
俺が振り向くと、その人達は驚いた表情をしている。
なぜ呼び止められたのか……。何か進む途中で失礼な事でもしてしまったのかと、不安が過る。
その人達は4人、全員が20歳前半ぐらいの色合いが派手な服装で、化粧が濃くテレビや映画とかでみた夜の仕事をしていそうな大人な女性だ。
その人達が何も言わずに俺を見て固まってる状態。
俺もどうして良いのかわからず目が泳ぎ、完全にテンパってしまった。
何時もなら誰かが助けてくれる。
だけど独りではどう受け答えしていいのかわからない。
そしてすぐに女性の一人が目をぱちぱちさせながら俺の方にズイっと顔を寄せて来た。
「やっばっ、めっちゃ見惚れてもたわぁー。なぁーなぁ、お兄さんかっこいいなー。――芸能人なん?、それともどっかの店の人?」
俺が、かっこいい?
「げ、げいのう、じん……めめめっそうも、ない……」
「眼、綺麗やなぁー! カラコンなん? めっちゃ似合ってるやん!」
馴れ馴れしくしてくる女性とは別の女性が、更に顔を近付けて俺の眼を見てくる。
「あ、ぃぇ……」
一歩後退るが、直ぐに詰め寄られる。
その遠慮の無さが怖い。
「ヘアーカラーも綺麗やね。何処かのホストなん? ――名古屋なら
「ぇっ、ぃ、ぇ……」
「わたしらミナミは地元やし、よく行くんやけど、お兄さんの店なら遠くても通うわ。ねぇねぇどこで働いてんのん?」
更に残りの二人も詰め寄ってきて、この人達の思い込みで話が進み、否定する暇すら無い程のテンポで俺に問いかける。
その後も一方的に質問をされ、あたふたと曖昧な返答で返していると、腕を組まれたり、筋肉が凄いとか言われて体のあちこちを触られ、一方的なその勢いに飲まれた俺は呆気に取られ逃げだすこともしないで立ち竦んでしまった。
どうしようも無く困り果てた、等々無言になり俺は地面を見つめるしかなかった。
「なぁー、どうしたん? 無視とかちゃうよね?」
少し怒気が籠った声を出す女性にビックっとし、顔を上げる。そんな俺の目に入ってきたのは走って駆け寄ってくる美香だった。
「申し訳ありませんが、この人は私の彼氏なので。――それでは、これで失礼します」
そう言って綺麗なお辞儀をしてから、俺と腕を組み、美香にひっぱられる形でその場から離れる。別れ際に横目で女性達を見ると、ポカーンとしてたり、気不味そうな表情で俺達を見ていた。
そして女性達に声が届かない所まで行く。
「直弥くん。どうして一人でいるのかな? それに眼鏡とか着けて無いし」
「え……、だって智樹は寝てるし、皆は先に行っちゃったしで。それにそこのトイレに行くだけだし、眼鏡なんてしないよ?」
「ダメです。私がいないときは眼鏡しましょう。それと……流石にお花摘みを直弥くんとはいけないよ……」
何故そこまで眼鏡が要るのか不明だが、少し恥ずかしそうにモジモジする美香もかわいい。
そんな緩いお説教を受けながら進んでいると、トイレ行ってた人達全員と合流した。
智樹はその間も爆睡中。
だけど、さ…………、彼氏?
咄嗟に俺を助ける為とはいえ、嘘でも嬉しい響きだな。
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