第36話 県外遠征計画
謎テンションの村雨さんとあいちゃんは置いといて、話に戻る。
「……ま、まぁ、話が止まってしまったが、遠征って隣の県ぐらい?」
「ああ。電車で1時間以内、夕方には帰宅出来る、それでいい」
「私は直弥くんと一緒ならどこでもいいよ」
美香って前のギャル騒動からあからさまに俺を名指しして智樹に腹いせしてくるよな……。そんなに智樹の浮気に腹立ってるのか。その嫉妬がちょっとうらやましい。
「いやいや……待とうか。君達は何故日帰りの、それも夕方までには帰ってくる計画を立ててるのかな? 小学生かな?」
「え? 未成年だけで外泊とか不良じゃないか」
「だな」「だね」
おいおいおい、沙織さん。そんなにアウトロー気取りたい年頃なのか?
もう高校二年生なのに恥ずかしいぞ。
智樹と美香を見ても俺と同じ意見なのか、当然とばかりにうなずいている。
「「……………」」
沙織と沢村君の表情が引き攣っている……。
俺が何か変な事言ったか?
「ああああああっ、キュ――「みーちゃん、もういいから」……あ、はい」
沙織の一言に村雨さんがシュンってしちゃったじゃん。めっちゃしょげてるじゃん……。あいちゃん頑張って励ましてあげてね。
「そもそも全員門限ないよね? 親たちは別段そこまで厳しくないのに何故そんなに真面目なの? 外泊どころか夜遊びすらしない。大人いないと遠くもいかない。集まっては勉強中心って……小学生でも、もう少し楽しんでるよ?」
「ぷっ、あははっ冗談でも大袈裟だし。小学生でもって流石に盛りすぎ。そんなのテレビの中だけの話で、現実の学生なんて俺達と似た感じでしょ。しかも俺達は真面目って訳では無いし、まぁ普通だよな?」
沙織の冗談を真に受けずに、美香と智樹に確認する。
「普通だな」
「普通の高校生だよね」
ほら、やっぱり普通じゃないか。
「……だめだな、これは。 私はずっとは一緒にいないから今まで深くは追及しなかったけど、流石にここまで酷いとは……」
「僕がこの場にいる時点でもおこがましいけど、ある意味凄いカースト上位人達だね。でも、このまま汚れない大人になって欲しいとは思ってもしまうけど」
沢村君と沙織が何やら不思議トークをしている。
「これは今まで直弥達だけの世界を独創させてきた付けが回ってきたかも。荒治療しないともうこれ以上は手遅れになるよね。―――よし、決めた! 泊で行く事にする! これ決定事項だから」
沙織が空を見上げ拳を握りしめ、決意を固めたみたいだ。
失礼な、何が手遅れなんだ。しかも、たかが外泊だけで、大袈裟だし。
「あははっ、泊は別にいいよ。俺の父さん来てくれるかな?」
「あっ、だったら私のパパに聞いてみるよ」
「うむ。任せた」
泊かぁ、久しぶりだな。
みんなの家族総出で行った中学の時のキャンプが懐かしい。
おっ、かなりワクワクしてきたぞ。
「何言ってるのよ。親の同伴無しで行くに決まってるでしょ」
「「「――――え”ッ」」」
はい?
「お、おいおいおいおい、さささおりさんよぉ……。いくら何でも不良に憧れすぎだから……。未成年だけで外泊とか校則違反だし。ってか国か県の条例でその時点で既にダメだろ」
沙織は、どんだけ不良になりたいんだ……。
「ま、待って……一応、校則を確認してみる」
そう言いながら美香は生徒手帳を取り出しペラペラとめくりだした。
「なら俺は、条例を確認する」
次いで智樹が高速で指を動かしスマホをいじっている。
「ど、どんだけ……」
「ある程度は理解してたけど、此処までなんだ……」
沙織と沢村君が俺達の様子を見て何故か驚いている。よくわからん。
その横ではおとなしく正座待機している村雨さんとあいちゃん。どうも沙織に先程怒られてしょげて無口で見守っている。だが、何故あいちゃんまで……。
「あ、あった。一応は親の許可の下に学校に申請を出してから、許可された場合は可能らしいよ」
「条例も保護者の同意の下にって感じだな」
「まじか……。一応は許可出たらだけど、大丈夫なのか……。で、どうする? 行ってみる?」
「凄い罪悪感があるよね……。大丈夫なのかな」
「お、おれは、大丈夫、だぞ」
三人で顔を見合せ相談する。
「……そんな大層な」
「沢村っち、みなまで言わないで……」
沢村君と沙織がボソッ呟いたところで、今まで黙っていた村雨さんの息使いが、ふんすふんす、と声なき声が聞こえてくる。
「もぅむぅりぃ! はうっはうっはううううううううっ」
「ああああああああっ、しぇんぱぁーーーぃっ!!!」
急に地面に伏せて悶えまくっているけど……本当に村雨さん大丈夫なのか?
そんな二人を見ていると、沙織がパンっと手を叩き注目をとる。
「さて、これ以上は時間の無駄だし話を戻すけど、まずは何処に行くかだね」
「何処に行くかって……まだ許可が下りて無いし、親にも言ってないのに」
「だから計画立てて報告して、許可を貰うんでしょ」
「な、なるほど」
確かにその通りだな。
「東京とか、どう?」
沢村君が俺達の為に考えてくれた。
良い人だよな。
失礼かもだけど……、と、友達って思ってもいいのかな……。
「いや、近いし人混みあり過ぎで直弥達にはまだ早いかな」
早いってなんなのさ。確かに人混みは苦手だけども。
「と、東京で近いって……、しかもあそこに田舎者が行ったら絡まれるって話じゃん。そんなとこ怖いし」
テレビとかドラマでよく見てるから知ってる。
「なにその偏見、どこ情報よ……」
「大丈夫だ。俺が守る」
「私も守る!」
「いや、行かないから。東京は却下」
「なら、どこがいいんだ……?」
「うーん。そうだねぇ……」
それからみんなで話合ってたところで、平常心に戻った村雨さんが気不味そうに手を挙げ発言の許可を沙織に要求し、許可された。
「桜と言えば、有名なのがソメイヨシノですなぁ。春になると動画投稿でよくでてますねぇ。――けッ、春の桜を出しときゃ再生数稼げると思いやがって……」
「その通りですねっ! けぇっ」
盛り上がる二人を横目に、美香が何やら考え込んでいる。
「ソメイ、染井吉野か。吉野って言えば奈良県の吉野山が有名だよね。それなら隣の和歌山にパパの……」
ブツブツと顎に手をあて独り言を口ずさんでいる。そんな様子も絵になるなぁ。
「美香、どうしたの?」
沙織が声を掛ける。
「んっ、えっとね。吉野山がある奈良県の隣の和歌山にならパパの別荘があるんだけど、海沿いだから少し遠くなっちゃうかなって思ってたの」
「ふへぇ。流石は美香パパ、和歌山にまで別荘あるんだ、凄いねぇ」
「凄いのかな? 私は実感しないし小さい頃に行った記憶しかないから。だけど、去年にパパとママが行ってたから思い出したの」
「そこは私達でも泊まれるの?」
「勝手には無理だけど、パパにお願いしたら大丈夫だよ。部屋も10部屋ぐらいはあったと思うし、人数的にも問題ないよ」
「おおっ! いいね。それなら一層の事に和歌山と奈良に行くって事で二泊しない? 二泊三日の旅。――良い!凄くイイじゃん!」
もう行く気満々じゃん。
「盛り上がってるところ悪いけどさ、全員の親と先生の許可貰ってからだからな」
「もちろん、わかってるって」
ホントかよ。そんなに簡単に学校の許可とか下りないだろ。
と、考えていたところで――。
「あ、だったら、僕も行きたい」
沢村君の一言が場に静けさをもたらした。
だって、身内を省くと俺達4人以外で遊んだ事も無い。
沢村君は一応は友達だと俺は思ってるけど、最近にやっと仲良くなった感じなのに、急にそんな事言われたら戸惑ってしまう。
俺はもちろん、美香に智樹も沙織も目を開き驚いている。
別なのは村雨さん……。もう殺気が見えるなら全身からあふれ出てる感じ。
「だーかーらッ!!! おまっ! 空気読めとッ!! あれほど――」
「んー。別に良いんじゃない? 沢村っちも一緒に行こうよ」
「「「「「―――え?」」」」」
沙織のその一言に沢村君を除く全員が驚愕させられた。
「ですよねぇ。沢村っちも一緒でいいですよねぇ。なら、わちきも行っていいかなって。ナハハっ、なんちって」
「てへぺろっ」
そして村雨さんのこの切り替えし、もう特技じゃないのかって思えてくる。
それに速反応するあいちゃんもだけど、てへぺろって……。
「あ、それと僕の彼女も一緒に行っていいかな?」
「「「「「「――――――べえ”ッッッ!?」」」」」」
今日一番に全員が驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます