第33話 side萌えたみーちゃん


本日は晴天なり。


”わちき”こと村雨美奈は大変ご機嫌麗しき。よきかな、よきかな。


今は朝の授業も二限目、学校が終わるのが待ち遠しい。

何故なら今日は待ちに待った、あの日。


今日はなんと『王子に捧げる恋の行方』の新刊発売日であーる!

わちきは語るまでも無く、大大大大大だああああああああいっファンなのだっ!

もちろん、即日ゲット以外の選択肢は有り得ない。

すでに聖書バイブル6冊予約済みじゃ。 


ぶふぉふぉふぉ。


本来は学校など無視し家でゆっくり楽しみたかったのではあるが、モデルとなる朝比奈王子達を眼中に収め、脳内フィルター蓄積からの妄想へとダイブすると、これまたヤバイ。テンション爆上がり!


げふぇふぇふぇふぇ。


しかも何を隠そうわちきの隣の席が……ぶふっ……王子なのだわ!

その前の前の席がにしおりみかだし、こりゃ堪らんっ!


ってか、間に挟まってる沢村よ、邪魔っ! 

席替えの時に空気読んでくじ引けよ。

神聖不可侵なりっ! 禁断の領域侵犯じゃ、くそがっ!

死にたいのか? けッ!


まぁいい。今日のわちきはすこぶる機嫌が良いので許す。だが、次は無いと思え。


しかし、今日も王子は相変わらずのイケメンですのぉ。

後角窓際席って言えば、長い前髪と眼鏡で顔が見えなくして、目立ちたくないが実際はイケメンってのがテンプレであろうに。しかし王子ともなるとそんな次元超えちゃってるのだよ。


確かにロンゲに眼鏡までは理解可能。プラチナブロンドとかリアルでいると普通に引くが、これが天然とかもうヤバいわ。めっちゃ似合ってるのが二次元越え。

目も眼鏡で隠してるつもりなのかわからないけど、青い眼球が隠れてないからっ!

イケメンオーラが漏れ過ぎですぞ。そりゃ見つめられたら誰でもテンパるしっ!


どこの最強呪術師なのさ!

いっそうの事、目隠ししちゃえば更に萌えるのに。


しかもクールに見えるが、実際はコミュ障なのが超萌えポイント。

ああ、その事実知ってるのは一部の人達だけだから内緒。

ばらしたらコロス。物理はバレるから精神をコロス。


そんな萌え王子を今日もウォッチ、ウォッチ。

眼球を極限までに横目に出来る訓練してマジよかった。バレずに無料見放題。


眼福ですなぁ。

二次元ドリームフィーバーを口ずさみたくなるぐらいハイになりますわ。


「お、おい……村雨。……また白目なってるけど、大丈夫か?」


おっといかん。また先生に見られて白目向いてると勘違いされた。

横目過ぎて白目に見えるのは御愛嬌って事で。


「ういっ。問題ないっす」


「そ、そうか……調子悪いなら保健室いけよな?」


前髪で隠してるのに何故気付くかなぁ……。

見過ぎじゃね? 

女子高生観察は二次元だけにしとけよ。捕まるぞ。


「へい。しかしながら此度は寝ているんでも死んでいるんでもなく、頭の中は常に活動して、廓然無聖かくねんむしょうなどと乙な理窟を考え込んでいたもので」


「ふむ、夏目漱石か。だが今は英語の授業だから、程々にな?」


「う、ういっす」


おま、英語の教師が何故に高度な言い訳を理解してんだよっ。キモいわ。


『ぷっ』「ぷぷっ」


ん? 他の奴等の笑い声に交じって、わちきの隣からエンジェルボイスが聞こえた様な……。


「あ……わ、笑って、ご、ごめん」


「あっ……ぃぇぃぇ」


笑顔からのおおおおおおお、照れですか。萌えええええええええ!


わちきも照れてしまったがまぁ良い。御馳走様でした。

しっかりとバイブルを刮目する時に生かさせて頂きます。


だが、だがだが――。


うひょおおおおおおおおおおっ!

王子に笑って貰えたぞい。うぇぇえい!


だが、他の奴らは笑うな。コロスぞ。でも姫は別ね。


萌えゲージ蓄積値を順調に補充出来ているのに満足しながら再度チラ見すると、王子はノートと睨めっこしてメモを取ってる模様。


真剣に勉強している王子も最高ですわ。

容姿よし、頭脳よし、性格よし、内向的で何よりピュアピュアホワイト、王道の王子過ぎて困っちゃう。萌え萌ええええええええ。


あ、妄想でゲージが増えたな。


こんな御方が相方彼氏であれば――。


ないな。絶対無いな。

萌え死にするし、何より次元が違い過ぎて一緒に歩くだけで気疲れで吐く自信がある。完璧過ぎると相方になる方も大変だわ。身分不相応な恋愛なんて身が持たん。


今は学校の奴等も殆どはそれを理解しているから王子達も平凡な生活が送れているのだがな。まぁそれを理解してない馬鹿はいる事はいる。マジでうっとおしい。死ねばいいのに。


それ以前にわちきも一瞬でも下衆な下心を考えてごめんなさい。

目障りならトラックダイブで異世界にでも行って姿消しますので、どうぞご勘弁を。


ってか、釣り合うのなんて、それこそ姫以外は無理。

姫に勝てる要素あるやつをある意味で見てみたいわ。あんな完璧女子とか二次元に出てきたら盛りすぎで逆に萎えるし。


やっぱ妄想よのぉ。おかずが横にいるだけでわちきの世界が広がるのだ。わははははっ!



トントン



ん? あれ?


わちきの隣から誰かが机をたたいてる音がするが……。

隣と言えば……王子?


ないわー。萌え要素を収集しすぎて幻聴が聞こえだしたのか。


そう思いつつも横を見る。何時もの横目ではなくガッツリ横を見る。


ぶふぉふぉおおおおおおおお!


やばい、吹き出しそうだった……。

いやいや、それどころではないぞ。王子がコチラを見ているだと……。

しかも、あからさまにわちきに用がある様子。


「どどどどどうしましたのですかな?」


おい、噛むより日本語が変になってるじゃないのっ!

やべっ、テンパってしまいましたぞ。


「こ、これ……」


そう言って差し出された、一枚の紙。

これはなんぞや?

ノートの切れ端なのはわかる。わかるのだが、何故これをわちきに?

意味がわからない……。


唖然としていると王子はわちきの机の上にその紙を置き、何事も無かった仕草で黒板に目を向けた。


いや、わちきにはわかる。

めっちゃ照れてるやん。萌えええええ。


っと、現実逃避は良いとして、マジでこれは何ぞや?


取り合えず、ビビりながらも紙を取り、広げる。

中には綺麗な文字が並んでいる……。


ふむ。王子のバイブルサイズの一片。どんな聖典が記されているのであるか?


うん。普通に日本語だった。


ふむふむ。内容は――。



「ぶっ」ふぉおおおおおおおおおおおおおおっ!


キュンキュンですわ。キュンキュン。キュン死しますわっ!

余りの事で声が出そうになったので咄嗟に口元を抑えたが、少し声が漏れたな。


おいエロ教師よ。そんなに見るんじゃない。


「む、村雨……本当に大丈夫か?」


「だ、だいじょうぶっ」


あぶない。絶対わちきの顔は腐ったチェリーぐらいに赤かっただろう。マジでやばかった。


ふぅ……。

気を取り直し、もう一度見よう。


【村雨さん、先程は笑ってごめんなさい。少し怒ってるのかと思ったので謝罪を。言葉で伝えるのが苦手なので手紙で申し訳ないけど。】


ぐふっ!


……いい人や。めっちゃいい人や。

わちきのライフゲージがK点越え。遺伝子ノックアウト寸前だしっ。


王子、あれは怒っているのではありませんぞ。あれは妄想モードに入っただけなので。しかし、わちきの名前を覚えてくれてるのか……それだけでレッドブル無しでバイブル講読完徹周回ができる。


よし、この紙は、いや神は仏壇に供えよう。

わちきが死んだら墓に一緒に入れて貰わねば……。




その休み時間、わちきの下へみかさまがお見えになられました。

そして愛想の良い笑顔と共にお言葉を頂いたのです。




『村雨さん、先程は私の直弥くんが笑っちゃったみたいでゴメンね。少し気分を損ねてしまったのなら許してね』、と。



私のって……。


どこの嫉妬深い嫁ですかっ。



わちきですらこの扱い。

他の生徒も勿論の事、王子が少しでも話した相手(女性)には後でこのような姫からの有難いお言葉を頂くのです。


もうこの学校で姫に対抗しようという女なんていませんって。いやまじで。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る