第31話 羞恥



帰宅時間の校門前。

人が人を集め、今では結構な人数が集まっている。


このまま照れ笑いでもして逃げ去ったらダメだろうか……。


無理か。


そもそも美香が俺をロックオン状態だし、俺が晒プレイでもしないと沙織が言ってるように収束しない気がする。


でもなぁ、もう一回やり直せって言われてもなぁ。めっちゃ恥ずかしいじゃん。


だけどなぁ、仕方ないのか。やらかしたの俺だし。

決して美香の誘惑に負けたわけではないからな。


「よ、よし。一回だけだからな! お、俺の生き様を得と御覧あれっ!」


「はぃ……」


「ふぅー、き、君が――「違うよッ!」」


ぷんぷんって顔しないでもいいじゃん……。


「え? 違うって何が?」


「まず、英語バージョンでっ! それと君じゃなくそこは美香と変えて。あと、眼鏡外すのも。それに、さっきはスラっと言えてたのに今噛んだし。もう一度感情を込めて最初からやり直しでお願いします」


どんだけ要求高いんだ。どこの映画監督だよ。


「そんな無茶な……」


しかも、なぜスマホを構える? 沙織まで……ってか周りもかよ。

部活動してる人まで集まってきちゃったし、マジで公開処刑じゃねーか。俺が何したって言うんだよ……ちょっとボケただじゃないか。モブに人権はないのかよ……辛い。大舞台でネタ披露するお笑い芸人ってマジですげーな。


くそっ! 


こうなったらやってやるさっ! 

ああやってやるともっ! 


今更俺の評価なんて気になんねーし。カースト上位陣にしがみ付いてるモブをなめんなっ。 


もうやけくそじゃ。


改めて姿勢を正し大きく息を吸い、美香の目線の高さまで顔を下げ、ズイっと顔を近付け、まっすぐに目を見ながら――。


ええぃ、どうにでもなれッ!


「ミカ――――」と、先ほどの言葉を復唱すると言うより、告白でもしてるかのように囁く感じで呟いた。


何時もなら美香を見ると目線をずらすが、今回は俺の目を見たまま微動だにしない。それが余計に少し、いや、かなり恥ずかしかったが、やりきったぜ。


どやっ! 


しかも、眼鏡外しキモメンウインクのおまけつき。




「――はぁぅっ」




んー、なんだよ、その反応。顔真っ赤にするほどに笑い堪えるなら、声だして笑ってくれる方がよかったのに。


「ふう、やりきってやったぜ。どうよ」


「な、なおやくぅん。ありがとぅ……」


ふむ。めっちゃ満足そうで何よりです。


「いえいえ、どういたしまして」


うんうん。俺、頑張った。楽しんで頂けたかな?

次いでにチラっと周りの様子を伺う。


沙織はバカみたいに笑ってるけど他の誰も笑ってないじゃん。いやよく見たら肩プルプルしてる人や地面に座り込んでる人いるけど……あれは間違いなく笑ってるな。やったぜ。



「えっとぉ……盛り上がってるとこ悪いんだけどぉ……うちはあさひなくんに……話あるんだけどぉ……」


「あっ」


モジモジと自分の指を絡めながらに上目遣いで俺に問いかけてくる。


美香の乱入で完全に忘れてた。本来の目的はこの女子からおこぼれ貰う為だった事だった。


美香はすぐにスマホいじりだして、もうこの女子の事は眼中に無さそうだし。沙織もスマホいじりながらニヤニヤしてる。智樹は腕組んだまま微動だにしないし、今更どうしたらいいのやら……。


額から冷たい汗が流れだしそうで困窮していると、野次馬を掻き分け風紀委員の腕章をした女子がこちらへと向かってくる。


そのまま俺達の前へと険しい表情で到着する。


「突然すまない。少し事情を聴きたいのだが、君は他校の生徒だな」


「……」


あ、この人知ってる。美人だけど堅物で有名な水梨さんだ。


「ふむ、黙秘か。ところで何用があり我が校の中へ来られたのだろうか? 王……いや、朝比奈君への個人的用事であるのかは見ていればわかるが、校内に入る許可はあるのだろうか? そこのところはどうなんだ?」


腕を組み見下ろす目線、止まらない質問攻め。

何かわからないけど、すごいオーラが出てる気がするな。


「べ、別にぃ。ってか、ちょっとぐらいいじゃん。あさひなくんと話したかっただけだしぃー」


「ふむ、なるほど。言い分は理解した。が――無許可はよろしくない。したがって我が校への無断侵入は容認出来ん。直ぐに立ち去るならば今回は何も言わないが、まだ用があるのであれば私と少し場所を変え話そうではないか」


「えー、めんどーだしっ。あっ、だったらぁ、あさひなくん静かな処に二人でいこうよぉ、ね?」


この女子が水梨さんに向けてた目線を俺の方へと移すと、ちょっと甘えるように首をかしげ笑顔で誘われてしまった。一瞬デレてしまったのは内緒。


しかし……二人でかぁ。


今までの人生で何時ものメンバー以外と二人でとかは、うん、無いな。二人どころか小学校低学年以降は他の人と遊んだ記憶すら無い。余りにハードル高すぎだろ。当然無理難題なのだが……。


よし、これもいい機会だし、勇気を出して行こうかな? 


「行きませんッ!」


「帰れッ!」


いやいや、俺の思考より早いじゃん。美香は百歩譲るとして、智樹がやっと口を開いたと思ったら……幾ら美香の前だからって、それはひどいでしょ。


「朝比奈君が行く訳ないとは思うが?」


何故に水梨さんまで決めつけちゃってるの……俺は何も言ってないんだけど?


「直弥くん、行く訳ないよね?」


「当たり前だ。行く訳がない」


もう決定事項じゃん。まぁ智樹の気を引くだけだったみたいだし、流石に二人で行く意味はないよな。それに二人っきりなっても俺じゃ話が盛り上がらないし。


「うん……今日は皆と帰るから……ごめんね。また機会があれば……」


「ありませんっ!」「ないッ!」


えー、そう言わずに、ね?


「えー、それならぁさ、ラインしようよぉ」


……ラインか。……前に教えて貰って知ってるけど……あのライン、か……。


「……ス、スマホ持ってないんだ」


と、正直に答えたのだが。


「またまたぁ、冗談言っちゃってぇ。そんな訳ないじゃん」


いえ。マジなんですけど。


「あんたさー、直弥は優しく断ってるんだけど、わかんないかな? あざといのもいい加減にしなよ。学校まで押しかけるとか超ウザいんだけど」


沙織が敵対心露わにして女子に毒を吐く。


「あ”ッ?」


え? 


何処からそんな声出すの? 

こんな可愛い顔して……いや、今の顔は般若みたいで怖いっす。


「さ、さおり――「さて、直弥くん、帰ろっか。私は満足出来たからもう良いよね」」


余りの空気の悪さに俺が止めに入ろうとしたところで、美香が何も無かった素振りで俺の腕を引き、歩き始めようとする。すごい自己中発言……まぁそれでも可愛いから良いとして――。



おおおおおおおおおっ!!!


うううう腕組んでるしっ!


クリスマスぐらいから俺に対してのスキンシップが躊躇いが無い気がするのだが……。俺が意識しすぎなのか? 少し自意識過剰になってるのか?


ただし、智樹まで反対側の腕掴まなくても良いとは思うけどね。

これ連行されてる図だから。美香と腕組んでる嬉しさ半減するから、ね?


「いや、しかし……「いいの。いいの。沙織に任せとけばいいからね。早く行こ」」


気にはなるが、美香が更にズイっと顔を近付けこの場の撤退を急かす。


「お、おう」


「うん。美香達は先に行ってて、すぐに追いつくから」


「はーい」


沙織も暗黙の了解なのか、当然の如くに言葉を返した。


「ってことで、帰るから、ごめん。またねー」


「ちょッ――『『『またねー』』』」


俺は仕方なしに別れを告げるが、彼女が少し納得いかない表情。だけど、同時に周りで見ていた数名の生徒達が俺の言葉に反応し、一斉に声を上げ手を振りだした。


この女子に言ったつもりなのだけど……。


その後もその女子が、俺達三人に近付こうとしていたが水梨さんと沙織に行き場を塞がれていた。俺はどうして良いのかわからず、とりあえず美香と智樹に腕を引かれ校門を後にした。


連行?されてる途中にチラっと後ろを振り返り様子を見ると、不機嫌そうなその女子が水梨さんに腕を掴まれ、沙織と水梨さん相手に怒り心頭な御様子。


智樹のお零れ貰おうとか思っただけなのに、何故こんな事に……。

完全に俺がとばっちり食らっただけじゃん。

しかも、原因となった智樹は終始他人事で、俺が原因みたいになってるし。


まだまだ初めての女性とのコミュニケーションはハードルが高かったな。


だがまぁ、そんな俺を巻き込むのがそもそも間違いだから。

彼女には悪いけど仕方ないね。


俺も諦めよう。





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