第26話 新年会



これから始まる一年間がいい年でありますように。と願い、参拝を終えた。

その後、おみくじをするのに時間待ち、破魔矢に絵馬を買うのにも時間待ち 井戸まで辿り着くのすら時間待ち。


かなり、うんざり。


そしてやっとの事で車に戻ると疲れがドッと出る。



初詣も無事に終わった車内。


帰りは運転手さんと智樹が前席で、ソラと俺が2列目、沙織と美香が3列目の席で智樹の家へと向かう。両親達は積る話もあるそうなので、別車両。


「ふぅ。やっと人混みが終わった……」


「直弥くん、お疲れ様」


美香が俺の後部座席から疲れを露わにした俺を労い、声を掛けてくれた。


「今年の初詣は何なの? なんであんなにソラがキャーキャー言われてんだよ……めっちゃ注目されて恥ずかしかったし」


「ソラくんの人気凄かったね」


「ホント凄かったよね。去年の倍はいたんじゃないかな」


話を聞いていた沙織も着物の着崩れを気にしながら話に入って来る。

確かに去年の初詣はここまで酷くは無かった。


「んー、今年はSNSで女性の着物でここに行くって書いてたからかな?」


「おいっ! そんな事するなよっ! 余計恥ずかしいじゃねーか」


女装宣言をするなど有り得ん。

まぁ終わった事だから今更グチグチいっても仕方は無いが。


「でも、ソラはいっぱい見に来てくて、凄く嬉しかったよー」


「そっかそっかぁー、ソラくん、よかったねっ!」


「直弥くん、ソラくんの人気があるのは仕方ないよ。こんなにもカワイイからね」


「えへへっ、沙織ちゃん、美香ちゃん、ありがとー」


「でも、ソラくんだけじゃないよ。私達も注目されてたんだから。ふふふっ直弥もチラチラと美香を見てたじゃない」


「ばッ――目線が行っただけだから! 普通に見えただけだしっ!」


沙織め、なんて事を言うんだ。見ろ、智樹が睨んでるじゃねーか。


確かに見てたけど、バレてるとは思わなかった……。

だって、美香の着物姿とかすげー色っぽかったし……髪をアップして見えるうなじとか、やばすぎじゃん……。


「えへへっ、でも、直弥くんもカッコいいよ」


「はいはい。そりゃどーも」


お世辞は良いとして、美香の着物姿はマジでいい。おじさんがいっぱい写真撮ってたし、少し貰えないかな……。後で適当に誤魔化しながら聞いてみよ。


他のみんなはスマホで撮ってたし、俺だけ無いとか……マジで辛い。



「では、みなさーん。出発しますのでシートベルトしてくださいね」


一緒に来た人達や両親が他の車に乗り込みを終え、この車を運転をしてくれてる智樹の会社の従業員さんが出発を口にし、皆が返事をすると車が動き出した。


……そして帰りも渋滞。


もう、いや……。


行き程では無いが、それでも通常日より長い時間を掛け、智樹の家へと到着した。

そのまま両親達と合流して、智樹の家の大広間に全員で向かう。


岩崎家の大広間は木造、畳部屋。何でも先祖代々受け継がれ大事な場所らしい。現在は主に会議や講習会などに使われているんだって。


そんな大広間の入口となる襖には虎、開けると壮大な空間の壁には鳥や松などが沢山描かれている。旧家とはいえ、個人宅にこんな場所が有るのが驚きだ。


そして、俺達がそこに入ると、目の前には人数分の御節をメニューにした本膳料理がズラっと並んでいる。去年もそうだったけど、この日の為に智樹の母さんが準備してたらしい。


まじで、すげー。

どこの高級旅館だよ。


智樹の母さんは非常に料理が得意で料理教室までやってて、時々、お裾分けで俺ん家に持ってきてくれて、その時に俺の父さんと料理談話で盛り上がってる。


「相変わらず、智樹の母さん、やばいな」


だから素直な気持ちが自然と零れる。


「そ、そうか」


俺の素直な感想に少し照れる智樹。


「だねぇ。智樹のお母さんは本当に料理が上手で羨ましいよ」


「うんうん。尊敬しちゃうね」


沙織と美香も並べられた料理を見て嘆称している。

だけど、よく考えると智樹が学校に持ってくるソフトボールオニギリも、おばさんが作ってるのかな……?


そんなどうでもいい疑問が出たところで、智樹のおじさんの合図で皆が席に座ると新年の挨拶が始まり、乾杯したところで料理に箸を入れた。


まず、どれから食べるか悩んでしまう程に手が込んでいる。


俺が選んだのは、やはり大好きな数の子。かつおダシでしっかりと味がつき、醤油は少なめなのかキレイな色だ。とても、上品なお味。


「この数の子、うまっ」


「これも、凄く美味しいよ」


右隣に座ってる美香が俺の感想に答え、自分が食べてる帆立貝とふきの煮ものを見せた。それもさっぱりしてそうで美味しそう。なので、次に食べてみたけど本当に絶品だった。


因みに左隣は智樹だが、今はガツガツと食べている最中。そんなに早食いしなくても誰も取らないのに……。


更に、その智樹の隣には沙織が座り、その横でソラが座っている。二人で何やら盛り上がっているみたいだ。画像のアップがどうのこうの、俺のわからない分野だし、何より、また横やり入れて墓穴掘るのも嫌なので、今はスルー。


周りを見渡せば、大人達がお酒を注ぎ交し盛り上がっている。


母さん……既に出来上がってるじゃん。早いよ。

何時も酔うのが早く、陽気になった声がここまで聞こえてくる。だが、誰よりも酒に強いので酔い潰れる事も無いし、醜態を晒す事も無い。


「しかし、大人達はテンション高いな……」


「あははっ、ほんとだね。全員が揃うの久しぶりだし、仕方ないかも」


確かにこうやって全員が揃うのって正月ぐらいしか無いんだよな。

少し呆れながらに箸を進める。次は昆布巻き。綺麗に巻かれた昆布に鮭が巻いてある。


パクっと一口。


これも、うまっ。


昆布がやわらかな食感で、鮭との相性ぴったりだ。 甘辛さのなかに実山椒がピリッと効いた味わいが素晴らしい。


「直弥くん、幸せそうに食べるよね。見てると私も幸せになるよ」


「そうか? でもさ、実際すげーうまいし、マジで幸せ」


「ほんと美味しいね。私も頑張るっ!」


確かにこれだけ美味しく作れるなら、料理に目覚めてしまうかもね。


「そうだ。美香の家は今年も3日からおじさんとおばさんの実家に行くの?」


「うん。3日に行って4日に帰ってくる予定だよ。正月じゃなくても一年に何回かは行ってるし、そこまで大袈裟じゃないけどね」


「そっかぁ」


智樹の家は祖父や祖母は他界してるから何処にも行かない。沙織は明日から実家に帰るって言ってたな。美香のおじさんとおばさんの実家は近所らしくて車で2時間ぐらいらしいけど、沙織は新幹線でも2時間ぐらい掛かる程に遠いらしい。


しかし、2日間も美香いないのか……少し寂しい。


「ふっ、俺は明日から、ずっと直弥の家にいくぞ」


「……私も明日はいくもん」


智樹は食べるの必死かと思ったら、しっかり話は聞いてるのね。

しかもなぜドヤ顔なの? 

美香も何を張り合ってるのか意味がわからない。


「直弥はさっ、美香がいないと寂しいんだよ」


「そ、そんなんじゃ無いしっ」


「ふんっ」


沙織もしれっと入ってくるなよな。しかも返答に困る事いいやがって。気不味いだろうが。



――カシャ



変な空気になったところで、俺達の横からスマホのシャッター音が聞こえた。

当然、俺を含め4人が振り向く。


「おにぃちゃん達ってほんとに仲良しだねー。いいのが撮れちゃった。てへへ」


悪気も無しでソラが俺達を撮ったみたいだ。

微妙な空気だったので助かったのだが――。


「おいっ! いきなり撮るなよ」


「だって、ソラだけ仲間外れで寂しかったんだもん」


何が、男なのに『だもん』だ。美香の真似するなっ!


「あーん。ソラくんかわいいぃー! ギュッしていい?」


「沙織ちゃん、ちょっとだけだよ?」


本当にギュッしやがって。羨ましいじゃねーか。

ハァっと溜息が零れ、先程までの空気が一変すると――。


「おっ、おおー!」


遠くからそんな雄叫びが聞こえる。

すぐに、大きいカメラを手にした美香のおじさんが、お酒を飲んで赤らめた顔で近付いてきた。


酒臭い……。


「沙織ちゃん、蒼空くんそのままでッ! おじさんにも撮らせてッ!」


凄い興奮した口調で許可を取っているが、もう既にシャッター音が響いている。


「もぅ、パパッ! いきなり失礼だよッ!」


「美香、これは見逃せない場面なのだよ。こんな絶好のシャッターチャンスを逃すなんて私には出来ないからね。大丈夫、後で直弥くんとも撮って上げるから」


「も、もぅ……し、仕方ないなぁ。沙織とソラくん、ごめんね。パパ少し酔ってるみたい」


いやいや。俺は嬉しいけど、美香はそれでいいのかよ。

沙織とソラは気にしてる様子は無いっぽいな。


「いいよいいよ。おじさん後で私も欲しい」


「ソラもほしいー」


「オッケー、オッケー何枚でも上げるからねっ! だから――」


それから少しおじさんの要求したポーズを取りながら、沙織とソラはノリノリで写真を撮られまくっていた。


俺は完全に蚊帳の外になったので、それを横目で見ながらメインの肉料理に箸を進める。本日の肉料理は数種類あるけど、この牛肉の八幡巻きが俺的には一番好き。


縁起もいいし、柔らかくて絶品。

やっぱ肉は最高だよな。


「さて、直弥くん」


「ふわぁい?」


急に呼ばれても、まだ口の中に肉が……。

急いでゴックンと飲み込む。


「美香と一緒に写真を撮らせて貰えるかな?」


「えっ、も、もちろん大丈夫ですよ」


ソラと沙織に満足したのか次の標的は俺達みたいだ。

取り合えず自然なままでとの事でそのままカシャカシャ撮られるが俺の右横には当然美香がいて……左には当然とばかりに智樹がいる。


3人で仲良く記念撮影。


……美香と2人は許してくれないのね。

流石は智樹、ガードが堅い。


ってか俺って邪魔じゃね?

しかも俺が真ん中とか何の罰ゲームだよ。


「こうやって並んでると結婚式みたいだね」


おっと、おじさんから爆弾発言でましたよ。


ってか、美香はモジモジして照れてるし、智樹まで満更でも無さ気な顔してるじゃん。なんなの?

ホント、俺が真ん中にいて、マジでゴメン。


それから組み合わせ変えて智樹と俺、美香と俺、智樹と美香の組み合わせで写真も撮った。俺と智樹とは肩組めとか、俺と美香の時は腕組めとか要求は幾多にも及ぶ。


もちろん美香に腕を組まれた時に俺のデレ顔を撮られただろうが、一片の悔いなし。

だが、智樹と美香の組み合わせでは素気なかった気がするが照れ隠しなのだろうか。


まぁ役得だったので気にしないでおこう。



その後も宴会は続き、解散する頃にはすっかり夜も更けていた。


沙織家は智樹の家の会社の人が社用車で送り、美香の家は会社の人が代わりに車で代行運転して、俺達家族は歩いて家へと帰った。


今日は疲れたけど楽しい一日だったし、今年も良い今年になりそうだと感じた。

しかし、一日中御節料理食べた気がするけど、色々な味があって種類もあるので飽きることはないので、大変満腹で満足だ。





それから冬休みの間、宣言通り智樹は毎日俺ん家に来て、美香も実家に行ってる以外は俺の家に来ていた。



まぁ主に勉強してただけ、なのだが。

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