第27話 進路
冬休みも終わり、新学期が始まる。
少し長かった休みの為か、学校へと向かう足取りも重く感じながらに登校すると、授業が始まり、先生からの言葉で大学入学共通テストまで残り1年になったのだと実感させられた。クラスの人達も気にはしてたのか、一瞬ざわざわとなるが、その後に色々な説明があった。
それから、昼休みになると、智樹と沙織が教室に入って来て、何時もの4人でお弁当を広げ、雑談が始まる。
「今日、先生に言われて気付いたけど、大学入試まで後1年だよなぁ」
「直弥くんは、まだ進学先を決めてないって言ってたけど、ある程度は決まったの?」
沙織と智樹が頷き、美香がまさに俺が考えている事を直球で聞いてきた。
「んー、まだ決めかねてるんだよなぁ。将来何をしたいかはっきりしてないし、まぁ取り合えず3年になってから試験の結果次第で決めるかな」
「そっかー」
「美香もまだ決めてないよね。まぁ……理由は何となくわかるけど」
「うん。当然だよ」
「ちッ」
「え、理由って何?」
「「「……」」」
3人共に俺の質問はスルーかよ。
沙織や智樹はわかってるみたいだけど、もしかして、俺だけ知らないの?
まぁいいや。
「智樹はやっぱり大学には進学しないの?」
「おう」
「まぁ、智樹は将来決まってるから仕方ないとして……だけど、まだ1年と取るべきか、もう1年と取るべきか……決まってるのは沙織ぐらいか」
「私は中学から決めてたしね」
「たいしたものだ」
沙織は有名な国立芸大を目標にしてるから、それに向けて勉強も進めている。
「みんなで私と同じとこに行こーよ」
「……それは無理だろ。俺達は沙織みたいに絵とか上手く無いし」
美香は上手だけど絵には余り興味を示してないし、俺と智樹の絵心なんてせいぜい美術の単位を無難に取れるぐらいのレベルだ。
「んー、残念」
本気で残念そうにする沙織は現役プロなだけあって、芸術関連の能力が凄い。
何でも漫画で生涯食べて行ける人なんて極々一部らしく、それでも将来は自らの画力で仕事がしたいらしいので推薦枠を取り芸大で勉強するとの事だ。
「直弥はさ、先に将来何がしたいか決めた方がよくない?」
「ん、まー、確かにそーだよな……」
将来か……普通の会社員ぐらいしか、ビジョンが見えないんだけど……。
「智樹は将来、会社継ぐだろうし、美香は決めてるんだっけ?」
「当然決めてるよー。私は、なお「ああっ! 俺はッ! その為に大学行かないで勉強するんだからなっ!」」
めっちゃ美香の言葉に被ってるじゃん。しかも何時もより声デカいし。美香が何言ってるか聞こえなかったわ。
「美香も大学の先の将来は決まってるみたいだし、羨ましい。それに、智樹もそれに向けて勉強するって凄いよな」
「まぁな」
「……もぅ」
「ぷっ」
俺だけ将来何をしたいか決まってないのか……。少し真剣に考えてみるか。
昼休みが終わり、現在授業中。
先ほどの言葉が気になり授業に集中出来ない。
将来の夢か……。
身近なところを参考にすると、母さんは弁護士で、父さんは学生の時からの夢であったプロのフォトグラファ。その2人がお互いの道を決めて結婚した。
しかも、ソラですら高校入学と同時に芸能界入りが確定しているらしい。芸能科がある高校に行くって言ってたし、それ聞いてからソラがチヤホヤされるのを否定はしない様にしている。応援はするが、女装は全力で否定する。
沙織は親に負担掛けないように国立大、しかも自分の実力を生かした芸大。
智樹は警備会社の跡継ぎの為に日々努力し、高校卒業してからも色々と学ぶとのこと。
美香は、はっきりとはわからないけど、断固とした決意みたいなものがあるから将来の事は決めてはいるのだろう。
そして俺……。
勉強だけは頑張ってはいるが、それだけだ。
とりあえず、美香が中学生の頃から勉強だけは絶対に妥協させてくれないので、成績だけはそれなりに良い。本当は皆に置いていかれない様にと邪な理由ではあるのだが。
しかも、これといって趣味も無い。
もちろん好きなのはある。ドラマや映画、ゲームに漫画やアニメ。それでも趣味って程でも無い。小説などの本を読むのも好きだが趣味って言うより勉強の一環だし。
……自慢出来る事すら、何も無い。
俺自身に関してなら、無い無い尽くしだ。
何より……初対面で緊張する癖が全く治らない。
これでも、中学の頃に比べると大分とマシにはなった方だが、それも、この3人がいてくれるからだ。だから余計に依存してしまう。何時までも、この3人に依存しているのは将来的には不安はあるのも理解しているので、改善もしようとは努力はするが、今のところ見込みは薄い。
彼女でも出来れば、もしかしてと思う心もあるが……如何せんモテないのでどうしようもない。
そんな苦悩すら関係無い程に美香が俺の彼女ならと思う気持ちは当然ある。だが、俺程度には勿体な過ぎる。そもそも俺なんて幼馴染枠でしかないのだから。しかも、悔しいが智樹とお似合い過ぎて入る余地が無い。
どうしたものか……。
俺の将来が心配過ぎる。夢以前の問題だ。
もやもやとした気持ちのままにその日の授業が終わる。
途中の休憩時間にもみんなが来てくれたが、俺だけ取り残されてる様で少し寂しくなった。
帰宅後、リビングでテレビを観ながら学校での出来事を考え、寛いでいる。
ソラは芸能人ってこのテレビの中の人になりたいってことだよなぁ。
注目されるし恥ずかしくないのかよ……。俺には絶対に理解出来ない心境だな。
暫くすると、夕食の準備が出来たとの事で父さんが呼びに来て、今日は父さんと2人で食事となる。ソラは帰宅が少し遅くなるらしい。
「ソラって時々遅いけど、部活もしてないの遊びに行ってるの?」
「ああ、違うよ。お友達のお家でお勉強会だね」
「へぇー。まだ中2なのに頑張るんだなー。そんなに難しい高校に行くの?」
「ううん。蒼空君の今の成績だと問題はないね。ただお友達に人気あるから順番に誘われてるんだって」
おふっ……めっちゃリア充じゃねーか。
「ふぅん。しかしソラが芸能人なりたいって、父さんも母さんも知ってるけど反対はしないの?」
「するわけないよ。蒼空くんがしたいならパパもママも応援するしね」
「そうなんだ……少しソラが羨ましく感じるな」
「どうして?」
「そりゃあ、将来の目標決めて頑張ってるし、父さんも母さんも理解してるみたいだしさ……俺なんて兄貴なのに未だに何も考えてないからさ……」
「直弥君も、そろそろ考えないとね」
「そーなんだけど……何したいか全くわからないんだ。智樹も美香も沙織もしっかり将来の事考えてるみたいだし、俺だけ置いてかれてる感じして少し焦ってるのかも」
「んー確かに、周りがそれなら少し焦るよね」
「そうなんだよね」
「あっ、そうだ。趣味を持ってみるのはどうかな?」
「趣味?」
「そうそう。趣味とかやってみると、将来してみたい事が見えるかも知れないよ?」
趣味かぁ……学校でも考えたけど趣味にあたるのが思いつかないんだよね。
「んー、今更、趣味を探すって言われてもね……」
「今更って、直弥君はまだ高校生だよ? まだまだ、これからだね」
「うーん。そうかな……?」
「そうだよ。パパが教えれる事ならカメラとか料理なんだけど、一度やってみる?」
「カメラはわからなくもないんだけど、料理とか難しそうだし……」
「そうでもないよ。簡単なのもあるし、手の込んだ物もあるけど、その分やってみると結構楽しく思えるよ。何より自分の作った料理を他の人に食べて貰えて、尚且つ美味しいって言って貰えると凄く嬉しくなるね」
ああ、それはあるかも。
「なるほど。確かに自分の作った物を褒められるって嬉しくなるよね」
「でしょ? 今日はもう食事も終わちゃったから料理は時間あるなら明日にでもしてみようか。それにね、カメラもそうだよ。自分の撮った写真を楽しく見て貰ったり、感動なんてして貰えると、凄く嬉しいね」
「確かに」
「あ、そうだ。食事終わったら、パパの作品とか見てみる? もしかすると興味出るかもしれないからね」
小さい頃に少し見た覚えあるけど最近は知らない。
……確かに今なら良さもわかって興味でるかも。
それに、一度なんでも触れて見ないとわからないし、お願いしようかな。
「うん。一度どんなのか見せて」
「うんうん」
それから食事も終わり、父さんの仕事部屋へと移動した。
相変わらず、父さんの仕事場はスタジオみたいで、何となく凄い。
見た事も無い機材とかが多くて、今まで父さんの許可ない時は近付かなかったけど、よく見ると色々なのが置いてあるんだな。
「直弥君が蒼空くんの女装を嫌うけど、自信作が結構あるんだよ」
父さんがガラス張りの本棚を開け、数冊の雑誌や写真集みたいな本をこちらに持ってきた。
しかし……ソラが載ってる本か……。
沙織のBLと同様に拒絶してるからなぁ。余り気が乗らないけど、折角だし一度見てみるか。
ペラペラと本を捲ると老若男女問わず色々のモデルさんが色々な衣装を着てる物や、アート作品の様に写っているのまである。
数枚捲ったところで、ソラがいた。
大袈裟なポーズしてるやつや、何時もより目を開けたり、男物の服もあるし、女性用の服もある。流石に表紙までのは無いけど、結構な数だ。
「……」
何時ものチャラけたソラでは無いのが逆に違和感を感じる。
「どう? 蒼空君、可愛いでしょ?」
「んー、どうなんだろ? 可愛いとか言われても弟だし、そういった目で見ることは出来ないんだけど……」
それでも、父さんには悪いけど女の恰好したソラにしか見えない……。
「そっかー。それなら視点を切り替えようか。そうだね、これなんて、この色合いに衣装が凄く合ってないかな?」
青の背景に白の衣装で所々に黄色が目立つ。夏って感じだ。
「あ、うん。それなら凄く合ってる感じがする」
「よかった。一応これはテーマがあって、夏のひまわりって感じで撮ってるんだよ」
夏衣装からして見たままだけど、確かにそんなイメージが沸く。
「なるほど、でも父さんがプロだからこんな感じに出来るし、趣味では難しいでしょ?」
「んー、イメージ通りに創造して撮るのは難しいかもだけど、今はレンズやカメラ、それに最新の機能を駆使すると結構誰でも手軽に楽しめる様になってるから、カメラを趣味にする人も増えてるよ」
「へぇ」
「直弥くんもクリスマスの時に、気になった写真を撮ったって言ってなかったかな?」
写真って言ってもガラゲーで、だけど……。
「うん。凄く綺麗だったから撮ったね」
「最初はそんな感じでいいと思うよ。それを続けると、もしかしたら趣味に変わるかもしれないね。綺麗や楽しいといった感情が自分の興味に繋がれば、もうそれが趣味だからね」
「なるほどねー。趣味になるかわからないけど、今度からも気に入ったら写真でも撮ってみようかな」
「それはいいね。パパの仕事を理解してくれるみたいで嬉しいよ」
「うん」
「あっ、そうだ。直弥君が少しでも興味持ってくれたならパパのデジカメを貸してあげる」
「え、仕事で使ってるやつでしょ?」
「小型のは余り使わないから、大丈夫かな。一度使ってみて」
「それなら使わせて貰うかな。ありがと」
「いえいえ。持ってくるから少し待ってね」
「はーい」
父さんがカメラ置き場に行くと、小さなデジカメを貸してくれた。
「一応それで撮ってみてね。撮ったのをパパにも見せて貰えると嬉しいかな」
「うん。わかった」
何でもやってみないと面白さがわからないし、とりあえず出来る事やってみよ。
料理は、明日学校から帰ってきたら一緒にしてみるとの事となった。
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