第28話 初めての料理
父さんからカメラを借りた次の日、学校から帰宅した夕時、初めてエプロンを着けて台所に足を踏み入れた。
しかし、ハート柄かぁ……。
少し萎えそうな気持ちになりかけるが、切り替える。
ってか――。
「ソラも一緒にしなくてもいいだろ?」
今日に限って何故早く帰ってきてるんだよ。
「楽しそうだから、ソラもするのー」
「はぁ……まぁ別に良いけど」
「蒼空くんはパパと結構一緒にお料理作ってるからね。上手だよ」
「えへへっ、おにぃちゃんも、今までにソラの作ったの食べてるよー」
はい?……そうなのか?
「気付かなかったな……」
「お弁当がオムライスの時は、ソラが作ったよー」
「……あ、あれか」
あ、あの……ケチャップでハートとか作ってたやつね……。
父さんにしては弁当にオムライスっておかしいと思ってたんだよな。
「他にも夕食もパパと一緒に作ってるよー」
「蒼空くんは上手になりましたね」
「わーい」
まぁ確かにオムレツ美味かった。
「まぁ、いい。早く作ろうよ」
「そうだね。夕食が遅くなるし、作ろうか」
「「はーい」」
3人で仲良くキッチンに立ち、料理を始める。
今日はハンバーグを作るらしい。
「それでは直弥君は実際にやってみようね」
「おにぃちゃん、がんばって!」
ちょっとドキドキする。
よし、やってみるか。
まず最初は玉ねぎの皮をむき、微塵切りに。
父さんに教えて貰いながら、ぎこちない手つきで包丁を使う。
父さんがするとトントントンなのに、俺だとトン。トン。トン。
あんなに早く切ったら指切りそうで怖い。
ってか、皮をむくまではよかったけど……何これ?
めちゃくちゃ、目に染みて痛いんだけど――。
「ああッ! 目が……目がぁぁぁぁッ!!」
「あはははっ、玉ねぎ切るとそうなるよね」
「ど、どうにかならないの?」
「それなら、これでもくわえて切ると効果的だよ」
「これ?」
「うん。騙されたと思ってやってみて」
渡されたのは割り箸。
口にくわえたら大丈夫って……本当かよ。
咥えたままに切ってみると――。
すごい、目はまだ痛いけど全然マシ。何より涙が出ない。
何この意味が理解出来ない方法は……凄く不思議だ。
切り終わったので、次にハンバーグの材料である、合びき肉、玉ねぎ、パン粉、牛乳、おろしにんにくを、塩や胡椒で基礎調味料をボウルに入れて混ぜる。
「直弥君、良い感じだよ。上手だね」
「そ、そうかな?」
「初めてなのに、おにぃちゃんすごーい」
褒められると嬉しくなる。
「次は、炒めてみよう」
「うん」
父さんに見本を見せて貰った後に、実際に自分でみじん切りの玉ねぎを混ぜながら炒めた。色が軽くついてきたら弱めの中火に火を落と注意されながら。
数分ほどじっくり炒めると、キツネ色になれば火を止め、玉ねぎを炒める工程が終わる。
その後にひき肉をボウルを左手で押さえ、右手でしっかり材料を練り混ぜ、ハンバーグのタネを作る。
「小学生の頃に作った粘土細工みたいだね」
「あははっ、そうかもね。でもこれが結構大変だから、頑張って」
確かに大変だ……言われた通りに手をグー、パー、グー、パーとひき肉と調味料を握るようにして全体を混ぜ、全体が混ざったらぐるぐるとかき混ぜるように練ってタネを作りる。
タネが出来上がったら、作る個数にざっくりとボウルの中で切り分け、手に取って成形し、楕円形に軽くまとめたら表面をならして形を整え、片手から片手へ軽く投げるようにして空気を抜く作業を黙々とする。
「同じ大きさにするのは、なかなかにむずかしい……ソラは結構綺麗に揃ってるよな」
「うん。今まで作った事があるからねー」
「慣れか」
「そーだよー」
そして、何個か焼く前のハンバーグが出来上がる。
見るからに俺とソラが作ったのに違いがある……。
「俺のだけ、形が不細工だよなぁ……」
「大丈夫だよ。最初にしては十分に良い出来だから」
「そうかな……」
「十分だよ。さて、焼いてみようね」
ハンバーグの焼き方はフライパンに薄く油をひいて、中火にかけて熱くなったらハンバーグをそっと並べ入れるとの事で、恐る恐るやってみる。
父さんに火加減をして貰いながらに、片面から焼き始め色が付いてきた。
「おお! 美味しそうだ! ハンバーグが出来てる……すげぇ」
「ふふふっ、出来上がっていくと嬉しくなるでしょ?」
「うん!」
フライパンに入れた後に軽く手やヘラで押さえたりして、形を整え、こんがりと片面に焼き色がつけば裏返し、すべてを裏返したら弱火にして、蓋をしてじっくり蒸し焼きにする。
蒸し焼きが終わったら焼き加減の確認で、俺が作った一番厚みのあるハンバーグの中央に父さんが竹串を刺して抜くと、透明な肉汁が出てくれる。
「大丈夫だね。中までしっかりと火が通ったみたいだからこれで終わり」
「へぇ」
「おいしそー」
確かに美味しそうだ。早く食べたい。
最後にハンバーグソースを作って、盛り付けたハンバーグにかけ、トマトやきゅうりなどの生野菜、ブロッコリーやアスパラなどのゆで野菜など好みのものを盛り合わせて完成した。
そして、テーブルに運んでから、いざ、実食。
「「「いただきます」」」
父さんやソラに手伝っては貰ったけど、自分で作った料理は美味しかった。
何時もは食べるだけだったから、手間暇掛かって作られているとの実感もしていなかったけど、こうやって自分で作ると父さんには本当に感謝出来る。
「どう? 自分で作ったのは美味しいでしょ?」
「「うん!」」
もちろん、美味しい。
「ハンバーグはまだ簡単な方だけど、まだまだ色々な料理はあるから楽しめるよ」
「うん。また作ってみたいな」
「それで実際に作ってみて趣味とかになりそうかな?」
「うーん。確かに楽しいとは思うんだけど、今回が初めてだったし、まだわからないかな」
「ソラはお料理大好きだよー」
「そういえば、ソラの趣味は何かあるのか?」
「んー、好きなのはいっぱいあるけど、一番はかわいい服とか着ることかな?」
「……聞くんじゃなかった」
それが趣味になってる時点で兄弟として悲しくなるし……。
「趣味は人それぞれだしね。直弥君は取り合えずはお料理はやってみたから、次は、お友達と何処かに出かけて写真でも撮ってみるといいよ」
「そうだね。それも楽しそうだ」
「今回のハンバーグは多めに作って置いたから、明日のお弁当に入れとくし、お友達の分も用意するから、食べて貰ってね」
「ああ……。それで沢山作ったのかぁ」
「ママの分ももちろん置いてるけどね。初めて直弥君が作った料理だし、ママの分が無かったらパパが怒られちゃうよ」
「はははっ、そんな大袈裟な」
あの母さんが俺の料理如き、気にもしないでしょ。
「大袈裟では無いんだけどね……まぁ、そんな訳で分けとくからね」
「わかった」
自分で作った料理か……みんな食べてくれるかな……?
不味いって言われるとかなりショック受けるんだけど……。
△▼
そして次の日、父さんに作って貰った弁当とは別のタッパに入ったハンバーグを持って、学校へと行く。
普段と変わらずの授業が進み昼休みが訪れた。
何時もと同じように智樹と沙織が教室に来ると、机を動かし4人で弁当を広げる。
ちょっと緊張しながらに、ゴソゴソと鞄から弁当とハンバーグの入ったタッパを机の上に置く。
「あれ? 直弥くん、今日は昼食多いんだね」
「そんなに食べれるの?」
「沢山食べるのは、良い事だ」
何時もより倍程の量となった事で3人が気付き不思議そうに俺に話し掛けてきた。
やはり、この量だと変に思われるだろうな。
恥ずかしさが込み上げ頭を掻きながら返答する。
「えーっとっ……昨日さ……父さんに教えて貰いながらだけど……、ハ、ハンバーグを作ってみたんだ……。それで、もしよかったら食べないかな、なんて」
「「――――ッ!」」
「へぇ、直弥が作ったんだ。凄いねー。勿論頂くよー」
沙織はすぐに反応してくれたけど……。
美香と智樹は驚いた表情で固まってるし……。
そんなに俺が料理作るって変なのか?
「美香も智樹も嫌ならいいだけど……」
少し残念だけど。
「あっ……そ、そんな訳ないよッ! 凄く嬉しいし、楽しみだしッ!」
「も、勿論食べるぞッ!」
声が大きい。
だけど、美香の楽しみはわかるが……嬉しい? 何が?
いやいやそれよりも、そんなに目をキラキラしなくても。
逆に凄いプレッシャーになるじゃん。
そしてタッパを開け、取り分けしようとする、が――。
「ま、待って! 直弥くんの初めての料理だから――」
「ッ!?、それもそうだなッ!」
お箸を入れる前に止められ、何事かと思うと、美香も智樹も立ち上がり、色々な角度からスマホでパシャパシャ撮り、そしてしばらくして満足気に席に座った。
た、たかが……ハンバーグで何事だよ。
そんなに俺が何かしたら珍しいのだろうか。
その後に取り分けても、智樹と美香がそっちのが大きいとかこっちのが少ないとか口論になるし、そんなに2人はハンバーグが好きなのかな……。
その後、食べ終えた時の感想が、困惑するぐらいに大袈裟な過大評価ではあったのだけど、心から喜んでくれたのが伝わってくるようで凄く嬉しかった。
まぁ、また作ってみよう。
それから昼休みも終わり、午後の授業が進む。
冬休みに結構な時間を、美香と智樹と勉強した内容なので先生の授業が復習になってしまったが、覚えた事を確認する意味でも大事だし真剣に勉学に励み、学校の一日を締めくくるホームルームとなった。
そして、何時もの様に校舎を4人で出て、少し歩き校門が見え始めると、下校する生徒の視線が一点に集中しているのが見える。遠目でまだよく見えないけど、他校の制服を着た女生徒が誰かを待っているようだ。
「知らない制服の子だね。彼氏でもまってるのな?」
俺が思った感情のままに呟くと、美香と智樹の笑顔だった表情が一瞬で無表情と変わる。
へっ? 何? もしかして地雷でも踏んだ?
本当に申し訳ない。全く意味がわからんが――。
マジで空気読めなくてごめんよぉぉぉ!
「「「……」」」
俺の素直な感情を完全にスルーするが如く、重い空気が漂う。
マジで何なの?
すぐに俺の前へ無言の智樹がくると、これまた無言の美香と沙織が俺を挟む形になって門に向った。
冗談でも言って良い雰囲気でも無さそうだから、黙ってるけど……。
ちょ、ちょっと怖いんだけど。
だが、しかし――。
近づくとかなりのよくわかる。その他校の生徒――かなり可愛いな、と。
彼氏が誰か知らんが、リア充爆ぜろと心の中で叫んでおいた。
ん? あれ? どこかで見た事ある様な無い様な。どこだっけな……。
結構最近に見た気がするんだが……思い出せん。
っと、そんな事を思っていると。
「あっ! あさひなくぅん! まってたよぉぉー」
――えっ???
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