第29話 ゆうなの誘惑
装飾も無く錆防止の白く塗装された大きいだけの学校門。
スライド式になっており、現在は全開放。
帰宅の為にそこを通過する生徒達の雑談。その近くにある大きいグランドからは運動部の人達の元気な声。高台にある学校であり時折風が吹けばグラインドの砂が舞い、更なる強風で何かが倒れた音が鳴りびっくりもする時もある。
何時もの四人で何時もと変わらない下校時。
そんな何気も無く、何時もの日常。
何時もと違うと言うならば、見知らぬ女性が大きく手を振りながらに俺の名前を呼んでいるかもしれないといった、幻覚幻聴が聞こえてくるぐらいか。
はぁ……やばいな。
幻覚、幻聴の類が俺の煩脳を攻撃しだしたか。
もしくは、この一瞬で俺の脳だけが妄想世界へとトリップでもしてしまったのだろうか。
確かに常に色欲が俺を支配しているのは理解している。
妄想世界ならこの状況はアルアルだよね。
だけど、これはないわー。
流石にこれは重症かもしれない。高校生にもなって
遠目から見てもわかる程のかわいい子が、俺の方に向かって手を振り俺の名前を呼んでる。
やっぱ、ないわー。
どんだけ俺の頭の中はお花畑なのか。病院で診てもらう方がいいかもしれん。
恥ずかしいから美香達には聞けないけど、家に帰ったらこっそり父さんにでも相談してみよう。
うん。そうしよう。
だが、しかし、かなりリアルだよなぁ。
んー。やけに精細に映る。
その手の漫画に小説読みすぎか、もしくはバーチャルアイドル見すぎてるかも。
少し控えないと。
「直弥、あれ知り合いなの?」
「――へ?」
黙り込んでる美香と智樹は相変わらずだが、沙織がやっと口を開いたかと思ったら、そんな事を聞いてくる。
知ってる訳ないじゃん。俺が聞きたいし。
ってか、沙織にも見えてるの?
それなら、これ現実なのか?
よかった。病気じゃなくて。
そうなると、だ……。
あの可愛い子誰よっ!? 全く身に覚え無いのですけどッ!
いや、まてよ……全くでは無いか。
思い出せないが、どこかで見たんだよな……。
ここまで出てるけど思い出せん。もしかして知り合いだったのかな?
いやいや、あんな女性が知り合いなら流石に覚えてるだろ。
そんな事を考えていると帰宅中の生徒達の目線が、一斉に俺達に集中している事に気付く。
目立ってるじゃん。
超恥ずかしいんだけど……。
そんな俺の気も知れず、俺を呼んだ女性が他の生徒などを無視しながらに茶髪パーマの長い髪を揺らし長く細い足で駆け寄って来る。大きな胸がたっぷんたっぷん。非常に眼福です。
更に近づくにつれはっきりわかる程に大きい。普通の高校生と比べ一線を画す程の巨乳。顔もかわいい。
首にはお洒落なマフラーに、ケバくは無い程度の薄化粧。小顔で目がぱっちり唇にはリップグロスのせいか色気まである。
胸に付いている豪華なワッペンは見た事も無く、この近くの学校では無いと思われる。
やはり、どこかで――。
あああああああああッ!
思い出したっ!
俺が持ってるグラビアアイドル写真集の女の子だっ!
その写真集で一番の巨乳だったから覚えてる。絶対あの子だ!
やべええええぇ。
生で観ちゃったよ。超ラッキー!
しかし、生で観るとやべーな。
美香と同レベルはありそうな程の……。
いや。やっぱ美香のが上だな。
モブに与えられた特権、上から目線での採点からして間違いない。絶対口にはしないが。
そんなしょーもない事を考えてると、智樹が真っ先に詰め寄り険しい表情で話しかけている。
あれ?あれあれ?
なんだ、智樹の知り合いか。
俺の名前を呼んだと思ったから、勘違いしちまったじゃねーか。
まぁ、あんな可愛い子の知り合いなんていないから有り得ないけど。
だがしかし……モテるヤツってマジですげー。他校の女子ともお友達ってか、ぱーねぇわ。
流石は智樹、かっけー!
俺が一人で感心していると女子が智樹の前で立ち留まり、何やら話している様子。
「――あさ――くんと――だけど、そこ――ないかな?」
「――何の――ある?」
ん? あれれ? 何やら揉めている感じだな。
少し距離がありはっきりとは聞き取れないのだが、俺の名前言ってる様にも聞こえるが……気のせいか?
うわー、お互い睨み合ってるし。美香まで行くのかよ。
周りの女生徒達まで集まってるし。
沙織さん止めてあげてよ……って、すげー嬉しそうな顔してないで、ね?
おぃおぃおぃッ! これって修羅場じゃね? やべーじゃん。
で、俺は何してるかって?
そりゃーもちろん、五歩ほど下がって高見の見物ですよ? それが何か?
お陰で何言ってるかよくわからないのが残念だけど。
まぁ俺ぐらいになると聞かなくてもわかるがな。
年齢=モブ歴をなめて貰っちゃ困る。完璧な予想が付く。
要は、智樹目当ての知り合いの美女が突然に訪問してきた事に怒って、美香が誰この女みたいな感じだな。
智樹を取り合う二人の美女。
やっべーな。
これが昼ドラで言う修羅場ってやつか。生で観るの初めて。
世の奥様の気持ちが少しわかった。他人事だとちょっとワクワク感が出るよね。
そんな事を考えていると、その女子が隙をついて俺の方へと向かってくる。
ん?俺の後ろに誰かいるの?
後ろを振り向くと男女数人はいる。
勘違いかと思いすぐに顔を戻すと触れるぐらいの距離で俺の顔を上目で凝視する、女子。
うわっ! びっくりした。
あっ……いい匂いがする。
「あさひさくんとお話したいなって思って来ちゃったっ!」
へ?
本日2度目の驚きだよ。
しかし、何その上目使い。あざといなぁ……。
美香耐性がなければ勘違いしちゃうじゃん。
うん、でも大丈夫。
可愛いから許す!
「ぉ、おれに?」
「うんっ!」
はてはて? このキングオブモブに何のお話でしょうか?
「おいッ! 離れろ!」
頭の上に疑問符を浮かべているところで、後ろから駆け寄った智樹が少し乱暴な口調で詰め寄る。
智樹君、流石に女子にその言い方はないですよ?
しかしこの女子、気にする様子も無い、ですか……。
そして美香も参戦。
俺とその女子との間に細い体を滑りこませた。
睨んでますよ?美香さんが。
頬膨らませて、かわええのぉー。
美香を見て冷静を装ってるけど、正直、脇に変な汗が出てそう。
本当は、いっぱいいっぱいです。
マジで、この状況はなんなの?
全く意味がわからんのだけど。
そこからすごーく考えた。この一瞬の時にめっちゃ考えた。
――その結果。
これは嫉妬による第三者であるモブへの被弾。『貴方が私を選んでくれないなら浮気しちゃうぞ』的なものかと思われる。たぶん、間違いない。
これは、智樹への愛情表現、嫉妬心を煽る行為と見て間違いないかと。――そんな結論に至った。
ならば、上手くこの波に乗れば、おこぼれがあるかも。
よし。引き立て役なんて今更だし。全力で頑張ってみますか。
「目なんて閉じちゃってどうしたのぉ?」
うぉ、またまたびっくりした。美香以外にこんなに接近した会話初めて。
しかし人差し指で頬を指し顔を傾ける、か……あざとさが、ぱねぇ。かなり出来る。
やるな。
だが俺の思考力が導いた答えの前では通用しない。だが乗らねば成らん、このビッグウェーブにッ!
――おこぼれの為にッ!
「な、何でもないっす」
「っす?」
あ、やば。動揺しちゃった。
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