第19話 ソラとデート②



店内は込み合う程では無いが、客は疎らにいる。

俺達は一番奥の席。

隣はもちろん空いてはいるが、それでも隣の窮屈な狭い席にまで来る必要は無い。

それなのに、2人でコソコソと話しながら、あからさまに俺達向けて何かを言ってるのは確かだ。


智樹達と出掛けるとよく話し掛けられるが、それは智樹や美香に沙織が目立ち声を掛けられるから。でも今は俺とソラしかいない。


「あのぉー、アオゾラ君ですよね?」


おお、声掛けられた!


んん、ん? でも、アオゾラってなんだ???

 

どこかで聞いたような……。


ああ、思い出した。

沙織が以前言ってたソラの偽名か。ってことは、この人達はソラの知り合いか?


も、もしかして……ソラ目当てなのか? 


そ、そんな馬鹿なことが……。


「うん。そーだよ」


「うわー、やっぱりっ! 何時も応援してます! よかったら一緒に写真撮って貰えませんか!?」


はい? 応援、一緒に写真? 

え……? ええええええええっ????


「ありがとー。もちろんいいよー」


何言っちゃってるの?

何よ、その場数した感じ。ソラの癖に……。


俺が呆気に取られていると、ソラが席を立ちピースを作って、パシャっ。


うわぁ……あんなに顔近付けて……。

羨ましいじゃねーか。


SNSやってるだけでそんなにモテるのか? マジか……よ。


「其方の方は、マネージャーさん?」


マ、マネージャー……。


帽子も眼鏡も付けてマスクも下げてるだけだし、怪しまれるよりはマシだが……。

よりによって何故に俺がソラのマネージャなんだよ……。


「違うよー、彼氏だよっ!」


「「――えっ?」」


何言っちゃってるのッ! バカヤロー!


「ち、違いますよ。あ、兄でしゅ」


……噛んだしっ。めちゃ恥ずかしい。


やばい、コミュ力の低さが露骨に出てしまった。

と、とりあえず……年上の御姉様だし、失礼の無い様にこの怪しい恰好を解かねば。

もしかして、お近付になれるかもだしな。


帽子を取り、眼鏡とマスクに手を掛けた処でソラが慌てた様子になった。


「あッ!? 外しちゃダメッ!」


ソラは何を言ってるんだ? 

外さないと不審者扱いされるじゃねーか。もちろん外した。


「は、初めまして……ああ兄の……直弥です」


「「――――ッ!?」」


やっぱ意識すると挨拶すらうまく言えない……。

俺のコミュ力ってマジで終わってるな。


んん? ってか、あ、あれ? 

反応すら無いじゃん。俺ってキモ過ぎなのかな……。


「あぁ……やっちゃった。名前まで言っちゃうし。とりあえず眼鏡とマスク着けて、すぐにッ!」


はぁ? 何言ってんの? 

こんな兄は恥ずかしてっか……流石に弟だからって酷すぎだろっ! 


まぁ、だが……一応は着けるか。ソラが必死だし。


「お姉さん達、冗談言って御免なさい。この人は僕の兄で……兄は極度の人見知りで隠したいのです。大人のお姉さん達なら僕が嫌がる事はしないと思いますが、この事はお姉さんと僕の秘密って事で宜しくお願いします」


はい? なんだその口調は? 大人ぶってるのか?

 

人見知りなのは確かだけど、恥ずかしい兄の存在を隠したいってマジ酷くない? 

それでも血の繋がった兄弟かよ……。


「……あっ、は、はいっ!!」


「わ、私達だけの、ひ、秘密……も、もちろんですっ! 誰にも言いませんっ!」



ソラがいきなり変な口調になるから、御姉様が更に驚いているだろうが。


まぁいいか。


さて、座って貰って――。


「それでは僕達はこれで失礼しますね。本当にお願いしますね?――おにいちゃん 行こっ」


「は? えッ?……お、おぅ」


えええ? 今からお話とかするんじゃないの?

もう終わり???

 

御姉様はまだ何か言いたそうじゃん? 


まだ時間ならたっぷりあるし、この後に話が盛り上がってお友達になれるとかのイベントないの?


そんな俺の邪な思いなど完全に無視され、ソラが俺の手を引いて無理やり外に出された。


……折角のチャンスだったのになぁ。

まぁ所詮はソラ目当てだったみたいだし、期待はしてないがな。



しかし、寒い。

もうシェイク飲めないじゃないか……。


手に持ったこれ、どうするよ?



シェイクはソラに押し付け、人通りが多い大通りに出ると、様々な人達とすれ違う。

上空を見上げれば太陽が真上に上り、晴天。

空気も透き通ってはいるが、やはり寒い。

帽子とマスクに守られていない露出している肌が痛いぐらいだ。


「店を出ると一気に寒くなるな……早く買い物して帰るか」


「えー、もう少しゆっくりして行こうよ……それより、マスクとか外すのは別に良いけど、今度からソラのファンの人達とかに声を掛けられても、おにぃちゃんは絶対に写真を撮らせたり名乗ったらダメだよ。すぐネットに出されるて酷い目に合っちゃうよ」


マ、マジか……。


少し噛みまくりの自己紹介をしただけで、そんな事になるのか。ネット社会恐るべし。個人情報を守りきらねばな……まぁどうでもいい程度の個人情報ではあるが。


「お、おう……気を付ける」


それより、こんな男か女かわからんソラなのに、ファンって呼ぶ様な人達がいるのか? 

人の好みは様々だが……狂った世の中になったものだ。 



それから頼まれていた買い物の為に移動する。


そして、駅前にあるドンキに到着した。


店内に入ると、やはりチラチラと見られてる、気がする……。

今はマスクも帽子も眼鏡もフル装備しているから俺が怪しく見えるのか、もしくは先ほどの様にソラを見ているのかと、気にもなるが早く頼まれた物を買って家に帰れば良いだけなので、もうどうでもよくなった。


日用雑貨コーナーで掃除用品をカゴに入れ、ソラが少し店内を周りたいとの事だったので渋々に付いて行っている。


ソラは常に楽しそうにしているが、俺は早く帰りたいと思いながら店内をうろちょろしてると――。


「あれ? ソラくん? それに直弥も、偶然だねー」


俺の後方から声を掛けられた。


この声は――。


ソラと自分の名前を呼ばれ振り返ると、グレーのパーカーにジーンズにスニーカーとラフな格好をした沙織が目に入った。


「あ、沙織ちゃんだー! おひさー!」


「おっす。珍しいとこで会ったな」


ソラが馴れ馴れしい口調で話すが、俺の友達には何時もこんな感じだ。


「ちーっす。それはこっちが言いたいし、仲良くデートかな?」


「デートじゃないしっ! 父さんに少し頼まれて買い物に来ただけだしっ」


どいつもこいつもデートっていいやがって……。

俺の初デートがソラとなんて認めないからなっ!


まじで、どこをどう見たらデートに見えるんだよ。 


「ふぅん、でも仲良いいねー。私一人っ子だから羨ましいよ」


「羨ましくなんてねーよ。ソラが勝手に付いてきただけだしな」


「勝手にじゃないよー。おにぃちゃんがどうしても一緒に行こうって言ったからじゃん?」


「誰が言うんだよッ!!」


声を大にして言ちゃったじゃねーか。

周りから注目されたし……恥ずかしい。


「「あはははッ」」


「くッ」


しかし沙織は買い物にしては何も持ってないし、何をしているんだ?


「沙織は、こんなとこまで来て買い物か?」


「ううん。ちょっとネームに詰まちゃってね、気分転換に良いネタが無いかなと思って探しに来ただけだよ」


「へぇー、漫画家も大変なんだな」


「まぁね」


BLの世界も大変なんだなー。俺が一生見ることはないだろうがな。


「あっ、そうだ。どうせなら一緒に行動してもいい?」


「ん?、まぁ別にそれは良いけど、買い物が終わったら帰るぞ?」


早くお家に帰りたい。


「えー、早いよー! もっと遊びたいー」


「うるさいわ。帰るし」


「やだよぉ。せっかく遊びにきたのにぃー」


駄々を捏ねるな、ガキかよ。……ガキだった。


「まーまー、ソラくんも直弥も、私が奢るからさ、少し付き合ってよ」


「お、奢るだと……」


さらっと言いやがって。

これだから金持ちは……俺もカッコよくそんなセリフを言ってみたい。


「沙織ちゃん、どこに行きたいの?」


「んー、決まってはいないけど、適当に?」


決まってないんかいっ!


「なんだそれ? まぁ、少しなら別に良いけど……」


「おっ、流石は直弥は男前だよ! ソラくんもよかったね。まだデートできるよ?」


だーかーらー、デートじゃないとっ……ちぇ、もうどうでもいいや。


「わーい。沙織ちゃん、大好きー」


「ふふふっ、私もソラくん大好きだよ。直弥も付き合ってくれて、ありがと」


「ああ。だが、決して奢りに釣られた訳では無いからな?」


本当だよ?


「はいはい」


奢ってくれるなら断る理由は無い! プライドも無い!




そして、俺達は会計を済ませ、3人でドンキーから出た。


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