第18話 ソラとデート①
高校2年の2学期も終え、冬休みに入ってから4日が経過した。
これといった出来事も無い。それどころか朝のジョギング以外で外出はしていない。寒いからだ。
美香と智樹は冬休みが始まってから毎日この朝比奈家には来ている。まぁ主に勉強しに来てるだけなのだが。
しかし、智樹は近いから良いとして、美香は毎日来る必要あるのか?
俺は寂しく無くて良いけど。
もちろん一人で帰ると危ないから、美香のおばさんが送り迎えをしてくれている。まじで、そこまでしなくても……とは思うが。
しかも絶対に2人は時間を合わせて来るんだよな。どんだけ仲良いだよ。俺の家はデートスポットなのか?
ちくしょーうらやましいな、くそッ!
ってか、そんなに智樹と一緒にいたいなら、俺の家で無くても、とは思うのだが……そうなると、俺が寂しいから断らない。
それと、沙織は漫画の仕事をしているらしくて俺の家には冬休みに入ってからは来てはいない。大したものだ。BLを描いているのだけど。
そんな冬休みを過ごしている俺なのだが、本日は誰もこない。ちょっと寂しい。
理由は智樹が合同訓練との事で来れないからだ。そして、その智樹が来れないから美香に絶対行くなと言い出し、口論の末に渋々と美香が納得した感じ。
そんなに俺と2人にさせると心配なのかよ。大丈夫なのに。
まあ、チラチラとエロい目線では見てしまうけどな。
俺は基本的に友達と家族以外とは無駄な外出はしない。ってか、ぶっちゃけ一人で何処かに遊びに行った記憶すらも無いが。
そんな俺は現在、至福の二度寝から目を覚ましてからは暇を持て余し、リビングのソファーで寛いでいるところだ。
この家は父さんは殆ど毎日いるが、今日は珍しくソラもいる。
ソラは冬休みに入ってから何をしているかわからんが結構忙しいらしい。ガキの癖に生意気な。別段外出の時は女物の恰好もしないし、俺的にはどうでも良い。
そんなソラが廊下をドタバタと鳴らし、リビングのドアを開けて入って来た。
「おにぃちゃん! たまにはソラとデートに行こうよ!」
行き成り何を言っとるんだ。
「行くわけないだろうが。寝言は寝て言え」
しかも何がデートだよ。せめて遊びに行こうとぐらい言えんのか。それに俺は今忙しいだよ。見て分からんのか。
みかんの白いスジを取るのに忙しい。食べる方が栄養価は良いらしいが俺は白いスジを取る派だ。
「えー、折角今日は予定無いのに」
「しらんがな」
「ぶぅー」
頬を膨らますな。女々しいだろうが。
その兄弟のやり取りを温かい目で見ていた父さんがわざとらしい咳払いをして、俺とソラを注目させた。
「あ、そうだ。直弥君、ちょっと頼まれてくれないかな?」
「えぇー、な、何を?」
寒いから外どころか、リビングからも出たくないんだけどな……。
「年末の大掃除の道具の買い出しと、ついでにパパの仕事の書類を持って行って欲しいのだけど」
やっぱ外じゃん。
「……ぇぇ。寒いし、お家にいたい……」
「そう言わずにさー、お釣りは御小遣いにしていいから」
「えっ! それなら行く!」
何と太っ腹。クリスマスでかなり出費したし、助かります。
「やったー!」
俺が喜びを口に出すより先にソラが喜んだ。
「はぁ? なんでソラが喜ぶんだよ」
俺に頼まれただけだろうが。小遣いは渡さんぞ。
「だってぇ、一緒に行けるじゃん!」
「いくかっ! 一人で行くしッ!」
この歳になって初めてのお使いとなるけどな。
「えぇー、でもでも、おにぃちゃんは一人で外出は出来無いじゃん?」
「出来るわッ!」
た、たぶん……。
「ふふふっ、蒼空くんも一緒に行っておいで」
「えー」
「わーい!」
マジかよ……。父さんに言われるともう決定事項なんだよな。言い返すだけ時間の無駄だ。
「くそぅ……だが、小遣いは俺のだからな。びた一文やらん。それでもいいなら連れてってやる」
俺の一人占めで小遣い無しだぞ。俺なら100%お断り案件だ。
「もちろん、いいよー」
「いいのかよ……」
余裕ぶりやがって。俺の金欠が嘆かわしい。
「わぁーい、わぁーい、お兄ちゃんとデート! デート! やったぁー」
「はしゃぐなっ! しかも何がデートじゃっ! ただのお使いなのッ!」
部屋の中でピョンピョン跳ねやがって、鬱陶しい。
はぁ……中学2年生にもなって兄弟で出かけるのが、何が嬉しいんだよ。
すぐにソラが準備するとの事で自分の部屋に行き、俺は父さんから仕事の書類と買い物リストにお金を預かり、外出する服に着替えた。
諭吉様を預かったし……リストの内容からしてお釣りなら半分ぐらいはあるんじゃないのか……。
電車で2駅先に行かないとはいえ、それでも少し多過ぎる気もするけど、とりあえずラッキーだ。
「蒼空君とのデート費用も入ってるからね。楽しんでおいで」
「デート違うしッ!」
父さんまでデートって言うしッ!
それで必要以上にお金が多いのかよ……。
よし、直帰だな。
終わったら何にも目もくれずに帰ってやる。
それから少しすると、階段からソラが降りて来る。
「おにぃちゃん、おまたせー」
出掛ける準備の出来たソラの服装は、薄いピンクのジャケットに破れた黒のジーンズ。
ぴ、ぴんくって……。兄ちゃんドン引きだよ。
しかも真冬にその破れたズボンってどうなのよ。
女物では無そうだからまだ許せるが、それでも男らしくは見えない。
「おいおい、そんな寒そうな恰好で大丈夫か?」
「うんっ! 大丈夫だよ。全然寒くないよ」
「そ、そうか」
まぁソラが大丈夫って言うなら深くは言うまい。
男の、しかも弟のファッションセンスなど俺としてはどうでもいい。
因みに俺は、シャツの上にセーターを着て、下はジーンズ。外に出たらダウンジャケットをすぐ着れる様に今は手に持っている。
更には愛用のヒートテック上下、手袋にマフラー、帽子にマスクと、完全武装。
髪の毛のカットもそうだが、俺が身に着ける物までも殆ど自分では選ばない。家族や沙織曰く俺のセンスは世間一般的に見て絶望的らしい。俺的には良いとは思うし、服装だけなら美香と智樹は褒めてくれるんだけどな……。
だから、いつの頃からか父さんが買ってくる様になった。
高校生にもなってと思われるだろうが、自分のファッションには特に拘りも無いし、小遣を使う事も無く面倒くさいないので大変満足している。それもあり小遣いが少ないのだけど……。
「おにぃちゃん、行こっ!」
「ああ、そうだな。さっさと行って帰ってくるか」
「はーい。夕食までには帰ってくるねー」
「3時のおやつまでには帰るわ!」
そして、父さんに見送られながらに家を出る。
まずは駅を目指すのだが……やはり寒い。
「おにぃーちゃん。寒いから手を繋いでー」
「お断りだッ!」
「おにぃちゃんのけちー」
美香なら大歓迎だけどな。もう一回あの柔らかい手をプニプニしたい。
しかし、ソラはマジで何が楽しいのか……スキップまでしちゃってるし。
「おいっ、はしゃぎ過ぎだ。こけるなよ」
「やさしー。心配なんだ」
「……もう二度と言わん」
少し甘い言葉言えば変に返してきやがる。
ワハハハッとか言いながらに肩組んで歩ける様な弟になってくれないかな……。
それから電車に乗り予定の駅に到着すると、まずは父さんの仕事の書類を届ける為に目的のビルを目指した。駅から徒歩10分程度なのでそんなに遠くは無い。
「おにぃちゃん。その恰好だと、かなり怪しいよね」
「え? まじで?」
た、確かに……中学生を連れまわしてる不審者に見えなくも無いか……。
それで駅を降りてから、すれ違う人がチラチラと見られてたのか。
はぁ……だから一人が良かったんだよ。
「仕方ない。マスクを外すか」
寒いけど怪しまれて、注目を浴びるよりはいい。
顔面の面積を出してたら多少はマシだろう。
「んー、まぁ外さなくても良いと思うよ。デートの雰囲気では無いのが少し悲しいけど」
「だーかーら! デートとか言うなッ!」
外さなくていいのかよ。それなら言うなよな……。
「あははっ」
「まぁ良い。早く行くぞ」
「うんっ!」
そして、目的のビルに到着。
自動ドアが開き中に入って案内板を見ようとするも、ソラが慣れた足取りでエレベーターに乗り、すぐに目的の事務所に到着した。
ってか、ソラが道知ってるなら俺は別に来なくいても良かったんじゃないの? まぁ小遣い貰えるからいいけど。
中に入るとガラス張りの結構大きな事務所だ。
流石にマスクと帽子にマフラーは外したけど、チラチラと目線を感じるが不審者って思われて無いよな?
少し不安な気持ちで受付で名前を伝えると、担当が来るまで待って欲しいとの事だった。受付で待ってる間に事務所を見渡すと30人程の人達がデスクに座り、電話やパソコンをして忙しそうにしている。もう年末なのに冬季休暇ってないの?
大人になると大変だな……。
そんな事を思いながら待つ事数分、恰幅の良い中年男性が俺の前へとやってきた。
「お待たせしましたー。朝比奈さんから連絡もらってます。わざわざ有難う御座いました」
高校生の俺にでも丁寧な言葉で話掛けられたら、少し安心する。俺だけでは無く誰にでもそんな対応しているんだなと思うと緊張も解ける。
「いえ。何時も父がお世話になり、此方こそ有難う御座います。それではこれが書類になりますのでご確認下さい」
なので、俺も変な意識せずに、しっかりと受け応えが出来た。
自分に向けられた同年代の人の言葉は意識し過ぎて毎度テンパってしまうが、此れなら大丈夫そうだ。
俺も成長したのかと思うと、少し嬉しい。
「はい。――確かに。其れでは預からせて頂きますね」
「宜しくお願いします。それでは失礼します」
そして、受取書の代わりに簡単なメモ書きされた名刺を預かり、ビルから出る。
「おにぃーちゃん、すごーい! しっかりした対応でびっくりしちゃった」
「あたりまえだ。それぐらい出来るわ」
ふふん。どうだ。もっと褒めてもいいだぞ?
そもそも俺を何だと思ってるんだ。敬語も使えない程の馬鹿じゃないし、定型文ならコミュ力なんて関係無しにスラスラ言えるっての。
キラキラした眼差しで俺を見上げるソラに少し得意気になる。
「さて、次は買い物だな」
「ソラ、少し疲れたから休憩したーい」
「疲れたって……電車降りてから30分も立ってないだろうが」
「えー、疲れたよー、そこのマックで少しだけ休もうよぉー」
だから、ソラの我儘も何時もなら無視するが、少しぐらいはと思ってしまう。
……まぁ、多めにお金貰ったし、仕方ない。
「わかったよ……。だけど、少しだけだからな? ドリンクだけだからな!」
「うんっ! やったー!」
仕方なしにマックに入り、ソラはホットカフェラテを注文して、俺はマックシェイクバニラ味。……ソラのが高いし。
ドリンクを手に持ち、一番奥の席に座る。
「おにぃちゃんって寒がりの癖に、よく冬にアイスとか食べるよね。今もシェイクだし」
「まぁ、ソラも大人になったらわかる」
ふっ、この良さがわからんとは、ソラはおこちゃまだな。
「ふぅん。ソラもちょっと欲しい。一口頂戴」
「ん? まぁ別にいいが。一口だけだからな?」
俺のシェイクを渡すと、ストローで……はっ! ストローだと一口がわからんがな!
「飲みすぎだッ! 返せッ!」
「えー、まだそんなに飲んでないのにぃ」
「油断も隙も無い……」
「えへへっ、関節キッスだぁ」
「バカか、兄弟で何言ってんだ。気持ち悪い事を言うな」
「ぶぅー」
そんな馬鹿な事を言いながらに寛いでいると、二人の大学生ぐらいの女性が俺の視野に入った。
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