第20話 ソラとデート③
帽子と眼鏡にマスクの男の怪しい男に、パーカーを被り顔を出していない背の高い女。そして極め付きが男か女かわからん子供……やばい、滅茶苦茶に怪しいだろ。
何て組み合わせだ……。
「沙織……パーカーのフードを被るなよ」
「ふぅん。なんで?」
「あ、怪しいじゃねーか」
せめて沙織だけでも普通にいてくれ。
「それ……誰が見ても直弥の事だと思うけど?」
わかってるわっ。寒いから仕方ないんだよっ!
「はぁ? だったら沙織もこの状況が怪しいと思ってるじゃん? わかってるのにあえてかぶってるとか、ないわー」
「あははっ、ちょっと面白くて」
そして沙織はフードを脱ぎ顔を出し、俺もマスクは外そうかと思ったけど……やっぱりやめた。
そして、今は俺の前でご機嫌のソラと沙織が手を繋いで歩いている。
中2とはいえ男、見た目は美女の高2の女、普通は意識するだろうに。なぜあんなに躊躇い無く手とか繋げちゃうのかなぁ……すげーなソラ。リア充、恐るべし。
「それで、どこ行くんだ? マックならもういちゃったぞ?」
「あー、昼食食べ終わったのかー」
「え?、いや。食べてないけど?」
「は? もうお昼過ぎてるけど? 食べてから来たの?」
「いや。食べてないし、マックではドリンクだけだな」
「なら、なんで?」
「ソラが休憩したいって我儘を言うから行っただけだし、すぐ帰る予定だったしな」
「……なるほど。状況が理解出来てきた。信弥さんが直弥とソラくんにお使いついでに遊ぶお金渡したのに、悪いお兄ちゃんが独り占めしようとしているって、そんなところか……なんて可哀そうなソラくん」
「ばッ、そ、そんな訳あるかッ!」
めっちゃ当たってるし。コナンくんかよ。
「そんなことないよー。おにぃちゃんと出かけるだけでソラは楽しいから!」
「あーん! ホント健気でいい子ー。かわいいーッ! お兄ちゃんみたいに皮肉れたらダメだよー」
「馬鹿言え、ピュア過ぎてやばいぐらいだし」
「ソラくんが?」
「俺がだよッ! 俺が!」
「「…………」」
何言ってんだよ。ホントまじで聖人になれるレベルだっての。
「あっ、良いこと考えた。これなら私もプラスだし、直弥とソラくんにもいいかな」
すげぇスルーされたけど……何をする気だよ。
「な、なんだよ……ちょっと嫌な予感するんだけど?」
「ふふふん。直弥にソラくん、一人3000円のランチ食べたくない?」
「「――えっ?」」
「ひ、ひとり……さ、さんぜんえん、だとッ!」
何そのセレブ飯……。
「結構有名な焼肉店が近くにあるんだけど、そこのランチが超美味しいよ?」
や、焼肉……ゴクリ……。
「や、やぶさかではない、な……」
「そんな高級ところ、悪いからいいよー」
ばぁっか! 何言ってんのッ! 焼肉だぞ? 3000円だぞ!?
「ソラくんなら遠慮しちゃうから、そー言うと思ったよ。だけど勿論、私もメリットあるから気にしなくて大丈夫だよ」
「「メリット?」」
俺が即オッケーしたのが悪者みたいじゃないか……しかし、沙織に何の特があるんだ?
「そーそ。仕事用で見本の画像が欲しいから2人をモデルに写真に撮りたいってだけ。簡単でしょ?」
「ふむ。まぁ撮りたいなら勝手にすればいいが、それだけで焼肉食べてもいいのか?」
「いいよー。まぁ少しだけ、こちらから要求もするけどね。それぐらいなら良いでしょ?」
「えー、そんなのだけじゃ、やっぱり悪いよー」
「まーまー、それに―――」
遠慮気味のソラの耳に顔を近付け何やらゴニョゴニョと言ってる、沙織。
なぜ、俺に聞こえなくするのか……。
ソラも素直に受けけばいいものを。簡単に高級肉が食えるのに文句言うなよな。俺には遠慮が無い癖に。
「何をこそこそしてるのよ……」
「――なるほどっ! 確かにみんなハッピーだね! それなら御馳走になります!」
「うんうん!」
「えっ? 何?」
意味わからん。
「いいから、いいからー。豪華なお肉が待ってるよー!」
「はーい!」
「……お、おう」
何か悪い予感がする。だがまぁ3000円の肉の為だ。
ここで脱げとか以外なら、いけるッ!
「さて、とりあえず直弥はマスクだけ外そうか?」
「はい?……寒いからヤダよ」
「焼肉食べたくないの?」
くっ、早速要求かよ。楽に食べさせてくれんな。
「……わかったよ」
背に腹は代えられん。
「次は、ソラくんと手を繋いでね」
「はあ? なんでだよッ! 嫌だしッ!」
「3000円の焼肉ランチだよ? 美味しいよ?」
くっ、それを言われると……。
「……仕方ない」
「やったー! おにぃちゃんと手を繋いで歩けるー」
たかが手を繋いで歩くぐらいで何が嬉しいだ。これが美香なら俺も嬉しいが……。
「ソラくん、良かったねー!」
「うん!」
「くそ……、ほれっ、勝手に握れ!」
ああ……美香の手の余韻がまだ残ってたのに……上書きされちまった。
そして、ソラと手を繋ぎ、大通りを歩く。
「なぁ……めっちゃ見られてないか? 気のせいじゃないだろ?」
「気にしない、気にしない」
「ふふふっ、まぁ当然そうなるよね。ソラくん可愛いからね」
可愛い? ソラが?
……世の中、間違ってると叫びたい。
その後もジロジロ見られながら羞恥心に耐え、目的の焼肉店に到着した。
俺は余り外食はしないからわからないが、高級な感じの店だ。昼の時間も過ぎている事も有り、店内も比較的に空いている。
ウェイトレスが来て沙織が個室でと伝えると案内され、靴と帽子にマスクを脱ぎ中に入った。
「ぉう……スゲー場違い感。やっばいな」
政治家とか来てそうな感じ。
「あははっ。まぁ、学生が来る様なとこじゃないよね。でも、個室だし楽にしてて良いよ」
「それならいいけど……」
案内された部屋は奇麗でお洒落な個室で、逆に落ち着かない。両親にすらこんな所に連れてって貰った事ないぞ。
ソワソワした気分で待つこと数分……本当に3000円のお肉様が登場されました。
だが……。
「わぁー! すごーい! 超おいしそー!」
そこには小さく切り分けられ、櫛に刺さった肉やら、芸術の様に奇麗に並べられた……少量のお肉が目の前に。
「こ、これだけ?」
「うん。お肉はこれだけかな。でも後でデザートとかも来るよ」
ま、まじか……。
「これだけで3000円とか、しちゃうのか……」
「そっち? 普通はソラくんみたいな言葉が出るんだけど……やっぱり直弥って少しずれてるよね……しかも、それを口に出すとか、失礼極まりないよね」
「親しい仲だから、思ってる事を何でも言えるんだって」
「ふぅん。まぁ、そう言う事にしといてあげる」
肉にうるさい俺の要望で焼肉は時々あるが、殆どが家で食べる。
外食で焼肉屋さんのイメージってもっと雑に盛られた肉がいっぱいって感じなんだが。それなのに、この量でその値段なのがマジでびっくりしたわ……。
「普通はこれぐらいだって。コースみたいなものだから、お肉以外にも色々と有るしね。それに私のも少し食べていいから我慢しなさい」
「わ、わかった……」
「量より質よ。とりあえず美味しいから食べてみなさいな」
「うん」
では、実食だッ! 3000円を。
「あっ! 待って! とりあえず席変わって。私と直弥が交代ね。それと眼鏡外して」
ん? 席は変わるのは別にいいが、眼鏡を外す?
「ああ、確かに曇るしな」
「……まぁ、そう言う事で」
とりあえず眼鏡を外し、席を移動して、今は俺とソラが並んで座り向いに沙織が座ってる。
今は、ペットの『待て』状態
「さてと……用意も終わったし食べていいよ」
「やっとかッ!」
「はーい」
席座ってから、沙織に細かい位置決められるし、スマホ用意して待たされたがやっと実食。
『いただきます』を合図に、どの肉から焼くか物色する。
「ってかさー、食べるのは良いが、スマホをこっちに向けらると、落ち着いて食べれないんだけど?」
「気にしないで。それに、それはこのお肉の対価と思って我慢してよ。一応は仕事だから動画も撮るかもだけど」
食べるとこ撮るのが仕事の参考になるのか?
「そうか……。まぁいいや」
さて、まずは――。
何と言ってもテーブルに置かれた時から目を引く、ヒレ肉。
見るからに脂の甘みが有りそうで、肉質がやばい。もっと分厚く切ってステーキで食べたい。
それをトングで取り、炭火でよく焼けた網に乗せる。
炭火は弱火。じっくり焼くとポタポタと油が零れ食欲をそそる音に匂いが鼻を通り食欲を刺激する。すぐに裏返し、あまり火を通しすぎないうちに俺の口へと――。
――美味いッ!
やっべええええええッ!
何これ。何なのよ、これッ!
良質な肉の旨味が口の中に広がる。赤身なのに柔らかいとか、やばすぎ。
天にも昇りそうな至福な表情で食べているが、沙織さん――。
ガン見し過ぎじゃない……?
すっごい、気になるんだけど。
そして何気にチラっとソラを見るが――。
「おいッ! ソラ! それ焼き過ぎだッ! 焦げそうじゃないか、勿体ない。俺が焼いてやるから少し待て」
「うん。ありがとー」
「よく見て焼けよ……」
「ぐふッ いいわぁ!」
えっ?
ぐ、ぐふ? って聞こえたような……。
聞き間違いか?
まぁ、いい。
俺は気にせず、自分のを焼く。序にソラのも。
少量だからすぐに至福のヒレが食べ終わり、次はカルビに手を付ける。
ヒレと同じように余り火が通さない内に、ぱくり。
これも、うめええええええええええッ!
やや硬めだが、この甘い脂が堪りませんっ!
次の霜降りロースは脂が凄く、本当に白い。
口に中に入れれば溶けて無くなり肉の旨味だけが残る。
うん。量より質――全然、有りッ!
頬っぺたが落ちそうな表情のままにソラのも焼く。
「よし、これぐらいだ。食べていいぞ」
「はーい」
満足している俺を見る、満足そうな顔をしている沙織。
さっきから俺達にスマホ向けてるだけで、食べて無いじゃん。
いらないなら俺が食べようか?
「うんうん、良い感じになって来た事だし、さて、いってみようかな」
「え? 何を?」
突然何を言い出すんだ。
ってか、沙織が俺達を見すぎでちょっと怖い……。
「直弥。ソラくんにお肉をふーふーしてあげて」
「は? 何言ってるんだ?」
あっ。肉が焦げる。
「だから、ふーふーしてあげて! 口答えしないで早くッ!」
「えっ……はい」
そこキレるとこなの?
目が血走ってる様な……何なの? 凄いやばそうなんだけど。
取り合えず奢って貰ってるし、逆らわない方が良さそうだな……。
メインで食べようとシャトーブリアンを丁度焼いていた処なのでまずは俺が食べ、次にソラのを焼き、ふーふーしてタレが全体に付かない様にタレ皿の端に置く。
「ほ、ほら……。ソラ食え……」
「うんっ!」
ソラが箸に手をやると、沙織が溜息を零し、そして――。
「ちっがあああう! あーん。で食べさせてあげるの! わかった!?」
凄い形相で怒られた。
怖いから反論なんてもうしません。言われた通りに致します。
「わ、わかった……あ、あーん」
「あーん」
俺が小刻みに震える箸で肉を口に運ぶと、モグモグと小さい口を動かし食べるソラ。満面の笑顔がちょっとむかつく。
「おにぃちゃんに食べさせて貰ったら凄くおいしーッ!」
「そ、そうか……」
「うひゃッ! いいねー、ソラくん凄くいいよー。直弥はもっと笑顔でッ!」
う、うひゃ?
キャラが完全におかしいんだけど……何なの? 何なのこれ?
「さ、沙織……どうしたんだ? ちょっと怖い」
「え……? あっ、ごめん。仕事モードに入っちゃうと、ちょっとだけ熱中しちゃうのよね」
「ちょっと……なの?」
いやいや、別の人格なってんじゃん。落ち着いて食べれないし。
「まぁ、気にしないで。これも食べていいから。さぁ続きいってみよー!」
「お、おう」
沙織が自分の肉も俺に渡して来た。
もちろん貰えるなら食べる。
次にホルモン系、ミノ、ハチノス、センマイを順にさっと軽く焼いて食べる。
このコリコリした食感が堪らない。
凄く美味しいのだけれどもッ!
なぜ、俺がソラの頭を撫でながら食べねばいかんのだ……。
ソラも文句の一つでも言ってやれよ。俺なら気が散って仕方ないわ。
沙織の要望を受け入れながら、マルチョウ、シマチョウ、テッポウを焼き始める。
身が縮み、それ以上縮まなくなったところで網から取り出す。
それを俺が食べ、次にソラの口へと運ぶ。
これは作業だと思うと、もう慣れた。
脂っこい口を癒す為にドライアイスに纏われたワイングラスに入った生野菜のスティックを取り出し、俺が口で咥える。
そしてそのまま、ソラの口へと……。
出来るかッ!! 調子のるなッ!!
流石に幾ら肉の為でも出来るかッ!、と強めに言うと沙織が残念そうに諦めた。
ソラまで残念そうにするなッ!
それからも色々と沙織からの要望は続き、完食となった。
甘い言葉には気を付けよう。特に沙織には。
そして最初は少ないと思ってはいたが、満足したお腹で店を出た。
「ありがとー。良いのが撮れたよ! インスピレーションでまくりっ、今ならいっぱい描けそう!」
「そ、そうか……それは良かった。お役に立てて光栄でした……」
変な要求しなければ心から感謝したんだが……。
「ソラも楽しかったし、美味しかったー」
「そっか、そっかー! また一緒に行こうね!」
「うんっ!」
「…………」
いえ、もうこの3人で行くのは二度と御免です。
「あっ、美香が既読になった」
「へ? 何が?」
「直弥は気にしないで良い事だよ。ぷっ、スタ爆じゃん。画像を送ったら完全にパニクってるわ」
「沙織ちゃん、ソラも欲しいー」
「いいよー、後で送っとくねー」
「はーい。よろしくー!」
トークについて行けない自分が悲しい……。
それから3人で電車に乗って駅まで帰ってから沙織と別れ、ソラと帰宅した。
その日の夕食も普段と同じぐらいは食べました。
しかし、お金儲けって大変だよねー。色んな意味で。
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