第21話 大晦日の大掃除
今年も最後の日となった。
12月31日。1年を締めくくる大切な日。
大掃除をしたり、正月飾りを飾ったり、年越しそばを食べたり、除夜の鐘を聞いたりする。全ては日本の古きからの風習。
それが、大晦日。
そして、我が朝比奈家でも今は大掃除中だ。
父さんと母さんにソラ、助っ人に来た沙織が1階を。
2階にある俺の部屋は、同じく助っ人に来てくれた美香と掃除中。
毎年の事ではあるが、親友達には本当に感謝する。
俺一人だと部屋だけで泣きそうになる……。
もちろん、美香達が掃除の手伝いに来てくれるのだから、俺のコレクションであるアイドル写真集水着多めは、事前に隠している。
だが、智樹はいない。年末は自分の家の掃除が凄いからだ。
昔からの名家らしくて大きくて広い。更には智樹の住居は警備会社と兼用していることもあり人の出入りが激しく、数日掛けて出勤可能な従業員までも一緒に大掃除をするらしい。マジで大変そうだ。
何度も行ってはいるが、道場や広い庭にある野外の稽古場、何台もの車に道具。それらの大掃除ともなる。俺なら間違い無く逃げ出す。
お互いの家の大掃除も毎年の恒例事にはなってはいるけど、最初の頃は智樹が来れないから、美香にも来るなと言い争いになり、お互いに譲らなかった。だけど、それを落ち着かせたのが沙織。美香と一緒にいるから大丈夫との事で何とか決着がついた。
確かに、俺と二人っきりとか、心配にもなるよな。
スケベだから絶対にチラチラ見ちゃうし……まぁ、今も見てるけど。
そもそも、女性が前屈みになって胸の谷間が見えてるのに、健全な男子がスルー出来るとか無理じゃん? 絶対無理だし。
おかげで脳内フォルダーが凄い事になってる。
でも、残念なのがスカートじゃないのよね……。
掃除だから仕方は無いんだろうけど、凄く残念だ。
そこまでして、何故に俺の家を掃除するのかって疑問になるけど、これにも一応の理由があるらしい。俺が言い出した訳じゃないから。
理由は、1年を通して一番みんなが来るのが俺の家ってだけ。
割合だと、俺の家6割、美香の家3割、智樹と沙織を合わせて1割って感じ。
智樹の家は仕事を兼ねてるので迷惑になるので余り行かないし、沙織も部屋の中が仕事場状態で嫌がる。そうなると俺と美香となるんだけど、何時の間にか俺の家で集まる割合が美香の家を上回った。
そして、みんなの居場所だからって理由で、大晦日は一緒に掃除を手伝ってくれてる。でも、智樹だけは大晦日の前かな。ぶっちゃけ凄く助かるんだけど、そこまでしてくれなくてもって思っちゃうんだよね。凄く罪悪感にかられるし。
そんな事を思い、美香が掃除機をかけている後ろ姿をチラチラと観察しながら、俺はタンスの中の掃除をしている。すると、突然だらしない顔をしている俺の方に美香が振り向いた。
やばっ、エロ視線を感知されたか……?
「直弥くん。ベット下の掃除機が終わったよー。後は目に入り難いところはどこだろ……」
うん。大丈夫だな。
「ん? 後は自分でするから美香は休んでていいよ」
「だーめ。隅から隅まで掃除しないとだからね?」
「もう結構、隅々までしたと思うけど?」
なぜ、そんなにお宝探しをする様に掃除するんだよ……。
あれがばれたらヤバいだろ。
「まだだよー、押し入れは直弥くんがしてるし、後はその天上かなー」
「――えッ!? ちょッ! そこは俺がするから、マジでいいってッ!!」
やばい! やばい! やばい! マジでやばい!
「ふふふっ……なるほど。そこが凄く汚れているんだね! 頑張って掃除するからね!」
上機嫌で押し入れに行こうとする美香。
非常事態だ……何か回避策は無いか? 無いのか?
あんなえっちぃな水着の写真集なんて見られたら軽蔑されるどころじゃ済まないぞ。
「い、いや……美香は、えーっと……ほら、他の所を……掃除してよ!」
「えー、他の所って、直弥くんが今片付けてるタンスの中しかないよ?」
「!!――そうだっ! このタンスの中をお願いする!」
「……えっ、タ、タンスの中を掃除して、良いの?」
いやいや、俺がお願いする方だから。
「も、もちろんだ……あ、でも下着とか入ってるから、きついか……」
流石に不味いか……。
「し、したぎ……ぜ、全然大丈夫だよッ! パ、パパの下着とかも洗濯した事も有るしっ! ま、任せてッ!」
いいの?
流石に男物の下着って聞いて、動揺してるっぽいけど……。
んー、まぁでも、シャツが殆どで数枚だけがパンツだし、大丈夫か。
「……それなら、お願いしようかな」
ふぅ、これで何とか誤魔化せたな。やばかったぜ。
あれを見られて軽蔑されるよりか、まだ下着を見られる方が断然良い。
だけど、なんでそんなに掃除したいんだよ……。そんなに潔癖症だったかな?
確かに美香の部屋は奇麗だから有り得るか。
「が、がんばるねっ!」
そんなに気合入れる程の事では無いと思うが……。
あっ――。
「序にその引き出しにあるインナー類、そこの紙袋に詰めてくれると助かる」
「え? どうして?」
「少し伸びたり傷んでるから、捨てる」
「……。……な、なるほど」
凄い間があったけど、流石に図々しかったかな?
「もちろん洗濯してるから」
「……う、うん」
その後すぐに、俺は天上を掃除しながら宝物を奥へ奥へと押し込んだ。
美香はタンスから服を全部出し、丁寧に畳んで、仕分けして、入れ直し整頓中。
「美香……捨てるやつだからさ、畳まなくてもいいよ?」
「……だめ、かさ張るから」
「そうか?」
俺の下着を照れながらにも丁寧に畳む姿……。
ふむ、これは、これで結構やばいな。
「……そうだよ」
マジで美香の女子力高すぎるだろ。
良い嫁さんになるんだろうな……未来の旦那に嫉妬するぜ。
それから暫くして、ある程度は俺の部屋の掃除も終わり、1階の掃除組と合流する為に部屋を出た。
「おつかれー。美香ありがとな」
「……ううん。大丈夫だよ」
あれから急によそよそしくなちゃったけど、そんなに恥ずかしかったのか。
悪い事をしたな。
「ああ、そうだ。その捨てるのは俺が他のゴミと一緒に持っていくよ」
捨てるだけだし、そんな壊れ物を持つ様にしなくても。
「こ、これは……あ、あれだよ。この地域は衣服は不燃ゴミになるから一緒には捨てれないよ。私の家で一緒に出しとくから……も、持って帰るね」
「へぇー、そうだったのか。でも、そこまでしなくても大丈夫だよ?」
「ぜ、全然、全く大丈夫だよ! 私の家も処分する服が多いから気にしないで」
「そっかー。何か悪いな」
「……いえいえ。本当に気にしないで」
「おう。ではお言葉に甘えるわ。マジで助かるよ」
「……うん」
美香は詳しいな。
主婦スキルまで備えてるとか、流石だよ。
そして1階のリビングに入ると、沙織とソラが向かい合って仲良さそうに何かを整理をしていた。
「沙織にソラ、おつかれー。俺の部屋終わったけど、こっちもある程度は終わったのか?」
「「おつかれー」」
「うん。後は小物の整理ぐらいしかすることがないよー」
「そっかー。父さんと母さんは自室の掃除か?」
「パパはそうだねー。ママは少し前に出かけたよ」
おいおい、母さんは絶対に掃除に飽きて、逃げたな。
「そ、そうか」
「ん? 美香。その紙袋は何?」
沙織が美香の手に持ってる紙袋が気になったみたいだ。
「……こ、これは「ああ、俺の古着だよ。美香の家で一緒に捨ててくれるらしいから、悪いけどお願いしたやつだ」」
美香が説明しようとしたが、俺が遮る様に答えてしまった。
「美香ちゃん、やさしぃー」
「……そ、う、なんだ」
「……」
沙織も流石に呆れらるよな。驚いてるのかわからない程の凄い顔になってるし……図々しいのは俺もわかってる。流石に甘え過ぎか。
「やはりゴミまで持ち帰って貰うとか、流石に「だ、大丈夫!」」
「お、おう」
さっき話を被せたお返しかよ。吃驚したし。
「……ま、まぁ、直弥が良いなら……」
「そりゃ俺も助かるし?」
沙織は何言ってんだ。俺の許可が必要あるのか?
んー、まぁ、いっか。
父さんは他の場所を少し掃除すると言って部屋から出て、残りの俺達全員で小物などの整理をして終り、リビングで雑談中。
1時間程してから、リビングのドアがガチャっと開くと、父さんがに入って来た。
「皆さん、お疲れさまでした。美香さん、沙織さん手伝ってくれて有難う。毎年だけど本当に助かるよ」
「いえいえー。私の家はマンションだからすぐ終わるし、大丈夫ですよ」
「私の家も終わってますから気になさらないで下さい。それに、結構な頻度で御自宅にお邪魔していますし、御手伝いをさせて頂くのは当然です」
沙織と美香が謙虚に言うが、本当に助かった。
「そう言って貰えると助かるよ。智樹君も先日手伝いに来てくれたし、直弥くんは本当に良い友達に巡り合えたね。パパは凄く嬉しいよ」
「ソラも嬉しぃー」
うんうん。本当に良い友達だよなー。
俺程度には勿体なくて涙が出そう。
「さて、一応全部終わったから、飲み物でも用意するので寛いでてねー」
「あっ、お義父さま、私も手伝いますね」
「そうかい? それなら運んで貰えるかな?」
「はいッ!」
美香って俺の両親に対面すると父と母呼びに変わるんだよね。親しい中にも礼儀ありってやつか。
俺みたいに、他人の両親をおじ、おば呼びってやっぱり失礼なのかな……。
でも、少し恥ずかしいし、俺には真似出来んな。
流石は御嬢様育ちは凡人とは違うわ。
そして全員にドリンクが運ばれ、父さんも加わり雑談が再開する。
しかし……なぜ美香は俺の横にいるんだよ。チラ見しにくいじゃん。
「そういえば、明日の初詣の準備は出来てるかな?」
「はい。大丈夫です」
「私も、勿論大丈夫です。父も母も楽しみにしていますので」
「ソラも楽しみー!」
「……え? 準備? 何の?」
はい? 沙織や美香、ソラですらわかってるみたいだし、俺だけ知らないの?
毎年恒例の全家族集合で初詣行くとしか、聞いてないんだけど……。
「直弥君は何も心配しないで大丈夫だからね。パパが用意しているからね」
「えっ、心配するしッ! クリスマスの事わすれたの?」
大丈夫って、嫌な予感しかしないんだけど……。
去年は堅苦しい派手なスーツ着せられたし、今年もまた着るのかと思うと憂鬱にもなる。
「あははっ、大丈夫だよ。去年は洋服だったから、今年は和服で着物になるだけだからね。そんなに大変じゃないよ」
「そーだよ。ソラも着物着るんだー!」
ふむ。スーツでは無く、今年は着物か。
数年前にも着た事あるし、それなら大丈夫かな。
「そうなんだ。まあ、確かに着物は準備が大変だね」
「うんうん。気楽にしてればいいよ」
今年は去年程に大袈裟にならなさそうだ。
「直弥くんの和服……楽しみだね。えへへへ」
「美香……顔がやばいことになってる」
「ほぇっ」
えっ、何がやばいの?
すぐに横を振り向いたけど……何時ものお綺麗な御嬢様顔だよ?
それから、ダラダラと4人でテレビを見たり話しをしたりと時間を過ごし、夕食前に美香のおじさんが迎えに来ると、美香と沙織は一緒に帰って行った。
入れ違いでマスクを着けた母さんが帰ってきたけど、凄く煙草臭く……間違い無くパチンコに行って時間を潰していたのだろう。だが、家族の誰も問い詰めなかった。
その後はお決まりの年越しそばを家族で食べ、紅白を見て和気藹々と過ごす。
もちろん格闘技番組を強く推薦したが、問答無用で母さんに却下されたのだけど。
自分の部屋にもテレビが欲しい……。
しかし、紅白って眠くなるんだよね。
案の状、午後9時を過ぎた辺りで記憶が途切れ、ソファーで寝てしまっていたようだ。しかも、起きたら母さんに膝枕されてたし……。高校生にもなって恥ずかしいわッ!
そして、年明け直前に美香から電話がかかってきた。
少し話をして、現在11時59分。
「直弥くん、もうすぐ年が明けるよー!」
「あ、うん」
年明けまでのカウントが始まる。
「10――――3、2、1」
「明けましておめでとう御座います。本年もよろしくお願いします!」
「あけおめー。今年もよろしく!」
その後、美香との電話を切り、家族に挨拶をすると、次は智樹、沙織と電話が掛かってきた。
そして、新年の挨拶が早くも終わり――。
部屋に戻って……寝た。
良い初夢が見れますようにと願いながらに。
出来たら、えっちぃなやつをと、強く願いながらに。
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