第3話 上級生からのお誘い



 俺の家と智樹の家は数軒しか離れていない程に近い。次に美香、一番遠いのが沙織。全員が歩いて行けない距離では無い。

 そして、毎日3人と登下校をし、更に休日もほぼ一緒にいる。


 そんな日常となっている4人での通学路を進む。

 周りからの視線にも既に慣れたものだ。


 高台に聳え立つ学校の正門に近づくと、自転車通学で一人で通学する人、友人達と仲良さそうに通学する人、正門前で挨拶を交わしている先生などが目に入って来る。


 俺達に気付いたのか、こちらを見てくる人が増えて来た。

 やはり俺達は目立つ……いや、俺以外か。

 足を止め、わざわざ引き返してまで挨拶に来る人もいるぐらいだ。

 お目当ては勿論のことに俺以外の3人だけど。


 俺達を囲み、キャッキャッと楽しそうな声が聞こえる。

 しかし俺だけその楽しそうな会話に入っていけない。


 何時までも陰キャのままではダメだな……。

 会話に参加しなければ。


 さあ、誰でもいい、俺に話しかけてくれ!


 と、他人任せなご都合主義を毎回思うが……やはり今日も誰も話し掛けてはくれない。


 俺もカースト上位者のお零れ貰って充実した朝のトークをしたいのに。挨拶するだけでも目を逸らされるし、会話でもしようものならコミュ力モンスターの3人が横から入って来て存在をかき消される。


 俺がコミュ力底辺だと知ってる3人がいじめられない様に気を利かせてくれてるのはわかるが、わかるのだが俺も朝のリア充トークに参加したいものだ。


 まぁ、しかし3人がいなければ、間違いなく俺はぼっちだろう。


 だが、親友の3人の気配りはとても嬉しい。それなのに贅沢だと言われるかもしれない……しかし、よく考えるとカースト上位者と常に一緒にいるおかげで俺は金魚の糞のキモヲタ分類になっているのではないかと……最近は思ってしまったりもする。


 ドラマに映画、更には漫画やアニメも大好きな方だけど、家族以外にはオタだとバレていないはずだ……。


 まぁ確かにイケメンではない。

 眼鏡もかけて暗そうに見える。いや、実際に暗いか。

 身体つきも憧れのゴリマッチョには程遠い。


 でも、仕方ないじゃないの? 

 出来る限り食べて鍛えてるけど体は大きくならないし、更にこんなキモい顔を晒け出す方が一緒にいる3人が可哀そうだ。


 そんな少しの罪悪感と羨ましい思いを抱きながら、3人の様子を伺った。

 智樹と俺が横並びで美香と沙織が後ろから付いて来る。そして学校の正門を潜ると俺達を目にしたクラスの人達が寄ってきた。そして全員で校舎に向かう。


 横を見ると智樹の周りには男性陣、後ろを振り返ると美香と沙織には女性陣、まあ、ほぼ毎日こんな感じ。


 おまけの俺にも時々話掛けてくれる人達もいるのだけど、コミュ力の低い俺では話が弾まない。見かねた3人が何時も助けてくれるから大丈夫なんだけど。


「あ、あさひなくん、テ、テストどうだった?」


 ボーっとそんな事を考えていると、突然に後方からクラスの女の子に話かけられた。


 おッ、キター!? 

 数少ないお零れトーク――逃しません。


 少し興奮し勢いよく振り向いたおかげで眼鏡がずれてしまうハプニングはあったが、些細な事だ。


「こ、今回もなんとか、大丈夫だったかな。あはははっ」


 クイっと指で眼鏡を戻しながらに平常心を心がけて答えた。

 今まで話した事無いから名前は憶えていないけど、よく朝に一緒になる3人の友人。そんな身近な人ですら俺のみじんこ並みのコミュ力。マジで悲しくなる。


 だけど、笑顔も忘れず自然だったはず……多分、大丈夫。


「…………」


 思い切り目逸されてるし……なんでやねん。

 トークのキャチボールしようよ。

 もう俺には興味なし? 

 それともキモかったかな?


「えっと……とりあえずゴメン、ね……?」


 よくわからないけど、取り合えず謝っといた。

 今度からもう少しぐらいは普通に話せるように努力するから避けないでね。


「……ぁッ!?、いや、ちが―――」


「うんうん。直弥くんは今回のテストは頑張ったからね!」


「ああ、そうだ。直弥は頑張った」


「ぷっ」


 後ろから美香が、横から智樹が何か言ってる友人の話をかぶせてまでフォローしてくれた。助かった。空気読めないヤツだって思われるとこだったし。しかし、沙織は笑わなくてもいいじゃん?


 それからは、俺に話かけないように3人が気を使ってくれた。

 なんて友達思いなんだろうか。

 優しい……涙が出そう。

 主に自分のコミュ力の低さにだけど。


 そして日常的な学校生活が始まっていく。


 △▼


 一学年の時は、智樹と美香と俺が一緒で沙織だけ違うクラスだったけど、2学年になって同じクラスには美香だけとなった。


 一学年も二学年もクラス決まってからが大変だった。今は落ち着いてるけど。

 すぐに、智樹に寄って来るメス達に美香や沙織に寄って来るオス達。

 その中に俺がいる訳でさ――拷問かと、思ったね。


 美香と沙織はキッパリと断っちゃうからわからなくは無いのだけど、智樹の場合が不思議……寄って来る女の子とかさ、少し話して何か渡すとそれ以上は近付いてこないんだよ? 何渡してんだろ?――マジで謎、教えてもくれないし。


 そうして、少しずつ減って行って、今は同学年の人達は過剰に絡んでは来ない。特に俺には殆ど絡んでこない――すこし寂しいし。

 まぁ3人が授業以外は必ずと言っていい程に一緒にいてくれるんだけどね。


 でも、俺……彼女できるの? 心配しちゃうんだけど……。


 そして、今日も1時間目から始まり昼までは何時もと同じ、しかし今日は昼休みに教室で4人が集まり食事をしていると、突然教室に入ってきた先輩が美香と沙織に学校が終わってから遊ばないかと、誘っていた。


 同級生の人達は殆どこういったナンパ紛いの事は言ってこないけど、一部の下級生と特に卒業間近の上級生はお構い無しに来るんだよね。


 だけど、何時もの如く完璧なスマイルとテンプレ化している丁重な断り文を伝える美香。逆に素気無く断る沙織。


 よくある状景ではあるのだけど、美香は問題無さそうだが、沙織は一応先輩なんだし少しは丁寧に断れないものかね。

 一緒にいる俺と智樹がとばっちり食らうんだけど……去る時に俺の方を見て舌打ちされちゃったし。

 確かに俺がジロジロ見てたのも悪いんだけど、智樹は他人事の様にしてるのもどうかと思うよ? 信じてるからなのかな?


 そして、更に時間が過ぎ15時過ぎの6時間目が終わってすぐに、昼に来た先輩達がまた来ると、懲りもせずに美香と沙織を誘っている。


 しかも今回は4名様が美香と沙織を口説き落としております。

 昼休みは3人だったけど、今回は4人。兎に角に全員がチャラいし一番に派手は人の香水がキツ過ぎだろ。トイレの消臭力かよってぐらい。


 だけど、追加した先輩は結構有名な人みたいだ。

 クラスの人達の会話が聞こえたけど、イケメンで読者モデルしてる人だとか言ってるし。


 んー、俺にはその先輩のカッコ良さが、全くわからないんだけど……。


 しかし3年生だし、今こんなことしている暇があるのかと、不思議にも思うが……大学入試とか色々と大丈夫なのか?


 だけど、今回はしつこいな。遠目からクラスの人達も見ているけど、断られても引き下がらない姿にかなり引き気味だ。 


「――そんなに遠慮しないでさー、とりあえず一緒いこうよー。ぜってー楽しいからさー」


 ちょっと先輩の声が大きくなってきたし。


「すみません。お昼にもお断りさせて頂きましたが、帰宅後に予定もありますので」


「えー、いいじゃん。少しだけだからさー」


「先輩しつこいですね。行かないって言ってるの。言葉わからない?」


 おっと、余りのしつこさに沙織がキレだしたぞ。やばいな。

 智樹は――無視ですか。


「はぁ? なんなの? しかもタメ口? ちょっと顔いいからって調子乗ってんじゃね?」


 あッ! やばい、イケメン?先輩キレかけだし、これは、かなりやばい。


「お褒め頂いてありがと。さて、もういいでしょ? 諦めて男4人で行きなよ」


「なッ――」


 うわぁ……沙織が激オコだし。

 イケメン?先輩の顔が真っ赤になってるじゃん……。


「ちょっと……沙織、言い過ぎだよぉ」


そうだね。美香の言う通り、沙織は少しヒートアップしすぎだね。


「美香もこんな輩は、はっきり言わないとわからないんだから時間の無駄よ」


「でも、納得して諦めて貰わないと、また来ちゃうから……」


「こういう奴らって、自分がイケてるって思い込んでるから完全に拒絶しないとダメだって」


「そうなのかなぁ」


 なんてことを……。

 もしかして自覚ないのか? 

 火に油注いでどうするんだよ!


「おいッ! なめてんじゃねーぞ!!」


そりゃ怒るだろ。


「短気すぎ、きもっ」


「あっ、つい本音が出ちゃって……」


「ああ?」


 いえ、沙織さん、美香さん、滅茶苦茶に馬鹿にしてます、よ?

 しかし、これは……やばいな。

 チラっ智樹を見たけど、先輩が手を出そうとしない限り何も言わなそうだな。

 仕方ない、今回は何時もの様にいかないから俺が間に入るか……はぁ……めんどくせぇ……。


「先輩すみません。俺達そろそろ帰るんで……申し訳ないですが、これで失礼します。美香も沙織も帰るぞ。智樹もな」


「あッ? おまえ―――」


 何か言いたそうだけど、聞こえないふりでもしとこ。


「おう」


「あ、うん。直弥くん早く帰ろ」


「だねぇ。帰りにカフェでもよってく?」


 いやいや、沙織よ……美香が用事あるから帰るって言ってるのに、先輩を煽ってどうするのよ……。


「おいッ、待てや! 話終わってないだろうがッ!」


「た、田中、もういいわ……いこーぜ」


 他の先輩達ナイスフォロー! 

 イケメン?先輩は田中先輩ね。一応覚えとこ。

 しかし流石にあれだけ断られても挫けない精神もすごいけど、周りの先輩は何も言わないって思ってたけど絶対引いてるよね……哀れ、田中先輩。


「はぁ? お前が口説き落とせって俺をよんだくせに何言ってんだよ! それに、こんな奴等より俺のが良いに決まってるだろーがっ!」


 先輩達が田中先輩と揉めてる間に俺達は早く教室から退散しようと鞄を持ち歩き出していた。しかし、まぁ俺はそうかもしれんが……智樹は先輩より断然カッコいいだろ。


 どうでもいいけど、早く退散、退散っと。




 ―――って!? おいいいいいッ! 




 美香さんや? 何を引き返してるのですか?


「どこがですか?」


「はぁ?」


「だから、どこが貴方の方が良いのか教えて下さい」


「あ? そんなの全部俺のがいいに決まってるだろーが」


「具体的に教えて下さい」


「っ!?」


 うわぁ……久々に美香のマジギレバージョンでたよ……智樹を馬鹿にされるとキレちゃうんだよな……普段おとなしいから、これなるとマジでこえーんだよ。でも流石に先輩にはまずいだろ。


「美香、もう良いって」


「直弥くんは少し待ってね。私、納得いかないから教えて貰わないといけないの」


 ダメだな……俺一人じゃ美香を止められないし……智樹と沙織も何か言ってくれよって……何二人共にニヤニヤしちゃってるの? 

 田中先輩も周りの先輩も引いてるじゃん?


「早く言って下さい。時間が勿体無いので」


「か、顔とか? 俺ってモデルだし、その辺の奴等よりはイケてるけど?」


 はいはい。そーですね。先輩カッコいいですよ。

 でもすげーな、自分で言っちゃうんだ。 

 自分に自信ある人は違うな……。


「はぁ……そうですか。自意識過剰なのですね。貴方がそう思ってても周りは思ってないかもですよ?――それに、自慢されている顔ですけど、派手に髪の毛を染めてピアスして誤魔化してるようにしかみえません。凄く程度が低く見えますよ。それと服装も崩して着すぎです。私からすると、だらし無さをアピールして何がいいのかさっぱりわかりません」


「なッ――!」


「他には無さそうだし、もう結構です。ハッキリ言わないとわからないようなので言いますが、私の好みではありません。二度と私達に話しかけないで下さい。正直迷惑です。あっ、それと最後に香水がかなりきつ過ぎると思います。では、さようなら」


 久々に出た美香の毒舌。かなり言い過ぎ……田中先輩がプルプルしちゃってるじゃん。


「――は? 言わせとけば良い気になりやがって……」


 あ、やばッ! 手を出しそうだしッ!

 咄嗟に美香と田中先輩の間に入っちゃったけど……まぁ仕方ないか。


「先輩マジですみません。もうこれぐらいで勘弁して貰えませんか?」


「おまえは引っ込んでろッ! さっきからうるせーんだよッ!」


 うおっ、胸倉掴まれたけど、これで怒りの矛先が俺に変わったな。

 一発ぐらいは殴られとくか。痛くしないでね……。


「おい。手を離せ」


 智樹くーん。おっそいよー。もう少し早く助けてよ……正直ちょっとびびちゃってたし。


 だけど……先輩の手を折らないでね。勿論、暴力も駄目だから。


「あッ? なんだよ! おまえ――い、いったッ!?、痛い!、痛いッ! 離せよッ!!」


 俺の胸倉掴んでた先輩の手が離れて、智樹も握りつけてた手首を離したけど、めっちゃ痛そう……。


「た、田中、マジでもういい。早く行こうぜ」


 ホッ、やっと他の先輩達も出て来て終わりそうだな。


「ちッ、折角、俺が誘ってやったのに――くそがッ!」


 うわー、そんな捨てセリフを言われると俺ですら引くわ……ほら、野次馬で観てた人達みんなドン引だよ……ご愁傷様。変な噂が広まらない事を願っています。


 それから先輩達が消えると、智樹へと思われる称賛と先輩の批判で教室が少し騒がしかった。


 美香なんて目がハートマークだよ。ハートマーク。

 

 少しぐらい俺にも向けろっての。ちくしょー!




 やっぱ、流石は智樹。かっこいいわ。



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