第2話 友達と一緒に



 俺には毎朝迎えに来る幼馴染がいる。


 頼んでる訳では無い。幼少期の頃に知り合い、小学校、中学校、高校1年、そして高校2年の今も自主的に決まった時間に迎えに来る親友だ。


 ドアを開けると、眩しい朝の光と共に目の前には、これぞ男と言う程の者が仁王立ちしているのが目に入る。


「おっす! おまたせー」


 真っ先に俺から声をかける。


 俺の顔を見て、日焼けした顔から繰り出すニカっとした微笑み。その口の隙間から見える白い歯。髪は真っ黒な短髪でハリガネの様だ。その目は世の女性を虜にしてしまいそうな程に鋭い眼光を放つ、男らしい一重瞼、筋肉が目立つ太い首、頬までもが筋肉で引き締まった美顔の超イケメン。もちろんがたいも凄い。180はある身長に90キロ程の体重。体脂肪率一桁のすべて筋肉と表現出来そうな憧れのゴリゴリマッチョ。俺の憧れそのものだ。


 やばい、男の俺ですらマジで見惚れてしまう。


 だが、その見た目によらず、気は優しく、気遣いに優れ、殺ル時は――っと違う。ヤル時はヤル男だ。少し口下手ではあるが。


 そんな俺が自慢出来る程の友人は男性女性共に人気のある。


 初めて見る人からは超絶イケメンとの組み合わせの違和感が凄いって遠くからよく言われる。ホント勘弁してほしいものだ。イケメンと歩くと鼻が高くなるけど、俺が少しナーバスになるし。


 そのイケメンフェイス少し隠してよ。

 おっと、それは無理か。そのフェロモン駄々洩れの体は隠せないな。失敬、失敬。


 しかし、見事だ、相変わらず見事な容姿だ。我が親友である事に誇りすら感じてしまう。これぞ男の中の男。やばい惚れそう。


 まあ、それは冗談だが。


「おっす」


 低い声……しぶい。


 岩崎智樹いわさきともきマジで男の中の漢……半端ないってッ!


 相変わらず俺を上から下まで渋い顔で覗き込む。癖なのか何時もの事だ。

 俺の筋肉の増加具合でも見ているのだろう。ホント智樹は筋肉の事になるとマジで真剣だ。


「相変わらず、変わって無かったよ……1キロは増えた感覚はあったんだけど。残念な事だ」


「そうか」


 無表情で軽い返事を口に出し、それ以上は無言のままに胸、腰、足、尻筋などを眺めた後に、軽いスキンシップで確認してくる。毎朝確認しないでも急に変わらないとは思うが、もう慣れた。


「うん。さて、行くか」


「おう」


 俺達は横並びで何気ない話題を口にしながら進む。


 隣を歩く智樹を見ると色々と思う事もある。


 高校に入るまでの俺は筋肉が存在しないと言う程に貧弱だった。周りからは王子と冷やかされたりもした。温室育ちの貧相そうな王子みたいな顔と体を嫌味で表現したのだろうか。その当時は今よりも見るからに病的な程に貧弱で仕方が無い事とだったとはわかる。だが今になっても自分の容姿がコンプレックスにもなっている。


 まあ、おかげでそれからは鍛える事が出来たし、教えてくれた人達と智樹には感謝しよう。


 しかし……智樹なんて騎士ナイトだよ?


 くぅーーーーーーいいのぉ!!


 男らしく強そうな愛称とか、マジで憧れる。


 それに比べ俺はその騎士の後ろに張り付き守られている様にしか見えない。

 さながら貧弱王子……でも流石に王子呼びは辛いものがある。


 はぁ……。


 高校入学した当時に、王子って言われて『そんな風に言われるの嫌だ』と、はっきり言ってやったら、青ざめた顔して謝ってくれたけど。

 あの時はマジびびった。そこまでキツく言った覚えないんだけど……言われたこっちがドン引きだよ。


 俺が言い返せない日本人だと思ったのかよ……言い返せる日本男児だっつーの。


 それ以来、王子って面と向かって言われてはいないけど。やっぱ、はっきり言わないと伝わらないよね。ホントよかったよかった。


 だが、こんな俺だけど――これでも青春を謳歌したいのだ。


 俺ってコミュ障でチキン、モテたりするはずも無くモブなのも自覚はしている。だけど、それでも映画や漫画の様にリア充みたいな高校生活も送ってみたい願望はある。


 だから、青春したいのだ!


 青春なら、部活動! 


 勿論しようと思った事もあるのだけど……智樹も一緒するって言い張って、出来ない。それに……他の友人の二人も。


 なぜなら、友達思いなのは嬉しいんだけど、その三人揃うと……何かと、やばい。

 入学してすぐはまだ体も貧弱だったからさ、そんな俺が心配で付き合うつもりだったのだろうけど……なんて言うか、この三人の取り巻きが半端ないから。


 俺が部活動の見学に行く――智樹と後二人が一緒に付いてくる。

 その次の日、その部に申請依頼書が多数提出され、人数制限かかって選別する始末なんだよね。


 高校一年の入学してすぐの王子って呼ばれてたぐらいに貧弱な俺。選別とか無理じゃん。絶対落とされるし。

 

 だから辞めて次行くんだけど、また同じ。それのループ。


 もうめんどくさくなって辞めたね。どうせ受からんし。

 漫画とかであるモテる人の横にいるモブの気持ちがよくわかったよ。


 あー、うらやましい、うらやましい。リア充爆発しろ!って感じだったね。



 おっと、思考に更けてる間に、あそこに見えるのは……。


 かぁーーやっぱ、すげーな。やばいなぁ。西織美香にしおりみかは。


 容姿端麗、才色兼備、頭脳明晰と色々言われ、影での愛称は姫。更には家は超お金持ち、家とか城かよってぐらい。マジですげーから。


 車で通学も出来るらしいのに何時も俺達と一緒に登下校を一緒にする。

 まぁその理由も理解している、智樹と一緒にって事かな。 

 そうじゃ無ければ……あれだ……もう一人の幼馴染と一緒行く為かと、俺は思っている。


「おっはー」


「オッス」


「お早う御座います」


 でたよー!相変わらずの、敬語。マジで、お嬢様って感じ。


 まぁ、挨拶だけなんだけど。


 そんな御嬢様の美香は腰まである長くストレートの黒髪にどんなトリーメントしたらそこまで艶でるのってぐらいピッカピッカ。天使の輪がめちゃ眩しいし。


 なんだよ、その細い体……相変わらず細いな。マジなんなの?

 ちょっと鯖折りしたら絶対ポキってなるだろ……それにその制服の上からで確認出来る理想的な膨らみは。大き過ぎず小さ過ぎず……うん、やっぱ完璧だわ。


 もうね、バーチャルアイドルそのまま出て来た感じ。千本桜歌ってよ。コスプレ付きで。


 小学校からの付き合いだけど、ばれない様にガン見だよ。思春期だから許してね。


「直弥くん、今日も素敵だね――智樹君も」


 智樹をチラっと見た後に俺の方に眼を固定したままからの、お世辞。


 ぺッ――わかってら! べらぼーめッ! 


 最初に俺の事言ったのは照れ隠しなんだろう。コンチクショー! 


 智樹うらやま! リア充爆発しろって感じ。


 「ふんっ」


 しかしその後に智樹の言葉無き返事……その直後俺から目を離し、二人で見つめ合う。そんな事してたらこっちが照れるじゃないか。

 

 だけどさ……もう少し嬉しそうな顔しようよ。ね? 何その睨み合ってる様な顔は、照れ隠しなの? マジそうなら俺って邪魔なのかな……いない方が良いかな? 


 ヤダ! ぼっち、ヤダ! 仲間にいれてッ!


 ――悔しいから割り込んでやる。


「お世辞でも嬉しいよ。ありがと」


 けッ――嫌味言ってやったぜ。ウインク付きの笑顔だぜ。これは笑い取れたな。


 すぐに美香が俺の方を向き目を大きく眼を開いたとおもったら……って、おいッ、目逸らすなよ。挙句は下向いちゃったじゃねーか。


 流石に北海道の荒波に耐え抜いた俺の毛むくじゃらの毛ガニの様なハートが、身だけになる程に寒い。完全にスベったな。しかしそんなに嫌かよ。俺のキモ笑顔でのウインクが……。


 ふっ、だが、そんな事では俺はもう傷つかないぜ。慣れてるしな。


「ちッ」


 はッ! 智樹くーん、舌打ちヤメテー、ごめんよー。水差しちゃってマジ御免なさい。仲間外れが耐えられなくてちょっとした冗談だから。……許してね。


 少し険悪な雰囲気を醸し出しちゃったけど、モーマンタイ。何時もの事だから。


 さて気を取り直して仲良く一緒に学校に行こう。それに、もうすぐ合流するから、それまで俺をボッチにしないで、ね?


 △▼


 俺を真ん中に挟む形で狭い道を進み、3人目の友人の待ち合わせ場所に近づくと、立ってるだけで絵になりそうな人物が目に入って来る。


 ほら、いたよ! スマホを見て待ってるよ!


 あのすまし顔、超真剣にニュース見てますを醸し出し知的をアピールしているが、俺には解る。あれは間違いない――漫画でも読んでるね、絶対に。


「おっはー」


「オッス」


「お早う御座います」


直ぐに俺達3人が挨拶をする。


「ちーっす」


 出たよ、ちーっす。


 何を今まで気づかなかった感出してさらっと言ってんの? バレてるからね? 途中でこっちをチラっと目線を向けたのが見えたし。何より知的そうにしてても漫画読んでたでしょ。


 この女性が最後の親友の一人である高梨沙織たかなしさおり、身長は俺ぐらいある。女にしては背が高い。


 モデル並みのスタイルで足も長い。しかも制服から解るぐらいにおっぱいでかいし腰とかすごい細い。ボンキュボンって感じ。髪は明るい茶色のショートで顔もちっこい。年上かと思える程にお姉様感がよく似合う美人。


 更にモデル並みのスタイルの持ち主で高校生なのにプロの漫画家。結構売れてるらしい。見たこと無いけど。なんでかって言うとBL本だから。そっち興味無いの。ってか無理。


 俺って至って健康的な年頃のスケベだし、同性愛者の気持ちが俺にはさっぱりわからん。当然の事ながらに女の子見てると嬉しい。男見ても筋肉の付き具合にしか興味ないからね。


 まぁそれを美香と沙織に言ったら、ちょっと引かれちゃったけど……。


 そんな訳で俺って健全で異性に興味津々な残念容姿以外は普通の高校生って感じ。


 しかし、超絶イケメンと御嬢様美女にモデル級美女……その中に混じる普通の、いや、貧弱モブな俺。


 普通の精神であれば不釣り合い度に耐えられないかもしれない。だけど誰に批判されようとも、俺の大事な幼馴染であり親友達だ。


 まあ、そんな4人が揃うと普通はラブコメ発生事案になる。


 イケメンを取り合う美女二人が王道で、それか、鈍感モブが実は主人公的なパターンかな。


 中学の時にそれは思った。


 だが現実は非情である、と。


 女子2人の内の沙織は中学の時に知り合ってから急に綺麗になって話上手になったけど、スケベ心で鑑賞はしているが全く恋愛感情はわ湧かなかった。何故なら腐女子だから。


 同性愛を書いてるぐらいだし、絶対に沙織もそっちだと確信している。でないと気持ちわからないから、書けないし。


 それなら、ヒロインっていったらお嬢様の美香になる。


 だって完璧お嬢様だし。かわいくて、しかも美人――超がつく王道。告白されたのも数知れず、断り文をテンプレート化してるのかと思える程だ。


 それなのに誰とも付き合わないんだよね。


 王道でなら智樹かなって思ったんだけどさ、何時までもくっつかない訳よ。ならさ、次のテンプレでいくなら鈍感モブってことなるじゃん? モブなら俺じゃん。


 そうやって考えていた時代もありました。


 ええ、ありましたとも。それは、それは、どっぷりと。


 もう妄想しまくちゃったし、鈍感のフリしてる方がいいの? 顔赤らめたらいいの? どこで頭をなでなでしたらいいの?ってね。


 当時の俺は待ちに待った。ワンチャン到来が訪れるのを。


 だけどさ……何時までたってもこないのよ。


 ここまでくるとさイベント回避されてるとしか思えない。俺の目をチラっとは見るけどさ顔逸らすし、もちろん赤らめてるとかそんなのは無い。愛に発展するような熱視線を送られた記憶すらない。漫画とかである頬を赤らめてモジモジと見つめてきてほしい。


 テンプレじゃん。俺もテンプレしてー。


 でも、智樹とは目を合わすんだよ。だけど付き合うとかはしないんだよね。

 おかしーなと思ってだったんだけどさ、あるきっかけで気付いたんだ。


 それ気付いた時は、超ショックで……食欲が少しだけ落ちたし。


 それ程の可能性は2パターン。


 まず1が智樹とのジレジレの互いに鈍感パターン。


 お互い好きなのに気持ちがすれ違うってやつ。

 普通に考えて、智樹の男らしい姿みたらイチコロよ? 


 今までの流れで行くとキャッキャウフフ出来るイベントが多々あったのにも関わらず、お互いに意識はしているが、この関係が壊れるのが嫌で発展しないと。その可能性は、あるあるかな。


 そして2……美香が沙織に開花されて、ユリ道への入門。


 これも、あるあるだって思ったかな。だって同性愛者の沙織といつも一緒だし、腕組んでとかイチャイチャしてるしさ、挙句は、はいあーんイベントしてるんだよ。


 関節キッスじゃん? 意識してるのバレバレだし。

 しかし、うらやましー。俺もしたい。


 その時に決まって智樹が可哀そうだと思ってるのか、無言でおかず俺の口に持ってくるんだけどさ、誰得なの? 沙織はガン見してるし、美香は怒りまくるしで意味わかんねー。男同士なのにやきもち焼いてる訳? 智樹を取られそうで激オコ? それとも……もしかして両刀なのかも。 


 まあ、少し逸れちゃったけどさ、そう言う訳で悟ったのよ。

 

 俺だけは無いわーって。

 俺だけ蚊帳の外だし、何より智樹みたいに男らしいイケメンじゃないから。

 テンプレさようなら、真モブこんちわーって感じ。


 なら、新恋人探したい訳なんだけど……誰も俺に寄ってこないんだよね。

 寄ってくるとすぐ智樹や美香が俺より一歩先に出ちゃうし、すぐに楽しそうに話してるのよ。

 

 他の女子は智樹にばかり寄ってくる人ばかりなんですよ。俺なんて簡単な会話に混ぜて貰える程度。惨めさで泣けてくる。 


 

 はぁ……古典パターンの下駄箱ラブレターしたい。デジタルじゃなく手書きで思いを明かすって超胸熱キュンキュンだよね。


 マジで誰か入れてよ。

 



 学校の下駄箱は鍵付きなんだけど。




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