第14話 クリパside美香
電車を降りて、駅から4人で私の家に向かう。
駅前の商店街を過ぎると急に暗さが増し、冬の夜風は肌寒く街灯が照らす道路は一人で歩くには心細い。それでも四人で歩くと不思議と楽しく感じた。
流石に夜との事でタクシーで帰宅も考えたけど、徒歩で帰る事を選択した。
私の前を歩く智樹くんと、それに私の大好きな直弥くん。その後ろを沙織と付いて行く。何時ものポジション。決まってる訳では無いのだけど自然とこの形が定着した。
前を行く直弥くんの顔がずっとは見えないけど、時折後ろを振り向き声を掛け気にしてくれる。
何気無い仕草や一言だけど、私達を思っての事だと知ってるから凄く嬉しい。些細な事かも知れないけど女の子はよく見ているよ。
直弥くんは自覚無しに優しさに溢れてる。本当に素敵。大好き。
そして、そんな大好きな直弥くんと初めて……デ、デ、デートをしちゃった。
あれはデ、デートだよね。手まで繋いだし、デートって言っちゃってもいいよね……。
うん、そうだよ。よし、あれはデートだ。間違い無い。
はぅ……。
思い出したら恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきて顔がニヤけちゃう。
「えへへっ」
あっ、少し声にでちゃった……。
今の私って変な顔しているかも。
私がこんな感じの時はすぐに揶揄ってくる沙織だけど、今は何も言ってこない。不思議に思い沙織の顔を見ると、心此処に有らずって感じ。
電車を降りてからずっと、智樹くんを見ているけど何かあったのかな?
まぁ喧嘩した訳では無さそうだし良いかな。だって凄く幸せそうな顔してるし。
それからも直弥くんの背中を見ながら歩いて、そして私の家へと到着した。
「すっかり遅くなちゃったな。予定してた時間だけど美香の両親が待ちくたびれてるかもな」
「だいじょうびゅ、あっ……だ、大丈夫だと思うよ」
わぁっ、直弥くんが急に振り返ったから少し噛んじゃったよっ。
私のバカっ! 動揺し過ぎ。
冷静な気持ちを心掛け、私の敷地に入る為にインターホンで帰った事を知らせる。すぐに両開きの正門横のドアがカチっと鳴り、解錠された事を確認してから中へと入った。
それから正方形に並べられた白の石畳をみんなで歩き、家の玄関に向かう。
一番前を歩く私。
チラっと後ろを振り返ると、ニコニコしたみんなの表情が窺がえる。
うん。いつもと同じだ。
家の玄関を開けると、パパとママが私達を迎えてくれた。
みんなが挨拶をして、パパが返す。そして私の顔を見ながらママが続く。
「こんばんは。寒かったでしょ? 部屋を暖めてるから遠慮なく入ってね」
「「「はい」」」
みんなが返事したところで、ママが私に向かって不思議そうにしている。
「ところで美香は何か良い事でも有ったの?」
そんな事をママに問われた。
「えっ、ど、どうして?」
「だってねぇ……表情が緩み切ってるわよ?」
「ふぇっ」
えっ!? えええっっ!!
はぅ。はずかしぃ……。
動揺して変な顔になってたのは私だったみたい。
ど、どうしよ……変な声まで出ちゃたし、顔上げれないよ。
「まあまあ、良いじゃないか。クリスマスに皆でお出掛けしたんだ。楽しい事しかないだろう。とりあえず、どうぞ。ここだと寒いからね」
ナイスフォロー! パパ、大好きっ!
そして皆のお邪魔しますとの声の後、照れを隠しながら廊下を進み、パーティールームへと案内した。
パパは仕事で結構な人数を家へと誘う事もあることから、この部屋は結構な程に広い。家族だけでは余り使用しないけど、パーティーなどをする時もよく利用する。
部屋に入ると、部屋全体にクリスマスの飾りつけがしてある。
私が学校から帰って来た時はしてなかったけど、私達が外出してる時に急いでしたんだね。ふふふっサプライズだ。
それで学校から帰って来た時に、シェフの人に加えて何時もより家政婦さんが多かったのかぁ。相変わらずパパとママはマメだなぁ。
既にシェフの人も家政婦さんもいないので帰られたのかな。私達の為に本当に有難う御座いました。
そして部屋のサイドテーブルに料理が並んでる。今回のクリスマスパーティーはビュッフェだね。様々な料理は勿論の事、他にもケーキやデザートなど。カロリー多めの品が多数。
美味しそうだけど、太って直弥くんに嫌われたらどうするの……少し控え目に食べないと。
そんな事を思い、直弥くんの隣にさり気無く座ろうとすると、智樹くんに邪魔された。
もぉーっ!
相変わらず智樹くんのガードは堅い。今日ぐらい良いじゃない。
直弥くんに近付く女性には有難いのだけど、私も同じ様にしなくてもいいとは思うんだけどなぁ……。
残念な気持ちで不貞腐れながら、沙織の隣の席に着く。
「さて、皆グラスを持って、乾杯しようじゃないか」
パパの一声でテーブルに置かれてあるシャンパンを皆で入れ合う。勿論、未成年の私達はノンアルコール。そして直弥くんに注ぐのは私。そこは智樹くんに譲らない。
そして、パパのパーティ開始の挨拶の後、みんなで『メリークリスマス』との言葉で食事が始まった。
みんなでカンカンカンとグラスを鳴らし、すぐにパパが直弥くんと乾杯しに行く。
「しかし、直弥君、あの毛皮は凄いね。美鈴さんからかな?」
「そうなんですよ……凄く恥ずかしかったです」
照れながらに頭を掻く。
あっ、その仕草……私、大好き。
「そう? 凄く似合ってるよ」
うんうん。パパ、流石ッ!
やっぱり直弥くんの良さわかってる。もう最高に恰好いいよね。
そうだ。いっぱい写真とったから、一番のお気に入りを出来るだけ拡大して直弥くんルームに飾らないと。
直弥くんルームは、私の部屋と別に用意された、少し小さな部屋。
昔に直弥くんの写真を壁いっぱいに張ってたら、直弥くんを部屋に呼べないことに気付いてパパに無理を言って空けてもらった。そんな特別な部屋。
もちろん私以外はパパやママですら、立ち入り禁止。
「えー、おじさん……似合ってるとか、勘弁してください」
「あははっ、いつも言ってるけど、おじさんは酷いなぁ……お義父さんって呼んでくれて良いのだよ?」
「あらあら、そうね。私もおばさんじゃ無くて、お義母さんって呼んでね」
「お父さん、お母さんって……確かに美香のご両親だからですけど、流石にそれは……」
もう、パパとママったら……気が早いんだからっ!
当然、パパとママは私の直弥くんへの気持ちは伝えているから、後押ししてくれている。中学生の頃はまだ早いと言われたけど、今では応援してくれてるよ。
それからも、ワイワイと和んだ時間が過ぎた。
そしてママがニコニコしながら、パンっと手を叩き注目を集める。
「では、良い感じに盛り上がってきてるみたいだから、プレゼント交換でもしましょうね」
毎年恒例、お楽しみプレゼント交換!
私達が事前に決めている事、一人1000円以上は禁止、税別で。これだけ。
だけど、値段じゃない。私は直弥くんにプレゼントされる物なら全てが嬉しい。消しゴム1個だとしても勿体なくて使えないぐらいだし。
今までのは全て直弥くんルームに慎重に保管済み。もちろん梱包紙までもね。
あー、凄く楽しみ。
今年は何を貰えるのかな……。
それに、私のは喜んで貰えたらいいな……。
因みに、パパとママからは料理がクリスマスプレゼント。
そして、出掛ける前にママに預けていたプレゼントを各自に返却し、パパがキョロキョロとみんなを見て口を開く。
「まずは誰からかな?」
パパとママは本当にパーティが好きで、こうやって仕切るのも楽しいらしい。
進行役をしてくれると本当に助かるよね。パパ、ママ、ありがとう。
「はいはいー! 私から渡すね」
一番手は家に入ってから何時もの調子に戻った、沙織。
まずは私に、次に直弥くんに、最後に智樹くんに梱包されたプレゼントを渡した。
智樹くんだけリボンの色が違うような……。まぁ偶々だね。
各自に渡し終えると開けていく。
私へのプレゼントは、おしゃれなシャープペンシル。
「ありがとう! 凄くかわいい。大事にするね」
「うん! それ凄く書き易いから私も使ってるよ」
次に直弥くんは、ハンドクリーム。男性向けって余り無いのよね。流石は沙織、気が利くなぁ。
最後の智樹くんは、マグカップ。結構大きいサイズだ。体も大きいから丁度いいよね。ボソっとお揃いって言ってたような気もするけど……まぁいいか。
「次は、俺だ」
二番手に配るのは、智樹くん。
各自開けると私と沙織は色違いのアニマルタオル。うん、かわいい。あれだけの男臭い人物からよく発想出来るのかと思うと少し関心する。
そして、直弥くんには……アンダーウェアー。男性用の下着だろうけど少し直弥くんには派手じゃないかな……って、そうじゃない!
「「アウトーッ!!」」
「あ?」
「へ? なんで?」
沙織と声が揃ったし。
直弥くんは私達の叫んだ意味がわからないみたい。多分だけど智樹くんも深い意味は無いとは思うんだけど、沙織の漫画を読んでるから私は変な想像しちゃうんだ。詳しく説明は出来ないけどね。
で、でも、履いてる姿を見たいかも……えへへへ。
その後、一悶着あったけど落ち着いたところで、待ちに待った……直弥くんの番。ワクワク。
全員に渡し終え――。
いざっ! おぅーーぷぅーーーんッ!?
うわー!? うわーー!! うわあああッ!!
凄く綺麗でかわいいっ。
何これ? なにこれ?
見たことないけどインテリアなのかな?
「な、直弥……こ、これ、何?」
「俺は知ってるぞ。使わせて貰う。有難う」
あっ……色違いでみんな一緒なんだ。少し残念。
「綺麗だねっ! インテリアの小物かな?」
「ノンノンノン。今流行りのパワーボールだっ。予算内で探すの苦労したしッ!」
そのドヤ顔も、素敵。大好き。
「何処で流行ってるか知らないけど……こ、これで、私に何をしろと?」
「鍛えろっ!」
沙織が疑問に問うと、即座に直弥くんが答えた。
「え? ダイエット用品なの?」
私も思わず聞いちゃった。
「ひどっ! 私達が太ってるって言いたいわけ?」
沙織はストレートに聞くんだね……。
えっ、でもそれなら……私が、ふ、太ってるから痩せろってことなのかな……?
「い、いや……俺が気に入ってるだけで、深い意味は無い」
「ふぅん……。まぁでも、ありがと」
「……ありがとう」
「有難う。使わせて貰う」
嬉しいのだけど……ダイエットした方がいいと思われてるならショックだよ……。
「あれ? 女性達には人気ないのかぁ。やっぱ元々スタイルいいし、いらなかったか? まぁ飾っといても綺麗でいいじゃん」
ス、スタイルいいって……そんな風に思ってくれてたんだ!
何より直弥くんからのプレゼントだし、何でも嬉しいよっ。
「ううんっ! 大事にするねッ!」
うん。一生大事にする。
ふう……興奮しすぎちゃった。次は私の番だね。
「最後に私からだよ。では沙織からね」
次は智樹くん。そして最後は……直弥くんッ!
ラッピング用紙買って、リボン付けて、可愛く梱包したけどどうかな?
かわいいって思ってくれたかな?
あっ、みんな開けだした。緊張するなぁ。喜んでくれたらいいのだけど。
「うわぁ、可愛いいっ!……ん?」
よかった。沙織は喜んでくれた。
「おお、可愛いな。めっちゃいいじゃん!……あれ?」
わーい! 直弥くんに褒めて貰えた!
「……」
智樹くん、とりあえず何か言って。
「えっと……これってさ、美香の手作りのフェルトマスコット?」
「うん! そーだよ!」
「だよなー。これって俺だよな? そっちは沙織に智樹だし、すげー」
そんなに褒めてくれると照れちゃうよ。
「以前に沙織にみんなをキャラクター風に描いて貰ったのを参考にして作ったの」
「ほぇー。売ってるのと変わり無いぐらいのクオリティだな。マジですげー」
「だねー。よくこんなの作れるよね」
えへへっ、みんな大袈裟だよ。
「最初は失敗ばかりだったけど、かなりの数作ってるから慣れたの」
「あぁ…………な、納得した」
「え? 何が? 俺わからんのだけど?」
沙織の顔が引き攣ってるけど、どうしたの?
「いや、直弥は知らないくていい事だね」
「そうか? まぁ、でもホントに凄いわ。ありがとな。大事にするよ」
「ありがと。私も大事にするね」
「……有難う」
「う、うん。気に入ってくれて此方こそ、ありがとっ」
やったー! 喜んでくれた。
沙織と智樹くんは余り自信なかったけど、直弥くんのは自信あったんだ。いっぱい作ったから。
「はいはいー。微笑ましかったわ。子供達の楽しそうな顔を見れるだけで私には最高のサンタさんからのプレゼントだったわ」
「ふむ、そうだな。パパも日頃の嫌な奴等の顔を忘れさせて貰えるぐらいに癒されたよ」
ママもパパも機嫌良さそう。やっぱり家でクリスマスパーティーして良かった。
「でも、毎年毎年、迷惑じゃないですか?」
「直弥君は何を言ってるだい? 迷惑なんて有り得ないさ。これからも毎年だからね」
「そうよ。私達が老後になっても、ずっとよ」
「あははっ、大袈裟ですね。でもそう言って貰えると嬉しいです。これからお言葉に甘えさせて貰います」
「……直弥。違う意味も入っているとは思うけど……まぁいっか」
「え?」
うんうん。結婚しても、ずっとパパとママと一緒にクリスマスパーティしようね。
それからも、楽しい時を皆で過ごしてから遅くなったので、お開きとなった。
楽しい時間が過ぎるのって、あっという間だね。
パパはお酒飲んでるから車で送れないからタクシー手配するって言ってたけど、皆が夜風に当たりながら歩いて帰りたい、との事だった。多分遠慮してるんだと思う。
沙織は2人に自宅まで送って貰うんだって。いいなぁー。
そして、みんなが帰ってしまって少し寂しくなった。
それでも、私がお布団に入る頃には日付が変わってしまう程に遅い時間なのだけど、パパとママのテンションは冷めていない。
今は部屋を変え、パパとママと私でソファーに座って今日の余韻に浸っている。
「いやー、しかし相変わらず直弥君はしっかりしてるし、良い子だね」
「ホントよねー。美香も絶対に離しちゃダメよ」
「もちろん。直弥くん以外とか有り得ないよ」
「うんうん。直弥くんの御両親もしっかりしてるし、早く結婚して孫の顔を見せて貰いたいね」
「いいわねー。直弥くんと美香の子供なんて、天使が生まれるのかしら?」
「あはははっ、違わない。天使だろうな」
「もう! ママもパパも気が早すぎだよッ! まだ高校生だよっ」
「「「あははははっ」」」
うん。ママもパパも応援してくれてるし、良かった良かった。
でも、その前に早くお付き合いしないと。
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