第6話 SNS
季節は真冬、室外は凄まじく寒い。そんな外の寒さに耐え抜き歩を進め、やっとの事に辿り着いた暖かい教室。冷え切った体温が戻り始めると共にホっつと落ち着いてきた。
「ふぅ。やっぱ暖房最高だよな!」
この学校は全クラスにエアコン完備。最高です。
「直弥くん、少し大袈裟だよ。そこまで寒く無かったでしょ?」
何を言ってるのか……あれが寒くないとか、ないわー。
まぁ俺が極度の寒がりってのもあるけど。だが筋トレの時は気にならないのが不思議。
「いやいや、外は極寒だよ、極寒。凍え死ぬかと思ったし」
「ぷっ、なにそれ」
俺の微妙なボケにすら無料スマイルくれるとか神かよ。無視されてたら心まで凍てつくし……やっぱ空気を読める美香は本当に最高だよな。
さっきまで智樹と沙織もいたが、もうすぐ朝のホームルームになるので教室へ戻っていった。なので今は美香と二人で雑談中。
俺と美香は2学年になって同じクラス。智樹と沙織が同じクラス。4人で一緒がよかったがそればかりは仕方ない。美香と同じだっただけでもマジで運がよかった。もし一人だったらボッチ確定だったし。
そんな俺達4人は授業以外ではほぼ一緒にいる。皆で居る時はある程度は他の人達も寄っては来るんだけど、何故か俺と美香二人で話してると、この教室では誰も話しかけてこない。俺的には七不思議の一つになっている。
この時期の話題の中心と言えば、やはり以前終えたばかりの期末テストの結果について。
「しかし、今回も皆に負けたなぁ」
「ん? 期末テストのことかな?」
きょとんとした表情で俺の主語無しの言葉を理解してくれる。そんなところが聞き上手でコミュ力モンスターであり、俺とは違うんだろうなと思うと感心する。
しかも俺の前の席に座っているが美香の席ではない。俺の机の前の席は沢村君。その席を借り椅子に座って俺と対面している美香。何時もの事で暗黙の了解とばかりに沢村君は違う席にいる。終わると美香がお礼を言ってデレる沢村君も見慣れたものだ。
俺なら人の席に座るとか超高難易度ミッションだ。
「うんうん。しかし美香って常に1位とか凄いよなぁ。マジで尊敬するし」
「えへへ、ありがと。でも直弥君は4位だし、十分じゃないの?」
「んー、でも今回は智樹が2位で、沙織は3位だし、皆についていくの大変だよ」
成績ぐらいは努力でどうにかなるし食らいつくさ。それぐらいしないとこのメンバーの輪からも外れてしまう。それだけは嫌だし。
「ふふふっ、直弥君は頑張ってるねっ!」
「うん……これからも、頑張る」
必死で頑張る。仲間外れにならないように。
「その意気だよー! 私と一緒に頑張ろうね!」
小さくガッツポーズする美香、かわいいです。
こんな話題になるのも、この学校は成績上位者の発表がある。もちろん個人情報だなんだと賛否両論もあるが、割と受け入れられている。
そして今回も、4日間の期末テストを終え、学年別に上位10位までは発表された。
俺は4位、かなり良いだろう。高校に上がってからムラはあるけど常に上位10位以内には入ってる。美香は常に1位、智樹と沙織も5位以内はキープし続けている。
正直、俺の頭が良いって訳ではない。色々な事もそうだけど特に学校の成績って周囲の環境や付き合いしている友人達の影響でかなり違うと思う。そんな俺は特に美香の存在が凄く大きい。
美香にテスト範囲のノートを貸して貰ったり、教えて貰ったりする。美香のノートは字が奇麗で要点抑えられてて解りやすい。しかもなんと言っても、美香の教え方がその辺の塾の講師よりも上手。
正に完璧超人。神様、仏様、美香様って感じ。もう一生付いて行きます。
――っと、そんな事を考えていると開始のチャイムが鳴った。
「さて、そろそろ時間か」
「だね。直弥くん、また後でね」
「おう」
小さく胸元で手を振って笑顔で離れていく。やっぱ、かわええのぉ。
だけど、そんな大袈裟にしないでも……2つ前の席じゃん?
△▼
そして、学校の一日も中盤に入り、今は昼休み。
智樹と沙織が教室にやってきて、俺の席を中心に持参の弁当を広げている。
本日の美香と沙織の弁当は小さくてカラフルで、かわいい。
俺の弁当は、父さんからの愛情たっぷり手作りオムレツ。ケチャップでハートらしきアートが描かれてはいたのだろうけど……崩れてよくわからない。そもそも、弁当にオムレツってどうなの? いや、美味しいけど。
そして智樹が相変わらず、やばい……そのおにぎりどうやって握ったんだろ?
ソフトボールぐらいあるんだけど。ワイルドだわ。マジで男料理! カッコいい! しかも、それが2個――やばいだろ。
そんな感想を胸にしながら食べていると、突然沙織が思い出したかのように箸を止めた。
「あ、そうだ。フォロバ忘れてた」
「あらら。プロにまでなるとSNSとか忙しそうだよね」
「まーね。いい評価くれる人の方が多いけど、中にはディスるやつもいるから。それ見ちゃうと憂鬱にもなるよ」
「……大変だね」
美香と沙織の話題に『へー』やら『うんうん』やらとの感じで知ったかぶって聞いてはいるが、ふむ……何言ってるか、ぶっちゃけよくわからん。
俺だけデジタル時代に逆行している節があるんだよね。家ではパソコンとかは回覧制限かかってるし常に家族の誰かの監視付き。美香達はそういった話題は余り話さないし、他の人から聞くとかは論外だし。
しかし、そんな俺でも流石にSNSはわかる。
だが、フォロバ? 略語なのはわかるが全く意味がわからん。
それに、デ……スって聞こえたような?
なんだそれ……物騒だな、おい。
まぁだが流石に聞き間違いだよな。
気にはなるが美香の反応からして常識的な事っぽいから聞きにくいし。話の輪に入ってきていない智樹は理解しているのかな……?
食事の後、美香と沙織が二人で話だし、俺は聞き専に徹している中、智樹は下を向いたままだ。
さっきから机の下でこそこそと何してんだろ?
少し興味が湧いたので顔を動かし覗いてみる。
な、な、ん、だ、と――スマホ触ってる、だと。
しかも表情も変えず微動だにしない姿勢なのに……なんだよ、その指の速さは。指に残像が見えそうじゃないか。
や、やばいっ。智樹は自分の世界にインしちゃってるし。ここは俺も会話に混ざらなければ……。
「デ、デスるとか、まじヤバイよな!」
「「「…………」」」
ぇ……何か間違った?
美香も沙織も唖然としているし、智樹も手を止めこっち見てるし。
「直弥くん、それ死だから。ディスって言うのはディスリスペクトの略で否定や侮辱の事だよ」
なるほど。美香さん、ご説明ありがとう御座います。
「ぷッ! あははははっ!! 直弥、最高のボケだよねっ! ディズニーじゃなくてデズニーって言っちゃう”お爺ちゃん”みたいだったし!」
「ぷっ」
「直弥、ドンマイ」
お爺ちゃんって……しかも智樹もなんだよ、ドンマイって。
「ちょ、ちょっと言い間違っただけだしっ! 知ってるし!」
「いいって、いいって! 直弥のそんなところが良いんだから、気にしない!」
馬鹿にしやがって……!
「いいもん。俺もSNSでもしようかなぁ」
「無理でしょ」「無理かも」「……」
二人仲良く即答ですか。だけど、やってみなきゃわからないじゃん。
ってか、智樹は何か言ってよ。その可哀そうな人を見るような目をとりあえずやめようか……。
「どうやってするのか、知ってるの?」
「そ、そりゃ知ってるし! あんなの超簡単じゃん」
沙織は俺を馬鹿にしすぎ。もちろんSNSぐらいしってる。
「まぁ、そこまでは難しくは無いよね」
ほら見ろ。やっぱ簡単じゃねーか。
「だろ? 動物や花、それに食べ物でも撮って感想書くだけで良いだけだし……余裕じゃん?」
「「「「…………」」」」
沈黙やめてっ!
も、もしかして、間違ってる?
ドヤ顔で言い切った俺が恥ずかしいじゃないか。
違うなら、誰か……優しく、教えてくれよ……。
「まぁ、頑張って……」
「流石にそれは……」
「無理」
えぇ……それだけ? 間違ってるのかすら、わからん。
今じゃ3人共に可哀そうな人を見る目になってるし。
くそっ。モブなめんなよっ! こうなったら開き直ってやる。やってやる、やってやるぞ!
俺が成功してSNSをきっかけに将来はゆーちゅーばーになっちゃうかもよ。ファンに囲まれてキャッキャウフフしている将来が見えた。
ふっ、夢は無限大さ。
夢を妄想するっていいね。頬が緩む。
「まぁ、現実的に見ても直弥には無理だと思うけど」
にへらと締らない表情の中、沙織が興覚めする一言をぽつり。
「な、なんでじゃ!?」
そりゃ否定する。やってもみないのに拒絶されるほど悲しいものは無い。
「だって、ねぇ?」
「……う、うん」
「そうだな」
解せん! なぜッ!?
3人共に否定されるとか、辛すぎる。
「だって、さー」
「な、なんだよ?」
勿体ぶりやがって。理由を述べてみろ!
「ガラゲーじゃん?」
「え―――ッ!?」
な、なんだと……。
もしかして俺の携帯電話じゃ出来ないの? 差別なの?
「だね……」
「……出来ない事は無い。だが、現実的では無い」
智樹さん、ご説明有難う御座います。とりあえず一応出来るなら、よかった。
「ってか、前から聞きたかったんだけど、なんで今時ガラゲーなの?」
「俺が聞きたいし。母さんから選択肢が、無しかガラゲーの二択しか与えられないから……仕方無し、だし」
パソコンですら俺だけ買ってくれない。代わりに筋トレマシーン高かったけど?って言われると何も言えない。
だからパソコンするなら皆に見えるリビングしかない。
それに
「あー、なんとなくわかった……。なるほどねぇ……色々とやばいしね」
「ああっ! 確かに。直弥君はガラゲーでいこうね。電話は出来るから私はそっちの方が安心だし」
「だな」
何がわかって何がやばいんだよ……しかも安心ってなんだよッ! まるで子供扱いじゃねーか。
まぁでも俺の携帯電話じゃ厳しい事は理解できた。
しかしスマホって通話料金が高いのかな? しかし、一度でいいから俺も智樹みたいに画面触ってカッコよくクイクイしてみたい。
マジで憧れる。ダメ元で今日帰ったらママンにお願いしちゃおうかな。
「あれ? でも、
「「「――えっ?」」」
は? ソラが? 俺の弟のソラの事だよな?
確かにあいつは俺と違ってスマホ持ってるが……そんなリア充みたいな事をやってるとは聞いてないぞ。
「みんな知らなかったの? かなり有名だよ」
まじかよ……ってか、何でそんな事を沙織が知ってんだよ。
沙織が机の横に置いてあるスマホを手に取ると、クイクイっと操作する。
「んーっと、ほら」
そして何やら見つけたのか少しドヤ顔で前かがりに俺達に見える様にスマホの画面を向けた。
おいおい、そんなに胸突き出して見せなくても……画面より胸に目がいっちゃう、じゃ……ん?
多少目線に困りながらもその画面に目を向けるとそこには――。
「な、な、なんじゃ、こりゃああああああああああああっ!!!」
「うわぁ」
「ほう?」
そこには、満面な笑顔でリア充の証であるピースサインをしている――化粧して女装して知らない人からは女にしか見えない俺の弟であるソラがいた。
家の中だけかと思ってたのにぃぃぃ! 人様に晒す様な真似しやがってッ!
現状を理解しハっとするも、既に智樹と美香が食い入る様に画面を見ている。
見るなッ!! 見るなッッッ!!
「うわああああああああああっ!! 見るなああああッッッ!!」
そりゃ声も出る。羞恥で我を忘れてしまった。
だがそのお陰でクラスの人達の注目を浴びてしまった。恥ずかしい。
興奮しすぎて騒ぎ過ぎました。まじで、すみません。
ですから周りの皆様、そんなに注目しないで貰えると助かります。
「沙織様、後生ですので、もう消してください……朝比奈家の汚点でございますんで……」
「ぷっ。何それ。別にいいじゃん」
「直弥くん時代劇みたいだね……でも、ふふっ、慌ててる顔も素敵だね」
美香殿よ……真剣なのですよ。そんなお世辞は今はいらないからね?
多少ボケたせいで冷静になってきた。冷静になると怒りが込みあがってくる。
「くっそっ! あの愚弟がっ……帰ったら切り伏せてやる!」
「直弥、落ち着いてね? まぁ名前も捻ってるし別に良いじゃん? 人気あるし、かわいいし」
「チラっとしか見えなかったけど、もっと見てもいいでしょ? 直弥くん、お願い」
沙織も何が別にいいじゃん、だ。弟が女装してる時点で家族としては大問題なんだよ。それよりも、美香とか可愛く前屈みでウインクとか、あざとすぎんだろ。なんだよ……そのお願いの仕方は、けしからん。
俺に気が無いって分かってるから耐えれるけど、健全な男にそんな顔してお願いされたら、なんでもしてしまうだろうが。自覚無しの小悪魔かよ。
ふん。だが、俺がそんな誘惑に負けるかっ!
朝比奈家の汚点を晒す訳にはいかんしな。もちろん断固拒否してやる。
「……見たら、すぐに忘れろよ」
仕方ない、これは仕方ないんだよ。
決してあざとさに負けた訳じゃないんだからねっ!
「やったー! ありがと。直弥くん愛してる」
「ちっ」
はいはい。冗談はもういいって。
だから智樹さんや、何時もの社交辞令みたいなものなんだから……そんなに不機嫌にならないで。
「ぷっ、まぁアオゾラで探したら出てくるよ」
アオゾラだと……まんまじゃん。安直にも程があるわ。
それを聞いて美香と智樹が自分のスマホを操作する。
「これかな?……うわっ、凄い」
「そんな大袈裟な。美香達は俺の家に来てるからソラは知ってるじゃん」
「そうだけど、でも何時もと全然違うよ……これは天使だよ。天使降臨してるよ。普通でもかわいいのに、こんな服きて、軽く化粧するだけで……こうなっちゃうのかぁ……凄いね」
「う、む……天使、だな」
美香も智樹もマジで大袈裟……。
しかしソラめ、兄の俺に恥かかせやがって……あれ程に男らしくしろって言ってるのに……。
しかし、周りまでも急に静かになって、スマホいじり出した様な気がするが、流石に気にし過ぎだよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます