第25話 最終話 帰還

 王宮に俺は現れた。

 俺の姿を見ると父ちゃんが俺を抱きしめる。


「ラルフ! よくぞ生きて戻った!」


 王様もルカもセイラも駆け寄ってくる。


「ラルフ!」


 ルカも俺に抱きつき、セイラはそれを見ていた。


「もう帰ってこないかと思った!」


 ひーんっとルカが泣き出す。

 やや冷静だった王様は俺を見据える。


「ラルフよ、なにがあった……?」


「人類は救われました。とりあえず絶滅はないそうです」


「そうか……よくやった……それで具体的にはなにをやった?」


 適当にごまかそうと思ったのがバレたか……。


「光の神をぶん殴って神になってきました……」


 陛下も父ちゃんも頭を抱える。

 まあ……そうなるよね。


「では神の国に戻るのか?」


「まー、将来的には……百年くらい? ……正確に言うと飽きるまで。亜神のままでこの世にいる予定です」


 まあなんだ。

 こちらも予定があるのだ。

 親の老後の世話に、ルカとセイラのこととか。

 そっちの方が神様やるより重要だろ?

 俺は人生エンジョイ勢なのだ。


「神として得た力のほとんどが封印されましたので、神になっても元のラルフくんだと思ってください」


 正確にはプロテクトをかけてもらってる。

 こんな怖い力気楽に使えるか!


「そうか……それは残念だ……」


 残念そうだ。

 過剰な力を持っても仕方ないんだって。


「あー、神の力を使ったら人類絶滅しますからね。ありとあらゆる天変地異起こせますんで」


「封印されてよかった!」


 ひどい義父である。

 さーてこれから俺は冒険者になってポーション作ってスローライフを……。


「つまり百年は王をできるということだな」


 がしりと肩をつかまれる。

 勘のいい王様は嫌いだよ!


「つまり我が王家は神の直系を名乗ることができるということだな」


 がしり。


「ぐぬぬぬぬぬ! そういう宣伝はお断りしますー!」


 するとセイラも参戦!


「じゃ、うちの国も神を法王にした実績ができますね」


「あ、てめ、ちょっとやめてー!」


「いいじゃないですか、減るもんじゃなし」


「減らないけど汚れるの! 名前が! まだなんの神か決まってないのに!」


 できればエロ漫画とかエロゲーの神希望。

 だめなら貧乏神とか……って貧乏神は日本だと女神だっけ。黒闇天。

 大穴で男の娘の神……いわゆるゴッド……。

 だめだネタしか浮かばない!


「く、ええい! 土遁の術!」


 ばふんッ!

 俺は煙幕を投げる。

 土遁でもなんでもない件。


「あ、待て! 逃げたぞ! 今どきシーフですら使わない技をいつの間に!」


「ラルフ様が逃げたぞ! 追え! 先に捕まえて神聖国に連れ帰るのだ!」


「ふははははははは! 捕まらぬ! 俺は捕まらぬぞー!」


 逃げているとジェイソン所長が見える。


「ジェイソン所長! かくまってください!」


「あ、ラルフくん、こっちこっち!」


 部屋に入るとジェイソン署長は鍵をかける。

 ふう、助かった。


「ルカ様ー! ラルフくん捕まえましたよー!」


「あ、てめえ! 裏切ったな!」


「宮仕えの悲しいところです……神に逆らうなど……本当に悲しいものです」


 嘘つくんじゃねえ! 顔がニヤけてるぞ!


「にゃああああああ! 空蝉の術!」


 ばふん。

 煙幕を投げて天井の通気口から逃げる。

 くくく、逃走経路は把握済み。

 俺はどこまでも逃げてみせる!


「ラルフはこの城のすべての通路を把握しておる! 通風孔まで探すのだ!」


 くくく、遅いわ!

 俺は通風孔から外に脱出。

 壁を伝って下に降りる。

 すると声がする。


「おーい! ばーかばーか! いくよー!」


 ほいっとセイラが窓から飛び降りた。


「うんぎゃああああああああああッ!」


 俺は瞬時に触手を呼び出しセイラをキャッチする。


「こ、このばかちんがー!」


「あははははは! 私達は一心同体! 置いていこうとしても無駄ですよーだ!」


 そしてもう一人。


「ラルフくん! 行くよー!」


「おぎゃあああああああああああッ!」


 ルカも触手でキャッチ!


「ラルフくん! お外行こうよ!」


「いや待て! ついてくるつもりか!?」


 セイラがにやあっと笑う。


「ふふふ、ここにジェイソンを脅して巻き上げた……じゃなくて喜んで寄付してくれた浄財があります」


 しゃらんと取り出すのは、銅貨と銀貨が詰まった財布。

 そのままなのでどう考えてもカツアゲしたものだ。


「鬼かお前は」


 モヒカンヒャッハーですよ。奥さん。

 最近の賢者って怖いわねえ。


「と、とにかく夕方までこれで遊びましょう!」


「ルカ、バカは放っておいて俺達だけで遊びに行こうぜ」


「うん!」


「あ、私を置いていこうとするなー! ばかー!」


 開幕ダッシュの地獄が終わり、俺と家族の暮らしはこれからも続く。

 これからはスローライフでゆったりした生活が……ねえわ。

 神の世界にどっぷり浸かってしまった俺。

 神でありながら亜神の力しかない俺は……神からすれば便利な新人だ。

 そして新人はどこでも無茶ぶりされるもの。

 つまりこれからも神様になにをされるかわからない。


【でしょうね。まあ0歳児からずっとそうですから】


 賢者ちゃん……ナチュラルに念話で思考を読むのやめて。


【ラルフくんにプライバシーとかありませんから!】


 鬼か! 鬼か貴様は!

 ……まあ相棒もいるし、なんとかなるだろう。


「ラルフくん! ラルフくん! 屋台が出てる、はやく行こう! ぼく、屋台ってはじめて!」


 ルカの無邪気さに救われる。

 まあ、今は考えてもしかたがない。

 次はみんな助けてくれるだろう。

 俺は雑貨屋の前を通る。

 俺たちが開発した将棋の盤が置いてある。

 駒の角はフェイのおっちゃんをモデルにしてる。

 ルカと相談してそうしてもらった。

 おっちゃん、俺、がんばるよ。これからも。


「むがががががが!」


「セイラちゃん! そんな口に詰め込んじゃだめだよ!」


「アホかお前! ほら! 飲み物買ってきてやるから」


 俺の未来はどうなるかわからない。

 でもどうにかなるんじゃないかな。

 押すなよ押すなよ。絶対押すなよ。……先に言っておく。

 俺はジュースを持っていく、ハムスター状態のセイラの背中をルカが叩く。

 セイラが落ち着くと俺達は大きく笑った。

 この笑顔が見られただけでも死にかけたかいはあったのかもしれない。

 人として生きよう。しばらくは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肉塊転生 藤原ゴンザレス @hujigon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ