第19話 聖女復活

【ご、ご主人さま! はやく蘇生! 蘇生してください!】


 お、おう!


「光の神よ。万物を照らす慈愛を。命を救い、死者を葬る光を」


 外部ユニットを収納していたせいで俺へのダメージはゼロ。

 脳みそこぼしても蘇る完璧な回復。

 今だったら末期の膵臓がんでも一瞬で治せる!

 だがセイラはピクリともしない。

 ……どうする?

 すると王様が俺にぼそっと耳打ちする。


「ラルフよ……ここで聖女に死なれると神聖国と戦争になってしまう。神の力でなんとかならぬか?」


 おー……おー……責任重大。

 6歳児に責任負わせるのおかしくね?

 でも戦争とか気分が悪い。

 賢者ちゃん! どうすれば治せる?


【無理です……蘇生可能性0%……です】


 はい? え? なんで?


【すでに魂が神の国に還られました……】


 はいいいいいいいいッ!

 復活させるにも魂がすでに神のものだと!

 俺は陛下に耳打ちする。


「無理です」


「ええー、頼むようー……」


 んなこと言われてもむーりー!


「すでに魂は天の高みに登られたようです。どうやっても無理です」


 王様の顔が絶望に染まる。

 俺も困ったよ!

 フェイのおっちゃんのときもそうだった。

 発見時にはもう魂がなかったのだ。

 だから蘇らせることはできなかった。

 それにジェイソン所長もそれだけはやめてくれと俺に懇願した。

 やはり人の生死はセンシティブな問題なのだ。

 ……だけどだ。その瞬間、俺の頭の中に悪魔的発想が浮かんできた。

 浮かんじゃったのだ。


【え、ちょ、ご主人さま! その考えは!】


 やっぱり思考を読んでたな。

 俺はニッコリ笑う。

 ねえねえ、賢者ちゃん。体欲しくない?

 美味しいものあるよ。


【え? ちょっと欲しいなって思ったことはありますけど! いくらなんでも倫理的にまずいでしょ!】


 俺の考え、それはセイラの体に賢者ちゃんを移植すること。

 さんざんポイントを食い散らかした賢者ちゃんはすでにAIを超えた存在。

 部屋の隅で迷子になっていたあのときとは違うのだよ!

 そう一個の魂。むしろ地母神の眷属ということを考慮すれば、その存在はすでに亜神とも言えるだろう。


【だから部屋の隅で迷子になったことなんてありません!】


 ええい!

 このまま戦争になればたくさんの犠牲者が出るのだよ!

 倫理観ごときで躊躇していいと思っているのか!

 断ったら賢者ちゃんのせいで人が死ぬんだぞ!

 責任取れるのか!


【え? え? え? 悪いの私!? ええええええええ! ちょっと待って! 拒否権は!?】


 そんなもん、ねえ!

 さあ賢者ちゃんよ!

 聖女セイラとして復活するのだ!

 今日こそお前の伝説のはじまりだ!

 俺はこの王国から賢者ちゃんの伝説を見守ってやる!

 ただ見守ってやる! なにもしない!

 神聖国に帰って内側から地母神の信仰で満たしてやるのだ!


【ふっざけんな! 絶対にここに居座ってご主人様に仕返ししてやるうううううううううううッ! ばーか、ばーか、ばーか!】


 やってみろよバーカバーカバーカ!

 はい詠唱!


「死と再生の神よ。破壊と再生の円環を壊し、魂を救済せよ!」


【絶対に仕返ししてやるー! おかし取りあげますからね! ごはんも取り上げますからね! ゔぁかあああああああああああああああああああああああッ!】


 きゅうううううううんっと音がし、スポンっと魂がセイラの中に入った。

 さあステータス確認っと。



 名前:セイラ・ゴッドフリート(賢者)

 種族:亜神

 LV:1

 HP:5/5 MP:70000/70000

 力:1 体力:1 知力:99999 魔力:28000 器用さ:1 素早さ:1 EXP 0/65535


 スキル


 魔法 LV:9999 森羅万象 LV:MAX


 スキルポイント:0


 称号:光の神の使徒、地母神の使徒、スキルポイントイーター



 ぱちりとセイラの目が開いた。

 そのままむくりと起き上がる。


「うおおおおおおおッ! 聖女様ああああああああッ!」


 神聖国の侍従たちが泣き叫ぶ。

 そんな彼らに聖女セイラは優しく微笑んだ。

 だが俺にはわかる。あのツラはブチ切れた表情だ。

 だってこめかみがピクピクしてるもん。


 殺される!


 俺は聖女に背を向け逃げようとする。


「お待ちください」


 俺はセイラにぎゅっと抱きしめられる。

 それは立ち去ろうとした騎士を後ろから抱きしめた姫の姿に見えた。

 だけど俺はわかる。

 単に『逃げんなてめえ!』と羽交い締めにされたのだと。

 そして羽交い締めを振りほどいたら最後、俺の社会的地位は地に落ちるのだと。


「ちょ、賢者ちゃん! 離せ! 離してくれって!(ぼそぼそ)」


「死なばもろともです(ぼそッ……)」


 聖女は微笑んだ。

 内心ブチ切れながら。


「つい先程、託宣が降りました。

私は地母神の使徒たる亜神ラルフの伴侶になります」


 なに言ってやがんの?

 そう思った瞬間、ゾクゾクゾクッと背筋が凍った。

 俺はカクカクと膝を震わせながらルカを見る。

 ルカは虚ろな目をしながら、髪を口に咥えていた。

 やめて! ヤンデレに目覚めるには早すぎる!

 焦る俺。

 だが賢者ちゃんは容赦なかった。


「私を捨てられると思ったら間違いですからね(ぼそっ)」


 ……ぞくぞくぞくぞく!

 俺の背筋にとてつもなく冷たいものが走った。

 こ、こいつからもヤンデレの波動を感じる。

 まだ生まれたばかりのヤンデレが……!

 陛下が頭を抱え、父ちゃんは立派に護衛をしながらも顔が真っ青になっていた。

 俺はなるべく冷静を取り繕いながら、神聖国の使節団に向かって説明する。


「聖女セイラを蘇生するために地母神アデル様との契約に基づいた古代魔法を使いました。能力の消失、記憶の欠損などが代償になります。また聖女の称号の剥奪になります」


 そう言うと神聖国の使節団たちが真っ青な顔で頭を抱えた。


「そ、そんなセイラ様はもう使徒ではなくなったのですか!」


「いいえ。光の神の使徒であり、地母神の使徒でもあります。そして今回の古代魔法を経て死を乗り越え人間から亜神になられました」


「な、なんと! それでは神どうしのご婚姻と!」


 それは全力で否定……。

 と思った瞬間、賢者ちゃんこと聖女セイラが宣言しやがった!


「そうです! 我らは対にして一つ。一柱の神なのです!」


 てんめえええええええええええええッ!

 おもいっきり適当なことを抜かしやがった!

 俺はセイラを見る。

 セイラは俺にだけわかるように首を掻っ切る仕草をした。

 ぐ、俺の脳内からありとあらゆる知識を得た賢者ちゃんは……俺と同等の存在。

 つまり俺と同じ程度のおバカなのだ。

 そう……自分で言うのもなんだが……骨を斬らせて肉を斬っちゃう系バカ。

 神聖国に行ったほうがいいんじゃないのかとか一切考えてない。

 俺に勝つことだけを考えて暴走したのだ。


「うおおおおおおおっ! 聖女様ばんざーい!」


 使節団が涙を流しながら平伏する。

 ほら……収拾つかなくなった。

 こうして俺は……王国と神聖国を支配する世界の覇者(予定)になってしまったのである。

 家出していいですか?

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